検証:リトアニアの噂 後編

物価が安い?
 ホント。日本の物価と比べればリトアニアの物価は驚くほど安い。当然世界を見れば、東南アジアなどの発展途上国の方がより安いと言えるのだろうが、品質や店舗状態などはヨーロッパ先進国のレベルとほとんど変わらないので、実質的に非常にお得である。特にリトアニアは食料品が低価格。今年2月28日付けの15ミニッツ(リトアニアの大手タブロイド紙)オンライン版に、スウェドバンク(バルト3国の大手銀行)による「4人家族世帯の一ヶ月あたり平均の食費」の調査結果が掲載されていた。記事によれば、リトアニアが965リタス(約3万6670円)、エストニアが1051リタス(約3万9938円)、ラトビアが1100リタス(約4万1800円)。単身世帯を含めた日本の総世帯の月平均食費、5万8376円(2011年・総務省調べ)と比べれば、その差は歴然だろう。
 最近はアベノミクスの影響で、円安傾向にあり、私を含めて世界中の留学生の財布が泣いていることだろうが、それでもリトアニアの生活費の安さはなお魅力的である。地元スーパーで販売されている食品の中で驚異的な安さを誇る1本0.79リタス(約30円)の白パンと1袋0.49リタス(約19円)の即席麺、それに1カップ0.54リタス(約21円)のイチゴヨーグルトのトリオが私の留学生活を支えているといっても過言ではない。
 また割引が大好きなお国柄のようでスーパーでもレストランでも数多くの商品や料理が値引きされている。不思議なのはレストランにいつ行っても同じ品目が割引されていたり、店の前に大々的にクーポン券が並べられてあったりと、もはや割引の意味合いがなくなってしまっているのではと思うことも。いずれにせよ、この割引に留学生活が助けられているのでありがたい限りである。
 ちなみに法律で定められた今年の最低賃金は1時間あたり6.06リタス(約230円)。秋田県の最低賃金、1時間当たり654円と比べると3分の1程度しかない。

旧ソ連であるため接客サービスが悪い?
 ウソ。確かに「お客様は神様です」を掲げる日本と比較すれば、接客サービスでは明らかに劣る。しかし、他の西ヨーロッパ諸国と比較した時、接客サービスではおおよそ同水準といえるだろう。言うなれば、世界の平均値からすれば日本の接客サービスが「異常」なのだろう。海外でのショッピングにおける、日本式接客に慣れきった日本人客のマナーの悪さについてたまに小耳に挟むこともあるので、何事も功罪の両面があるということだろう。

愛国心が強い?
 ホント。リトアニアは歴史的に隣国の強大国に蹂躙され、国家存亡の危機に何度も立たされてきたため、リトアニア人としての民族意識は比較的強いように感じる。祝祭日には必ずと言っていい程、街で風にたなびくリトアニア国旗を目にするし、スポーツ大会やフェスティバルなどではリトアニア国旗色のTシャツや帽子、リストバンド、ミサンガなどを身につけた人たちを見かける。ごく普通の地元スーパーにリトアニアのグッズコーナーが常設されている。観光客などめったと見かけないので、おそらくリトアニア国民のためのものだろう。こういったところなんかはリトアニアの愛国心と少なからず関係しているのではないだろうか。

自殺率が高い?
 ホント。WHOの2009年のデータではリトアニアが34.1パーセントで不名誉の世界第一位。ちなみに日本は24.4パーセントで第8位であった。しばしば秋田県の自殺率の高さと日照時間の短さの関連性が指摘されるが、冬の寒さが厳しく、曇天の多いリトアニアにもこの理論は当てはまるのかもしれない。自殺率が比較的低く、日照時間トップクラスを誇ってきた(ここ最近は不調気味のようだが)香川っ子としては、ツライ限りである。

トイレの照明がブルー?
 ホント。すべてのトイレではないが、リトアニアに来てからブルーの照明に照らされながら用を足したことは数え切れない。地元のショッピングセンターや大学内のトイレなどがその例。理由をリトアニア人の友人に聞いてみたが、誰もご存じない。そこでネットの記事を漁ってみると、どうも青い照明の下では静脈血管が認識しづらいらしく、注射によるドラッグの使用を抑止できるとのこと。他には怖い雰囲気を醸し出すことで、逆にトイレ内での自殺を思いとどまらせる効果があるという説も。いずれにせよ、真実は謎である。
 話は逸れるが、リトアニアのトイレの立ち小便器の位置はリトアニア人の身長に合わせて設置されているので、日本のものと比べると心無しか高めである。

 いかがだっただろうか。これまで多くの日本人にとって未知のリトアニアを少しでも知ってもらって、興味をもってもらえたのであれば幸いである。
 この7月1日からリトアニアは新たな歴史の1ページを開いた。それは2004年にEUに加盟したリトアニアが2013年下半期のEU議長国に就任したのだ。「Focus Europe: credible, growing, open」をモットーとして、ヨーロッパの信頼性、成長性、開放性の向上に取り組む事を表明した。
 また今年、「鉄の女」の異名を持つリトアニア大統領、ダリア・グリバウスカイテがカール大帝賞を受賞。この賞は「政治のオスカー賞」として知られ、欧州統合に貢献した人物に送られるものである。受賞後は一部のマスコミなどから将来のEU大統領候補と報じられるなど、リトアニアへの注目度はヨーロッパで高まっている。
 今、リトアニアが熱い。















人気ピザチェーン店「チャーリー・ピザ」のメニュー。最大66パーセント割引でピザが食べられる














地元のスーパー内のリトアニアグッズ販売コーナー














「地獄から抜け出す道はない。それは苦痛と莫大な空虚でしかないのだ」とリトアニア語で書かれた橋の上の落書き。自殺を思いとどまらせるためのものか














ショッピンングモールにある青い照明が設置されているトイレ














リトアニアのEU議長国就任をアピールする垂れ幕。5月11日にヴィリニュス開催された「ヨーロッパの日」のお祭りにて

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●No.1 リトアニアの3.11
●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街
●No.5 愛しのツェペリナイ
●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常
●No.8 検証:リトアニアの噂 前編

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