愛しのツェペリナイ

 ここ最近、平日はほとんど毎日のようにツェペリナイと日中を共に過ごしている。もはや彼女なしには今後の留学生活は考えられないと言ってもいいだろう。彼女と始めて出会ったのは留学2日目。リトアニア人の友人たちに連れられて入った、カウナスのショッピングモール内にあるとあるレストランだった。 
 今思えば、始めての出会いはあまり芳しいものではなかった。彼女の見た目はずんぐりむっくりのおデブちゃんで、肌の色は白人というより黄色人。スタイリッシュな白人金髪美女の誉れ高いリトアニアで生まれ育ったにもかかわらず、である。正直、彼女は万人受けするタイプではない。少しねちねちしたところがあり、結構付き合うとなると重たいタイプ。しかし、この数ヶ月で私は完全に彼女の魅力の虜になってしまった。クセの強さが何とも堪らないのだ。そう、彼女こそが最大にして最強のリトアニアの代表料理、ツェペリナイである。
 ツェペリナイは挽肉団子を餅のような食感のジャガイモ生地で包んだ料理。名前の由来はリトアニア語で飛行船を意味するツェペリンという言葉から。ずんぐりむっくり加減が飛行船そっくりである。大抵、サワークリームやキノコのソースがかかっていて、脂っこさは半端ではない。油の海に墜落した飛行船という形容があながち誇張ではない程に、非常にファットな料理である。
 大学には学食のようなものがないため、料理が大の苦手な私は、平日の昼食には、ほとんど地元のヴァルギクラと呼ばれる食堂に足を運ぶ。食堂のおばちゃんたちは当然英語は分からないので、リトアニア語で毎回注文するしかない。といっても基本的に「プラショー・ヴィエナ・ツェペリナ(ツェペリナイ1つお願い)」か「プラショー・ドゥ・ツェペリヌス(ツェペリナイ2つお願い)」の2つのバリエーションを空腹具合に応じて使い分けるだけである。最近は、おばちゃんたちも「君はどうせ今日もツェペリナイでしょ」という雰囲気をバンバン醸し出してくるので、リトアニア語の修練をさらに積んで、いつかおばちゃんたちの度肝を抜きたいと思っている。ちなみにこのヴァルギクラのツェペリナイは1つ3.25リタス。日本円にすると120円ほどである。
 リトアニアには他にも風変わりな伝統料理が多い。基本的にジャガイモ使った料理が中心である。ジャガイモのパンケーキであるブルヴィニェイ・ブリナイやジャガイモのソーセージであるブルヴィニェイ・ヴェダレイなど。
 ツェペリナイに並ぶ私のおすすめは、湖上に浮かぶ赤煉瓦のトゥラカイ城で有名なトゥラカイ発祥のキビナイ。挽肉やキノコなどをパイ生地で包んだ料理で、リトアニア中のスーパーの惣菜売り場やパン屋に必ずある。
 スープは赤カブのスープやボルシチが一般的だが、なかでも目を引くのがシャルティバルシチェイである。特徴は何と言ってもその色。絵の具の赤色と白色を混ぜたような、自然色とは思えない鮮やかなピンク色である。赤カブと牛乳、サワークリームから作られ、千切りにされた赤カブ、キュウリ、ネギが入っている冷製スープ。夏になるとリトアニアの多くの家庭で作られるそうだ。
 そして忘れてはいけないのが、リトアニアのビールについて。今年二十歳になった小童の私でも感じるぐらいに、リトアニアのビールは一口飲めば深いビールのコクと味わいが口の中いっぱいに広がる。リトアニアのビールに慣れると日本のビールの味が薄く、味気なく感じてしまうかもしれない。また普通のビールだけでなく、黒ビールも結構飲まれている。そしてもう1つ特筆すべきはその安さ。リトアニアは日本と比較すると全般的に物価が安いのだが、ビールの価格はその中でも一頭地を抜いている。普通のスーパーで販売されている500ミリリットルの瓶ビールがおよそ2?3リタス。日本円にすると80円?120円ほど。リトアニアでは割引が盛んなので、70円を下ることも珍しくはない。ビールの定番おつまみといえばケプタ・ユオダ・ドゥオナ。ロシアや東欧で広く食されているライ麦パン、いわゆる黒パンをただ油で揚げただけのもの。お好みでガーリックやチーズを付けて食べるのだが、この単純なスナックがビールとの相性抜群である。
 宴は礼に始まり礼に終わるというが、是非とも私のリトアニア留学生活はツェペリナイで始まりツェペリナイで終えたいと思っている。そして今日もいつもと変わらず、愛しのツェペリナイは私の胃袋にちゃんと収まっている。
(2013年6月4日)
カウナス最大のショッピングモール・アクロポリス。言ってみればリトアニア版イオンモール
アクロポリス3階のリトアニア料理レストラン。ツェペリナイと最初に出会った記念すべき場所
ライスヴェス通りにある軽食堂・ヴァルギクラ。ガイドブックには載っていない地元民のための食堂
食堂のツェペリナイ。店によって大きさはまちまち
豚などの腸にジャガイモを詰めたブルヴィニェイ・ヴェダレイ。スラブ語圏ではキシュカと呼ばれる
トゥラカイの名物・キビナイ。トゥラカイ城近くのキビナイ専門店・キビニネにて
リトアニア夏の風物詩・シャルティバルシチェイ。リトアニア人の友人の母親お手製のもの
シュヴィトゥリスはリトアニアで有名なビールの1つ。シュヴィトゥリス・ブルワリーは港町クライペダに本社を置く
黒パン揚げスナックのケプタ・ユオダ・ドゥオナ。カリカリ感が何ともたまらないビールのお供

backnumber
●No.1 リトアニアの3.11
●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街

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