検証:リトアニアの噂 前編

 よく人はなぜリトアニア留学を選んだのかと尋ねる。正直なところ、リトアニアでなければ絶対にならない理由などはなかった。留学先の志望申請の時期が来るまで、恥ずかしながらリトアニアについての知識は名前くらいしか知らないという状態だった。志望理由を述べるには、その国についての知識を深める必要があり、留学前に少なからず様々なリトアニアの情報を収集した。そして、そこから自分なりにリトアニアのイメージが広がった。今回はそんなリトアニアに関する噂やイメージが(留学に来て知った新事実も含めて)、留学半年を終えた今、ウソかホントか検証することを通して、リトアニアとはどんな国なのかということを知ってもらえればと思う。

バルト3国の1つ?
 ホント。これは、知っている人からすれば言わずもがなの感があるが、一般の日本人には相当馴染みがない地域なので、3国のうち一カ国も挙げられないという人も意外といるのではないだろうか。バルト3国は北からエストニア、ラトビア、リトアニアの3つの国を合わせた通称である。歴史的にこの3カ国が常に3つ子のように認識され、また自認して来たかというと実はそうではない。この概念自体は地理的な要因も然ることながら、ソ連により併合されて以来、非常に似たような支配による悲劇から独立までの道程を辿ったところに依るところが大きいように思う。言語的にはリトアニア語とラトビア語は同じインド・ヨーロッパ語族のバルト語派に属するが、エストニア語はウラル語族でフィンランド語により近い。
 余談になるが、私の祖父などは留学出発前に何度教えても「ラトビアでも元気にやれよ」と言い間違っていたので、おそらく祖父の頭の中では今ラトビア留学中であろう。

リトアニア語はロシア語に似ている?
 ウソ。これは大きな間違い。恥ずかしながら私は、この事実に留学先志望書を提出した後に気づいたわけである。どちらもインド・ヨーロッパ語族に属するものの、ロシア語はスラブ語派に属しておりキリル文字を使用するのに対し、リトアニア語はバルト語派に属し、ラテン文字(ローマ字)で表記される。スラブ語派は中東欧ヨーロッパに多く、ポーランド語、チェコ語、ウクライナ語などがこのグループ。一方、リトアニア語と同じバルト語派の仲間にはラトビア語がある。リトアニア人の友人が「リトアニア語とラトビア語は兄弟で、エストニア語はちょっと離れた従兄弟のような感じかな」と例えていた。また、リトアニア語は数多あるインド・ヨーロッパ語族の言語の中でも、言語学的に大変古い特徴を残しているとされ、いわば生きた化石のような言語。リトアニア人の多くがそのことを誇りにしているようだ。

旧ソ連であるためロシア語の学習環境が整っている?
 ウソ。これは比較する国や都市にもよるだろうが、例えば同じバルト3国のエストニアやラトビアと比べれば、明らかにロシア語が日常会話レベルで使われる場面は少ない。国別のロシア人住民の割合はリトアニアが約5パーセントであるのに対し、ラトビアとエストニアは両国共に約25パーセントと大きく異なる。特に留学先のカウナスとラトビアの首都リガのロシア人の割合を比較すれば一目瞭然で、カウナスは約4パーセントでリガは約40パーセント。リトアニアの首都ヴィリニュスに関して言えば、リトアニア人約58パーセントに次いでポーランド人が約18パーセントを占める。驚くべきことに、ロシアと国境を接するエストニアの町・ナルヴァにいたっては人口の95パーセントをロシア語系住民が占めるという。
 当然バルト3国一帯ではある年齢以上の人々がロシア語を喋れることは確実だが、カウナスのようにリトアニア人が大半を占める土地でロシア語を学ぶというのもやや肩身が狭い。なぜなら歴史的に反露感情も少なからず残っている様子だからだ。例えて言うなら、ヨーロッパ人留学生が中国で日本語を学ぶようなものか。しかし一方で、リトアニアの大学生の友人たちに聞いたところ、ほとんどが多かれ少なかれロシア語の授業を中等教育で受けていることも事実である(当然、第一外国語は英語だが)。
 ちなみに先学期ロシア語の授業を取得したが、残念ながら担当教官が非常に英語が苦手だった。そのためリトアニア語で授業が進んでいくことが少なくなく、留学生向けに配慮してくれる様子はあるものの、なかなかの試練だった。

美人が多い?
 ホント。美人かどうかは個人の感性やタイプにもよるところなので、一概に決めつけることはできないが、一般論としても、また自分の感性的にも美人は多いと思われる。ブロンド・長身・美脚を兼ね備えた美女が多い。ウィキペディア情報によれば、リトアニアは世界の国々の中で金髪人口の割合が最も高い国らしい。しかし、モデルのようにクールすぎる美しさが逆に冷たく感じられないこともないので、愛想の良さやチャーミングさが少し物足りないかも。
後編につづく















ヴィリニュスにある古いアパートのトイレの窓枠棚に放置されたままのマルクスとレーニンの本。ソ連時代の面影を伝える














ラトビアの首都・リガ。街中でロシア語を耳にする機会も多い














エストニアとロシアの国境を隔てるナルヴァ川。ナルヴァのエストニア人の割合はたったの4パーセント程














先学期ロシア語の授業で使用した教材。ロシア語もリトアニア語も語形変化が多く難解

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●No.1 リトアニアの3.11
●No.2 世界を知らない私と私を知ってくれている世界
●No.3 キョーゲン・イン・リトアニア
●No.4 カウナスという街
●No.5 愛しのツェペリナイ
●No.6 その人の名はスギハラ
●No.7 エラスムスの日常

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