マテ茶との出会い

 「バッグの中を見せなさい」。チリ入国の荷物検査で声をかけられた。チリでは動植物や果物などの生鮮食品の持ち込みが厳しく制限されている。発見されれば罰金の対象になるという。思い当たるフシがあるとすれば、日本から持ってきた不二家のチョコレートチップクッキー「カントリーマアム」。しっとりとした食感が特徴のお菓子だが、それが裏目に出たか。
 そんなことを考えながら、しぶしぶ検査官にクッキーの入った袋を手渡す。それを手に取った検査官はこう言った。「キャンディー。キャンディー」。勝手にキャンディーと判断して、検査を通してくれた。何はともあれ、罰金を課されることもなく、「カントリーマアム」も無事戻ってきた。そして、この危機を乗り越えたクッキーは、思いがけず、ある飲み物と私との出会いに貢献することになる。
 1月12日早朝、リオ・ガジェゴスのバスターミナルに到着した。コモドロ・リバダビアから約12時間の夜行バスの旅路。そして、いよいよ「世界最南端の都市」と呼ばれるウシュアイアに向うバスに乗り換える。ウシュアイアのあるフエゴ島にはマゼラン海峡をフェリーで渡る。フエゴ島は西側半分がチリ領、東側半分がアルゼンチン領。ウシュアイアはアルゼンチンの都市なので、一時的にチリに入国して、アルゼンチンに再入国することになる。たった1日でパスポートの出入国のスタンプは4つも増えた。
 バスのなかで、ウシュアイアに拠点を置くカトリック系の青少年コミュニティのグループと知り合う。リオ・ガジェゴスの教会で行われた集会に参加した帰りという。ちなみに、ガイドブック『地球の歩き方』によれば、アルゼンチンは国民の92パーセントがカトリック教徒らしい。スペイン語しか話せない彼らと電子辞書を駆使しながらコミュニケーションをとって仲良くなる。
 私はふとカバンの中のクッキーを思い出し、彼らに配ってあげた。すると、今度はお返しにということで、彼らは小さな壷のようなコップを差し出してきた。中にはたくさんの茶葉が入っており、金色に輝くストローが添えられている。アルゼンチンを代表する飲み物「マテ茶」である。
 『アルゼンチンを知るための54章』(アルベルト松本)によれば、マテ茶は「飲むサラダ」と呼ばれ、肉食のアルゼンチン人には欠かせない存在。「友情のしるし」や「信頼の証」として、金属製のストロー「ボンビージャ」をつけて回し飲みするという。起源は北東部の先住民グアラニ族の飲み物。アルゼンチンは世界最大のマテ茶生産国という。
 いただいたマテ茶は砂糖が入った「マテ・ドゥルセ」。アルゼンチン人の優しさとマテ茶に心も体も温まった。
 夜22時50分頃、バスはようやくウシュアイアのバスターミナルに到着した。明日は大西洋と太平洋をつなぐビーグル水道のクルーズツアーが待っている。




チリの入国ゲート







マゼラン海峡をフェリーで渡る







いただいたマテ茶

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