カファジャテのトロンテス

 「If it is Torrontes, it is from Cafayate.(もしそれがトロンテスなら、それはカファジャテ産だ)」。カファジャテにあるワイン博物館に記されている言葉。ことわざのように語り継がれているという。トロンテスとは白ワイン用のブドウでアルゼンチンのオリジナル品種。19世紀にスペインからペルーを経て伝えられた。カファジャテはトロンテスの一大産地なのだ。
 2月6日の16時半頃、ボリビアのビジャソンからアルゼンチンのラ・キアカまで歩いて国境を越えた。ラ・キアカから「南米のグランドキャニオン」と呼ばれる世界遺産のウマワカ渓谷を経由し、アルゼンチン北部の町、サルタにバスで向かう。サルタのバスターミナルに到着したのは7日の早朝4時頃。本日の目的地はサルタ近郊にあるカファジャテ。サルタからカファジャテのボデガ(ワイナリー)を巡るツアーが催行されているからだ。
 夜が明けてサルタのホステルに到着したとき、衝撃の真実が私たちを待っていた。「カファジャテへのツアーはすべて7時からです」。時計の針は8時を回っていた。夜明けを待たずに宿入りすべきだったと後悔。ホステルの職員にカファジャテに行く別の手段はないかと問いただすと、「バスターミナルへ行ってみれば」とひと言。バックパックを預けて、バスターミナルにとんぼ返りした。
 運良くカファジャテ行きのバスには乗込めた。しかし、現地に行けたからといって、アポ無しのボデガにのうのうと入り込み、見学に試飲と、トントン拍子に物事が運ぶとは思えない。バス賃をドブに捨てただけなんてことになるかもしれない。そんな心配を抱えながら、バスは渓谷を抜けて、カファジャテの町に到着した。
 まず、ワイン博物館でワインについて学ぶ。受付でボデガの見学について尋ねてみると、15件のボデガの名前が記載されたリストを渡された。しかも、一部のボデガを除いて試飲が無料とある。徒歩圏内で行けるボデガを半信半疑で訪れることにした。
 まず、オーガニックワインを作る「ボデガ・ナンニ(Bodega Nanni)」。30ペソ(約450円、1ペソ=15円で計算)で4種のワインを試飲した。1つ目は白ワイン「ナンニ・トロンテス(Nanni Torrontes)」。2つ目はロゼワイン「ナンニ・ロサード・カベルネ・ソービニヨン(Nanni Rosado de Cabernet Sauvignon)」。3つ目は赤ワイン「ナンニ・タナット(Nanni Tannat)」。最後はスウィートワイン「トロンテス・タルディオ(Torrontes Tardio)」。
 2件目は2007年に創業の「ボデガ・エル・トランジト(El Transito)」。簡単なガイドツアーを済ませたあと、無料で3種のワインを試飲。白ワイン「Pietro Marini Torrontes」と赤ワイン「Pietro Marini Cabernet」、そして高級赤ワイン「Pedro Moises」だった。
 最後は「ボデガ・サルバドール・フィゲロア(Salvador Figueroa)」。白ワイン「Torrontes 5 Figueroa」と赤ワイン「Malbec Gualiama Oak」の2種を無料で試飲した。
 びた一文払わずにワインを味わえる町、と言えば大げさかもしれないが、カファジャテはボデガ巡りにはうってつけの町だった。しかも、カファジャテが誇るトロンテスのワインの美味しいこと。冷えた白ワインの飲みやすさに、ついつい飲み過ぎてしまう。たかが試飲、されど試飲。夜も明けないうちから活動していた疲労困憊の体に染み渡る。酔いに任せて駄洒落の1つも言いたくなる。「カファジャテで、とろんとする目、トロンテス」。サルタへ帰るバスの中、死んだように眠った。
 明日からは世界3大瀑布の1つであるイグアスの滝。そのアルゼンチン側の観光の拠点となるプエルト・イグアスに向かう。



カファジャテ渓谷
















カファジャテのワイン博物館
















「ボデガ・ナンニ」の中庭

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