行きあたりばったりの旅

 「この旅の方針、それは『行きあたり』ばったりだ」。1952年1月4日、ブエノスアイレス大学の医学部生だったチェ・ゲバラは、年上の友人アルベルト・グラナードとともに南米大陸を放浪する旅に出る。ブエノスアイレスからパタゴニアを経てチリ、ペルーへと北上する若者の2人旅。旅の道中でゲバラは南米の貧困の現実を目の当たりにする。この旅が革命家の道を歩むきっかけとなったといわれている。はじめの言葉は、ゲバラの旅の日記をもとにした映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』(ウォルター・サレス監督)の一節だ。
 2015年1月4日、成田国際空港。私はアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに向かうエミレーツ航空のボーイング777-300機に乗り込んだ。偶然にもゲバラと同じく、1月4日からはじまる男2人の南米旅行。大学4年の私にとっては大学最後の海外旅行になる。旅をともにするのは大学で知り合った年上の友人A。お互い4月からの就職を控え、1月から3月にかけての大学の長期休暇を旅に費やそうと意気投合したわけだ。
 旅先に南米を選んだ理由は単準だった。「仕事をはじめると長期の旅行は厳しいよ。就職前に海外旅行に行っておくべきだね」。内定先のある先輩社員からアドバイスをいただいた。大学生として最後の長期休暇。果たしてどこに行くべきか。時間がたっぷりないと行けない場所。答えは簡単だった。日本から最も遠い国を目指そう。旅の行き先は南米と決まった。
 エミレーツ航空を利用したのははじめて。航空券代金は空港税や燃油サーチャージなど合わせて15万8940円だった。エミレーツ航空はドバイに拠点を置く航空会社。アラビア語の機内アナウンスは新鮮だ。機内食の「牛肉の炒めもの(オリーブとケッパーソースがけ)」はハラール。イスラム教徒への配慮が徹底してある。快適な空の旅だ。
 といっても地球の裏側まで行くには時間がかかる。成田国際空港から約12時間をかけアラブ首長国連邦のドバイ国際空港へ。2時間ほどで飛行機を乗り換え、約13時間をかけてブラジルのリオデジャネイロの空港に辿り着く。そして2時間ほど空港で待機し、約2時間30分かけアルゼンチンのエセイサ国際空港へ辿り着く。飛行時間は約27時間30分。間食のピザも含めると機内食を6食もお腹に収めた。
 5日19時20分頃、夕日のまぶしいエセイサ国際空港へ到着。ブエノスアイレス市街へ直通の空港バスを利用する。ガイドブック『地球の歩き方』の情報では80アルゼンチン・ペソだったが、130アルゼンチン・ペソと約1.5倍値上がり。インフレの影響かもしれない。
 バスターミナルに到着後、暗闇のブエノスアイレスの街を歩く。7月9日大通りに立つ白い塔「オベリスコ」近くにある安宿「Hostel Suites Obelisco」のドミトリーに宿泊。明日の宿はまだ決めていない。ゲバラと同じく、行き当たりばったりの南米旅がはじまった。







1日目の機内食「牛肉の炒め物」




















リオデジャネイロの空港に停まるエミレーツ航空のB777-300機

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●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街
●No.5 愛しのツェペリナイ
●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常
●No.8 検証:リトアニアの噂 前編
●No.9 検証:リトアニアの噂 後編
●No.10 プラハで出会った哲学男
●No.11 魔女の丘、そして悪魔の館へようこそ
●No.12 お後がよろしくないようで
●No.13 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 前編
●No.14 ブラジルへの切符を求めてやってきたボスニアのムスリムの話 後編
●No.15 時は今?雨が滴しるカウナス動物園
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●No.17 ベン・シャーンとチュルリョーニス
●No.18 イグナリナ原発に行ってみたら 前編
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