No35
ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
[女神山(岩手県湯田町・956m――2013年6月30日)]
 16日の焼石岳以来だから2週間ぶりの山行だ。先週は鳥海山・御浜小屋までの鉾立ルートを登る予定だったが、プライヴェートな事情でパス。2週間も山と御無沙汰だと禁断症状が出る。そのせいか前日は目がさえて眠られなかった。初めて登る山だったことも不安をかりたてたのかも。初めての山というのは今もちょっぴり怖い。
 朝6時、いつもの集合場所であるスーパー駐車場を出発。岩手県湯田町へ。昔は秋田の六郷町から岩手県側に抜ける峠道があったが、いまは女神山への登路は岩手県側にしかない。
 端正な形をしているために名前が付いたのだろう女神山は、真昼岳から4キロほど先の岩手県境にある。ここから徐々に高度を下げながら焼石の峰々につながっているきれいな稜線を描いた山だ。
 登山口着いて、まずは登り口からそれ、いきなり下って白糸の滝を見学。登山口が標高470mあり、山頂までの標高差は490m、登攀距離は2.2キロほど。
 登り口からしばらく歩くと、とりつきの登りに入る。150メートルほどの急坂が続くが、ここをこえるとゆるやかなブナ林の尾根に出る。1本1本のブナの背が高い。真昼岳のブナ林のような端正な美しさはないが、純朴で泥臭さを残した見飽きない深みのあるブナ林だ。上に行くほどブナの背は低くなるが、逆にむせかえるような若葉の緑がどんどん濃くなっていく。グリーン・シャワーにこちらの存在が溶け込んでしまいそうな錯覚に陥ってしまうほどだ。美しい緑が燃え立っている。英語でブナを「Beech」という。Book(本)の語源である。昔は紙の代わりになったのだろうか。
 登りはちょうど2時間。頂上からの展望はよくない。近くの展望地まで移動すると秋田側の鳥海山から焼石岳まで展望できる。が、あいにく曇り空で展望は悪い。
 ハイライトは下りだ。下りが楽しいという山は珍しい。大小いろんな滝がある。それを寄り道しながら下りるのだ。なかも「降る滝」は圧巻。7,80メートルほどの大きさだが、スマートで繊細で清楚な滝だ。これ見よがしのところがないのがいい。何時間いても見飽きないのが不思議だ。荒々しさや剣呑さで威圧的でないのがいいのだろうか。ここで30分近く休んで下りはゆったりと2時間かけた。登りと同じ時間をかけて寄り道しながら楽しめる山なのだ。

山頂で

これが「降る滝」だ
 温泉は湯田駅舎にある「ほっとゆだ」。温泉に入る前に豆腐屋さんへ。実は朝一番で「源助とうふ」に寄り、豆腐を予約していたのだ。下山後の午後からでは売り切れてしまう恐れがあるためだ。「源助とうふ」は湯田町の名物店。ざる豆腐とゆば刺しを注文。夜の晩酌が楽しみだ。
 ここの温泉は2度目のはずだが、よく覚えていない。温泉は「源泉かけ流し」が売りなのだが、しっかり消毒薬の匂いがする。消毒している源泉かけ流しというのもへんな話だ。ま、あまり深く追求しないようにしよう。
                  *
 2週間ぶりの山だったがブナの緑と美しい滝にじゅうぶん心癒された。山はやっぱりいい。
 2週間も山に行けなかったのは、母が亡くなったためだ。享年91だ。今年のお正月には元気だったのだが3月に足腰を痛め入院。そのまま帰らぬ人となってしまった。死因は脳内出血だが、5月の段階で医者からは「2週間が目途でしょうね」と告知されていた。心の準備はできていたので、葬儀も兄弟たちだけの家族葬で行うことに決めた。仏おくりが終わった時点で死亡広告を新聞に出し公表した。近親者だけの葬儀とは言え、その前後はけっこうなにかとあわただしい日々が続いたせいで、山は遠慮させてもらった。モモヒキーズの皆さん、ごめんなさい(先週の山歩きの車運転当番が私だったのにキャンセル、迷惑をかけた)。

backnumber
●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい

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