No38
県内最強のタフな山で、野立の誕生会
[和賀岳(1440m・角館町――2013年7月21日)]
 いつかは登りたいと思っていた。県内の登山者たちのあいだでも、「県内で最もタフな山」と恐れられている山だ。標高はそれほどでもないのだが秋田県側から登るためには、途中にある薬師岳(大田町・1218m)の頂上を踏む必要がある。いわば2回、山登りをしなければならないハードな山域にあるのだ。
 和賀岳は和賀山塊と呼ばれる3万ヘクタールの、白神山地よりも広大な大自然を有する山域の主峰である。岩手側からも登れるが、かなりの難所の連続のため、多くの登山者は秋田県側から登る。
 当然、今回は長丁場なので4時に秋田市の集合場所を出発だ。ということは3時起き。焼石岳に次いで2度目の3時起きだ。2回目となると、もう早起きもそう苦痛ではなくなった。なんとなく慣れるもんだ。
 甘露水登山口からスタート。駐車場は満杯で、ほとんどが県外ナンバーだ。秋田県の車がまったくない。けっこう人気のある山なのに驚いた。
 これまで、薬師岳までは何度かトライしたことがあった。でも天候に恵まれず、2度とも途中で引き返している。今回の天気予報は晴れだったが小雨まじりの曇り空。カッパ着用状態だったが、長い歩きになるので着ないことにした。スパッツも足が蒸れるのでやめ。付和雷同するのでなく、こうした判断も少しは自分でできるようになった。他の人はともかく汗っかきなのでカッパもスパッツも苦手なのだ。
 薬師岳まではきれいなブナ台を眺めながら、余裕の歩きだった。雨も上がって何の問題もなく2時間半弱で山頂へ。山頂から北東の方面に小杉山の威容が見えた。そこから延びる長い尾根の彼方に重量感ある和賀岳が見える。
 薬師から北を目指し、アップダウンを繰り返しながら、小杉山をこえ、1354mの小鷲倉まで。尾根の右手は深く切り殺がれた急斜面で、はるか眼下に和賀川の源流がキラキラと光っている。ここからが長い。近くに頂上が見えるのだが、なかなかつかない。ニッコウキスゲの群落が目に入り始めて、頂上がま近なのを知った。このへんでバテはじめた両足が、痙攣直前のきしみの声をあげはじめる。どうにかなだめすかして、頂上へ。
 薬師からは2時間弱だった。ということは登りは4時間半。
 山頂でF女史が野点をしてくれた。飯頭もたてた本格的なお点前だ。今日はリーダーのSシェフの64回目の誕生日。いつも自己犠牲の精神で、周到な準備と心配りのきいた計画性を持ち、私たちが行きたい山に連れて行ってくれるSシェフへの感謝を込めた、和賀岳山頂の野点だった。

山頂で

野立のお菓子もおしゃれ
 行きはよいよい帰りは怖い。同じコースを下山に3時間40分。下りが曲者だった。登りでかなりの体力を使ってしまったせいか、みんな下りはバテバテで、花も景色も、ブナ林も愉しむ余裕がなかった。これが和賀の怖さなのかも。
 温泉はわらび劇場の中にある「ゆぽぽ」。黄土色に濁った温だが、身体はあったまる。体重を計るも朝と変わらず。ものすごいエネルギーを使ったつもりだったが、それ以上に食べているということなのか。いや脂肪がじわじわと燃えるのには、今しばらく時間がかかるのかもしれない。
 家に帰り着くと、まずは何をさておき、山道具を片づける。これをしないと「登頂!」した気分になれない。
 それからビールを一杯飲み、お茶漬けを食べて、早々と寝床に入った。

backnumber
●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?
●No.30 下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
●No.31 青空・無風・トラブルなし。雑魚10匹より大物1匹
●No.32 みんな嫌がるけど、オレは好きだヨ、東山
●No.33 週末連続登山で、体力は大丈夫か、ジブン
●No.34 地元のプロと一緒だと、山歩きは百倍楽しい
●No.35 ブナと滝のシャワーを浴びて、少し元気になってきたゾ
●No.36 あれッ、なんだか人並みに体力がついてきたかな
●No.37 雷に追われ、山小屋泊まり、ガスっても岩手山は美しい

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