No.49
晩秋の雪山は、みごとな小春日和
[竜ヶ森(1049m・北秋田市・大館市――2013年11月17日)]
 集合時間は朝の6時。真っ暗だ。少し早すぎる気もするが、小さな山でも下山して風呂に入って家に帰り着く頃は真っ暗だ。ということはこの時間で正解なのだろう。
 それにしてもこの年になって、真っ暗ななかをゴソゴソと起き出す生活を送ることになろうとは、何たる人生の皮肉か。
 今日の山は北秋田市と大館の真ん中にある竜ヶ森。森吉山の寄生山だ。ということは2週連続で森吉山系登山というわけだ。
 山名がかっこいい。これは雨乞いの風習があったことから、「龍神」に由来する命名なのだそうだ。東北百名山にもなっている。登山道も整備されている。その割に知名度が低いのは、登山道が整備された時期が比較的最近だったためのようだ。
 登山道までの林道がよく崩壊し通行不可能になるのもポピュラーになれない理由のひとつかもしれない。最近の山々は台風や洪水被害で林道は荒れ放題、山へ行くのが年々難しくなっている。対策が必要ではないだろうか。市民登山に最適なのに、林道の荒廃が理由でその山に登れないというのではあまりに悲しい。
 この山も林道が荒れて崩壊、市の広報では「車は入れないし駐車場もない」と明記されていた。そのため30分ほど林道を歩いて登山道まで行く覚悟だったが、運のいいことに林道は補修されていて、なんなく登山口まで車を乗り入れることができた。
 おまけに朝から快晴、最近珍しいほどの青空だ。
 その小春日和の森を縫いながら、なだらかな傾斜を登っていく。すぐに汗ばんでくるが、アウターを脱げば、すぐに寒さが襲ってくる。この時期のウエアーは悩みの種だ。
 5合目を過ぎるあたりから山は白一色に。山は雪、というのがこの時期の常識なので、ほとんどの人はスパイク長靴着用だ。が、私は普通の登山靴。乾いた泥で真っ白に汚れきった登山靴だ。3週間前の大仏岳登山でドロドロの林道を何時間も歩き、汚れてしまった靴そのまんま。仕事が忙しくて、おまけに40周年の記念イベントも重なり、まったく靴を洗う時間がなかった。そこで、汚れた靴をこのさい雪でクリーニングしてしまおうという横着なアイデア。だったが、そうはうまくいかない。山の半分は雪がなかっく泥道だった。
 青空の下の自然は、なにも見てもキラキラ輝いていて美しい。白いブナの森と言われる竜ヶ森も、その白さを際立たせ、森は明るかった。

これがクマの足跡

山頂にて
 約2時間半強で山頂に。この時期この山を選んだのはモモヒキーズの仲間で2名もまだ未登頂の人がいたためだ。その人たちに登ってもらうため、山頂50メートル手前で先頭をこの2名に譲って、ゴール。
ランチは山小屋で、久しぶりにお点前付きの豪華なランチタイムになった。
 下山は雪で滑りそうなので軽アイゼンを着用。10センチほど積もった雪の下は落ち葉がびっしり。これに乗っかるととつるりと滑ってしまう。
 それにしても雪上はクマの足跡だらけだ。雪が降ったからクマの存在が目立つのか、いや雪がなくてもクマは登山道を往来しているのだ。足跡が見えないほうが精神衛生上は、いい。雪上の足跡の威圧感は半端じゃない。
 登り2時間半、下り1時間20分ほど。最後までクマの恐怖は去らなかったが、かろうじて、きれいに晴れあがった青空が心を軽くしてくれた。
                       *
 温泉は国道285号上にある「長寿の湯」。あまり聞いたことのない温泉だが、館内にあるパンフレット類を観ると玉川温泉と同じ経営者なのだそうだ。なるほど。シャワーのお湯の出が悪く露天風呂の温度がちょっと低いが、これだと長時間使っていられるから、わたし好みかも。

backnumber
●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
●No.36 あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
●No.37 雷に追われ、山小屋泊まり、ガスっても岩手山は美しい
●No.38 県内最強のタフな山で、野立の誕生会
●No.39 中央アルプスで観光登山、それもまた楽し
●No.40 面白みはなくても、一度は登ってみたい虎毛山
●No.41 世界遺産の山で、会うのはへんなオジサンばかり
●No.42 ずっと踏破してみたかった、歴史の古道
●No.43 早池峰の、代替がきつかった、岩の山
●No.44 知っていそうで、知らなかった駒ヶ岳
●No.45 ストックを、持ち逃げされた秋の山伏
●No.46 侮ってしまった! やっぱり太平山系はきつい
●No.47 この山には、もう来られないかもしれない
●No.48 山よりも、ランチと温泉が楽しいこの季節

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