時は今?雨が滴しるカウナス動物園

 リトアニア唯一の動物園はカウナスのオークの木立の中にある。大きさは15.66ヘクタールで、日本でいえば秋田市大森山動物園と同じくらいの規模。留学先のヴィタウタス・マグナス大学の教授であった動物学者タダス・イヴァナウスカスによって1938年に設立され、今年で75周年を迎える歴史ある動物園である。
 リトアニアに来てから10ヶ月あまり経って初めてカウナス動物園にお邪魔することとなった。留学当初からリトアニア人の友人に動物園の存在は知らされていたものの、あまり乗り気はしなかった。なぜなら、そもそも動物園がもともと大好きというようなタイプではなかったからだ。
 そして自分は動物園に数える程しか行っていないド素人であるにもかかわらず、海外の動物園の質など日本のものと比べればどれほどのものかという考えがあった。
 今年の夏休み、淡水魚好きの日本人の友人とスペイン・バルセロナを旅した。その時、友人の強い希望でヨーロッパ最大規模の文句を謳うバルセロナ水族館に行くこととなった。バルセロナ水族館は地中海に浮かぶバルセロナのウォーター・フロントである「ポルト・ベイ」にあり、ショッピングセンターや映画館に囲まれ、豪華で優雅なたたずまい。日本海の荒波と岩礁に囲まれた秋田県立男鹿水族館GAOとは全く対照的である。
 バルセロナ水族館は入館料19ユーロと、なかなかのお値段。ヨーロッパの多くの博物館などで大幅割引が効くEU圏の国際学生証を提示するも、「本館では適応されません」とすげない応対。結局水族館にそこまでの関心がない私は諦め、友人1人で行くこととなった。
 小一時間経った頃、水族館を出て来た友人は満足そうな顔つきではなかった。友人は「期待していた以上のものではなかった」と残念そう。さらに彼は自分が淡水魚専門で、一方のバルセロナ水族館が海水魚メインだったことを断ったうえで、こんなことを言っていた。「正直これまで行ったことのある日本の水族館、例えば海遊館や美ら海水族館などのレベルからすると、そこまで高くはなかったよ。例えば、よく見れば水槽の掃除が行き届いてなかったり、中には死んで浮いている魚がいたりと日本ではあまり考えられない。閉館前だったということもあるのかもしれないけど、期待が大きかった分少し残念。いずれにせよ海外の水族館を初体験できて良かったよ。」
 それから海外の動物園や水族館の質はそこまででもないのかなと勝手に思っていた。その上、実際カウナス動物園に行った日本人留学生から「寒い時期だったからかもしれないが、動物がほとんど眠っていて姿を現していなかった」と聞いていたから余計にカウナス動物園への興味が冷めていた。
 そんな中「タダより安いものはない」派の私の足をカウナス動物園へ運ばせたのは、何を隠そうタダで入場できるチャンスが巡って来たからだ。
 ヨーロッパにはESNという留学生グループのネットーワークがあるのだが、そのヴィタウタス・マグナス大学支部もしばしば留学生向けイベントを開催する。10月26日のイベントは「カウナス動物園を助けよう!」という名前で、1時間ほど清掃活動に従事する替わりに、入場無料で動物園を観覧できるというものだった。
 当日は不運にも曇天だった。動物園に到着すると、期待が相当低かった分、逆に想像以上の来園者やアクティブな動物の姿に驚いた。園内には世界各地から集められた200種類を代表する2000匹を超える動物が飼育されている。そんな中、リトアニア版田中邦衛というような風貌の飼育員が現れ、その方から熊手で枯れ葉を収集するように指導を受けた。長年に渡って働かれているというその飼育員の方に「天気が悪いのにお客さんは結構いらっしゃいますね」と尋ねた。すると「いや、これでは全然駄目だよ。カウナス動物園は経営が今非常に厳しいんだ。改装工事を進めようとしているんだけどお金の工面がなかなかできないんだよ。その上、動物園のレベルもヨーロッパの基準に達していない」と語ってくれ、「それじゃ、後よろしく」と言って去っていた。その後、数分も経たないうちに雨がしとしとと降り始めた。
 枯れ葉の掃除で靴は泥まみれ、情けないことに手にはマメをつくってしまった。うんざりするような雨の中の作業を終えて、園内を廻るとすでに多くの動物たちは姿を見せなくなっていた。到着後すぐにちらっと見たキリンやラクダは舎内に隠れ、ライオンやトラに至ってはもうどこに行ってしまったのか気配すらない。唯一楽しめたのは屋内展示室内で鑑賞できる鳥や熱帯魚、カエル、ヘビなど。
 「骨折り損のくたびれ儲け」というのか「タダより高いものはない」というのか分からないが、とにかく動物園の質や入場料どうのこうのと言う前に、「動物園は晴れに限る」という至極もっともなことを肝に銘じさせてくれたカウナス動物園だった。








カウナス動物園の正門




















動物園の飼育員の方から説明を受ける




















屋舎に隠れてしまったキリン




















ハ虫類館の屋内展示のヘビ

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●No.1 リトアニアの3.11
●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街
●No.5 愛しのツェペリナイ
●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常
●No.8 検証:リトアニアの噂 前編
●No.9 検証:リトアニアの噂 後編
●No.10 プラハで出会った哲学男
●No.11 魔女の丘、そして悪魔の館へようこそ
●No.12 お後がよろしくないようで
●No.13 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 前編
●No.14 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 後編

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