「パラグアイの秋葉原」

 国境を越えてシウダー・デル・エステの町に入ったとたん、1枚のチラシを押し付けられた。チラシにはノートパソコンやカメラなどの電化製品の写真が並んでいる。客引きにスペイン語でまくしたてられる。スペイン語が分からないと伝えると、今度はグアラニー語。先住民の言葉で、パラグアイの公用語の1つ。さらに分かるはずもない。おそらく店に来いと勧誘しているのだろう。客引きの指差す方向には巨大なショッピングモールが並んでいた。
 ブラジルと国境を接するシウダー・デル・エステは「南米の香港」と称されるパラグアイ第2の都市。電化製品や情報機器が安い価格で手に入るので、ブラジルやアルゼンチンから国境を越えて買い物客がやってくる。友人Aの言葉を借りれば「パラグアイの秋葉原」だ。
 さらに、近代的なショッッピングモールのビルの合間に露天商が軒を並べている。衣類や毛布、腕時計などを売る闇マーケットだ。『パラグアイを知るための50章』(編著・田嶋久蔵、武田和久)によると、統計に表われない国境貿易が盛んで、ブラジル人の担ぎ屋が大量の商品を買い付けに来ているという。
 私たちがこの都市にやってきた理由は「パラグアイの秋葉原」で買い物をするためではなかった。イグアスの滝の水力を利用した世界最大規模の「イタイプー・ダム」を見学しようと思ったからだった。
 2月11日早朝、アルゼンチンのプエルト・イグアスから、ブラジルのフォス・ド・イグアスを経由して、シウダー・デル・エステに向かった。ブラジルとパラグアイとの間に架かる「友情の橋」まで来たとき、バスが停車。ブラジル側からの買い物客の渋滞に巻き込まれた。45分ほどバスの中で待機して、パラグアイに入国。活気のある商業都市が出迎えてくれた。
 すぐにローカルバスに乗込み、イタイプー・ダムへ。パラグアイとブラジルの共同プロジェクトで建設された水力発電所を見学する。無料でダムやタービンなどを見学できるのだが、残念ながら解説はすべてスペイン語だった。『地球の歩き方』によれば、20基あるタービンのうち、1基の半分でパラグアイの使用電力が賄えるのだという。残りの電力はブラジルに売電している。
 ダム見学を終えて、シウダー・デル・エステのショッピングモールを見て回る。電化製品を宣伝してきた客引きに値段を尋ねると、ブラジルの通貨のレアルで値段を言われた。さらに、よく見ると商品は米ドルで値段が表示されている。パラグアイの通貨のグアラニーでの値段はわざわざ計算してもらわなければならない。この町の経済活動が外貨で回っていることがうかがえる。
 ある外国の食料品を扱う商店を訪れたとき、アジア系の店主からカタコトの日本語で声をかけられた。話を聞くと、2年間愛知県で出稼ぎをした経験があるという。また、シウダー・デル・エステには「來來(Lai Lai)」や「Mina India」という名のつくショッピングモールを見かけた。中国やインドなどアジア人の進出も盛んであると推測する。
 シウダー・デル・エステは日帰り。アルゼンチンのプエルト・イグアスへ、往路と同じ道をバスで戻る。バスには大量の電化製品や衣類を買い込んだと見られる家族が乗車していた。



イタイプー・ダム
















「來來」の中にある電化製品販売の店舗
















ショッピングモール「Mina India」

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●No.1 リトアニアの3.11
●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街
●No.5 愛しのツェペリナイ
●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常
●No.8 検証:リトアニアの噂 前編
●No.9 検証:リトアニアの噂 後編
●No.10 プラハで出会った哲学男
●No.11 魔女の丘、そして悪魔の館へようこそ
●No.12 お後がよろしくないようで
●No.13 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 前編
●No.14 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 後編
●No.15 時は今?雨が滴しるカウナス動物園
●No.16 リトアニアの第二の宗教
●No.17 ベン・シャーンとチュルリョーニス
●No.18 イグナリナ原発に行ってみたら 前編
●No.19 イグナリナ原発に行ってみたら 後編
●No.20 行きあたりばったりの旅
●No.21 牛肉の国
●No.22 ガイドは陽気なポルテーニョ
●No.23 バルデス半島の動物たち
●No.24 石油の町
●No.25 マテ茶との出会い
●No.26 「世界最南端の都市」のタラバガニ
●No.27 氷河の味わい
●No.28 無煙のフィッツ・ロイ
●No.29 「甘い」話
●No.30 ボデガでほろ酔い
●No.31 激動のチリ近現代史
●No.32 インカコーラの罠
●No.33 パチャママの怒り
●No.34 インカの安らぎ
●No.35 ビール飛び散る聖母の祭り
●No.36 ガイドの勘
●No.37 カファジャテのトロンテス
●No.38 濡れ鼠にハナグマの襲撃

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