No30
下水掃除と宮沢賢治とアイゼン登山
[太平山(秋田市・1170m)―2013年5月19日(日)]
 朝5時起床。朝起きは苦手なのだが、最近ずいぶん慣れてきた。コ―フンするのか小心なのか、山行前夜はよく眠れない。いろいろあれこれ考えてしまう心配性なのだが、山歩きの経験を積むにつれて夜もちゃんと眠られるようになった。自分的には大きな進歩なのだが、誰も評価してくれない。
 今回の5時起きは山ではなく町内の下水掃除のため。朝6時からコンクリートの側溝ブロックを持ち上げて、ドブさらいをする作業だ。この側溝ブロックを持ち上げるのが、もう10年以上、私の係なのだ。一番力の必要なパートで、町内一番の若手(!)である私でなければできないためだ。そのため、この日だけは休むわけにいかない。1時間ほどで作業は終了し、家に帰って朝ごはんを食べ、8時には太平山旭又登山口に直行。登る前に身体を動かしたので、ストレッチ効果が期待できる。でもけっこうハードなスケジュールでもある、かな。
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 実は前日の土曜日も花巻に出かけた。やはり朝5時起きだ。久しぶりの好天で、この日は岩手県花巻市にある「なめとこ山」に登る予定だったが、行って見ると林道のゲートが閉まったままの通行止め。やむなくあきらめて、予定にはなかった花巻の円万寺観音堂を見学。ここには多田等観の庵があり、その高台からはみごとな「いぐね」の眺望が望めた。そういえば秋田では仙北平野の一部以外に、この「いぐね」を目にする機会は少なくなった。秋田生まれの多田等観が岩手県で顕彰されていることに気分をよくして、花巻市内へ。前から見たかった産直「だぁーすこ」で買い物し、駅前のだんご屋を冷やかし、これまた宮沢賢治でおなじみの物見山で昼を食べ、帰ってきた。
 花巻市内は店といい商品といい命名が宮沢賢治一色。賢治最中なんて、なんだか美味しくなさそうなものまである。秋田県人が何にでも「こまち」とつけるのと同じだから、エラソーに批判する権利はないが、個人的には賢治の童話はよく意味がわからない。とくに「なめとこ山の熊」は、なにがどうなっているのやら何度読んでも意味不明だ。その意味不明の物語を、現地に行って登ることで理解したい、と思っていたのだが、その望みはかなえられなかった。
 山には登れなかったが収穫もあった。一緒に行った人から見せてもらったのだが、スマホの山関係のアプリの進歩だ。100キロ以内ならGPS機能で山の名前がファインダーを向けたと同時に表示される「山名アプリ」とか、写真で撮った山の花の名前を、その場で即確認できる「花名アプリ」とか、一昔前まで10万円近くした携帯GPSとほぼ同じ機能をもった「地図系アプリ」が、いとも簡単に無料で入手できるのだ。
 出張に行く時しかケーターを持たないのだが、なんだか山に行く時だけはスマホを持って行きたくなった。本末転倒もはなはだしいが、それほどビックリするようなアプリがいろいろある。
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 さてさて、太平山である。今年はじめての旭又奥岳コースだ。天気もどうやら夕方までは持ちそうだ。
 雪の季節は同じ太平山系でも前岳や中岳専門で、夏道の定番ルート・旭又コースがようやく解禁というわけだ。といっても夏道を歩けるのは中間地点の御手洗(みたらし)まで。そこから上はアイゼン必着の雪道だ。

山頂小屋はこんな感じ

小屋の横のロッジで昼食
 御手洗までは1時間40分。どこも問題のない、いつものルートを淡々と歩いた。朝の下水掃除で身体を動かしたのがよかったのか身体が軽い。蒸し暑いせいかやたらと虫が多く、身体のいたるところを食われてしまった。ザックにはちゃんと蚊取り線香をくくりつけているのだが。この時期の太平山は虫との戦い、蚊取り線香もほとんど効かない。
 御手洗で一休みしてから、アイゼンを付けて、ほぼ山頂まで直登ルートを登りはじめる。アイスバーンほど堅くはないが坪足では無理な雪質だ。傾斜がきついのでスノーシューやカンジキでもダメ。やはりアイゼンの出番なのだ。途中、やっかいなやぶがあり、滑り落ちそうな急坂のトラバースがあり、ズブズブの雪穴が口をあけて待ち伏せしている腐れ雪。
 御手洗の急坂からは頂上小屋がすぐそこに見えるのだが、1歩1歩慎重に登っていくので、やけに遠い。けっきょくは1時間30分近くの時間を要してしまった。アイゼンをはいたり脱いだりにもけっこう時間が喰われた。
 登り3時間10分。下山は2時間弱だった。ハードな山でたっぷり汗をかいたが、雪の鳥海山に登る、いいトレーニングになった。
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温泉はザ・ブーン。この近辺にはいい日帰り温泉がいっぱいあるのだが、とにかくマナーの悪い高齢者が多いのも事実。そんな温泉は避けよう、とここに決まった。そういわれると確かにマナーの悪い温泉高齢者、よく見かけるなあ。

花巻の産直「だぁーすこ」は人だらけ

物見山で

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う
●No.28 GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
●No.29 街から7キロ先に、千メートル級の山があるの?

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