ガイドの勘

 「プロフェッショナルY」。寡黙だった日系ブラジル人が口を開いた。彼はウユニ塩湖3回目のリピーター。「Y」とは「UYUNI」の2文字目の「Y」のこと。雨期のウユニ塩湖では人影が綺麗に反射する「天空の鏡」を生かして、様々なポーズの写真を撮影するのがお決まりとなっている。人気のポーズの1つがツアー参加者9人で「UYUNI」の人文字の影を湖面に映し出すというもの。その撮影の前にすかさず申し出たブラジル人の彼。ウユニ塩湖3回目にして、「Y」のポジションを極めたようだ。
 ウユニの町に到着したのは2月5日の早朝6時頃。夜行バスに揺られてボリビアの首都のラパスからやってきた(憲法上の首都はスクレ)。前日の4日はラパスを散策。世界最高地点にある首都だけに、ぶらりと町歩きをするだけでも息切れを起こす。
 ラパスでは「ミ・テレフェリコ」という2014年に完成したばかりのロープウェーに乗ってみた。このロープウェーは観光用ではない。通勤や通学などの日常生活用。交通渋滞を緩和するために造られた。よって、わずか3ボリビアーノ(約51円、1ボリビアーノ=17円で計算)の料金で、ラパスのすり鉢状の街並みを空から遊覧することができる。
 ウユニ塩湖へはH社のツアーを利用。日本人の参加者が多い。申し込んだのは昼間のウユニ塩湖を楽しむ「デイツアー」と夕日のウユニ塩湖を堪能する「サンセットツアー」。ウユニ塩湖を楽しめるかどうかは天候次第。他の参加者の中には、最高のタイミングを待つため、5日間ウユニに滞在するという日本人もいた。しかし、私たちに与えられた時間は1日だけ。朝から続く快晴がもってくれることを願う。午前10時30分頃、4WDの車に乗って、ウユニの町を出発した。
 ウユニ塩湖に到着したとき、天気は良好のまま。鏡張りの美しい塩湖の上で、ガイドが用意してくれた昼食のフラミンゴの肉を食べる。そのあとは、ツアー参加者総出で写真撮影。「UYUNI」の人文字の他に、組体操の扇形のポーズやアニメ「ONE PIECE」の名場面のポーズなどで写真を撮った。
 今度は水の張っていない場所へ移動。「トリック写真」を撮影する。ガイドがゴジラの人形やポテトチップスの空き容器の筒を取り出し、真っ白な塩湖の背景と遠近法を使って写真を撮影してくれる。目の錯覚で、巨大なゴジラと戦っているような写真やポテトチップスの筒の上を歩いているような写真が撮れた。
 午後16時半頃、塩のホテル「プラヤ・ブランカ」で休憩していると、暗雲が空を覆いはじめた。横殴りの強い風も吹きはじめる。不安を感じながら、ガイドの方を見ると、のんきに缶ビールを飲んでいる。「サンセットは大丈夫か」と聞くと、ガイドは浮かない表情。サンセットは駄目かも知れない。
 駄目もとでサンセットが綺麗に映りそうなポイントを探す。ウユニ塩湖を車であっちに行ったりこっちに行ったり。しかし、雲に覆われた塩湖で、サンセットの絶景は断念するしかないとガイドが言う。諦めようとしたとき、別の車の年配のガイドが「少しだけ良さそうな場所がある」と伝えにきた。その言葉を信じて車を走らせる。しかし、結果はさらに悪くなってしまった。
 完全に諦め切ったツアー参加者を尻目に、再びガイドは車を走らせはじめた。到着したのは先ほどとあまり代わり映えのない地点。しかし、到着して数分後、地平線にのびる雲の隙間から赤い夕日がさしはじめたのだ。昼間とはひと味違ったウユニ塩湖の景色にしばらく見とれていた。経験に裏づけられたガイドの勘に感謝である。
 明日は旅のふりだしのアルゼンチンに戻る。いよいよ旅も終わりに近づいてきたと実感する。塩湖の強い日差しで火照った体をウユニのホステルで休ませた。



湖面に「UYUNI」の人文字の影が映る
















塩湖の上にある塩のホテル
















夕日に照らされるウユニ塩湖

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●No.4 カウナスという街
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●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常
●No.8 検証:リトアニアの噂 前編
●No.9 検証:リトアニアの噂 後編
●No.10 プラハで出会った哲学男
●No.11 魔女の丘、そして悪魔の館へようこそ
●No.12 お後がよろしくないようで
●No.13 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 前編
●No.14 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 後編
●No.15 時は今?雨が滴しるカウナス動物園
●No.16 リトアニアの第二の宗教
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●No.18 イグナリナ原発に行ってみたら 前編
●No.19 イグナリナ原発に行ってみたら 後編
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