No28
GWは雪の回廊を抜け、強風の山頂に立つのが夢
[鳥海山(七高山・2229m山形県)―2013年5月5日(日)]
 GW中はどこにも出かけず、ずっと事務所に垂れこめていた。期間中の天気がよさそうな日に鳥海山に登るためだ。その日がいつになるか誰もわからない。天気予報もあてにはならない。気温や風、雪質などで、大きな山の環境は天と地ほど変わってしまうからだ。最初の予定は長期天気予報から判断で3日に決定した。が、前日に風が強そうになると判断され中止に。二日後の5日に再チャレンジが決まった。
 鳥海山登山は例年のGW行事のハイライトだ。この日以外の休みは、いわば「待機日」だ。鳥海山は秋田では最も大きな山、誰もが簡単に山頂に立てるわけではない。ましてや残雪期の祓川直登ルートはこの時期だけのものだ。
 スパイクタイヤからノーマルタイヤに履き替えた車で、鳥海山登山口までの雪の回廊を走破できるのか心配だったが、路上からはすっかり雪が消え、最大3mはゆうにある雪の回廊を通り、祓川登山口へ。朝7時前に到着したものの案の定、駐車場は他県ナンバーの車で満杯だった。この時期の鳥海山は、山スキーやスノーボードの若者たちのメッカになっている。どうにか駐車スペースを見つけ、いよいよGW最大の山行イベントのスタートだ。天候は良くも悪くもない曇天。5合目の登山口ですら、ものすごい強風が吹き荒れていた。
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 中止になった3日、突然何もすることがなくなったので、リーダーのSシェフと潟上市にある高岳山(221m)に花を観に行くことにした。同じ町にある森山は何度も登っているが、すぐ横にある高岳山ははじめてだ。
 地元の元高校教師Nさんも現地で合流、ピッケル持参だ。あさっての鳥海山登山に備え、この小さな山でピッケルに慣れておこうという算段だ。普段使わない山道具(ツエルトやヘッドランプ、ナイフやシャベルなど)を、こうしたハイキング程度の山で試しておくというのは、いいアイデアだ。今度まねしてみよう。
 タチツボスミレやカタクリ、ミヤマキケマンにエンレイソウ、ヒトリシズカにニリンソウなどが咲き乱れる急登(小さな山なのに傾斜はきつい)を、ゆっくりおしゃべりしながらのお散歩登山である。途中キーキーとうるさく鳥が鳴きつづけた。私たちの頭上で同じ鳥が鳴いているのだ。頭上を見上げると、なんと枯木のてっぺんに大きな鳥の巣があり、突然、ここから白っぽい大きな鳥が飛びたった。先ほどの鳴き声は「縄張りに入るな」というシグナルだったのだ。後でわかったのだが、この鳥はどうやらイヌワシのようだ。こんな里山にイヌワシが堂々と営巣してるって、すごいよね。
 高岳山からは干拓された八郎潟や男鹿半島の全貌が、すっきりと眺望できる。低い山なのに登山道は丁寧に手入れされ、スギ林もきれいに枝払いされていた。その昔、海が山裾近くまで広がり、この山は灯台の役割を果たし、修験者たちであふれ、城まであった場所なのだ。そうした歴史と信仰の厚みが、この山を印象深いものにしているのかもしれない。
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 強風の中をスノーシュ―で登りはじめた。最初、リーダーのSシェフに「スノーシュ―持参」を命じられた時、鳥海山にスノーシュ―はないでしょ、と思ったのだがSシェフの判断は正しかった。雪がシャーベット状で坪足では実に歩きにくいのだ。8合目までは傾斜もきつくないのでスノーシューで行き、そこから頂上まではアイゼンに履き替えてアタック、という戦略で大正解だったのだ。
 スノーシュ―が功を奏したのか、強風の中でも体調は良くグングン身体が勝手に前に進む。めったにない快調なスタートだ。だって、この日のためにGW中は節制し、体調を整えてきたんだもんなあ。

強風で立っていられない。

やっぱり大きな山だ
 先頭で歩きはじめると、いつの間にかスピードアップし仲間から離れ、トップのまま1時間半で8合目・七ツ釜避難小屋に着いてしまった。やはり風が強い。油断するとふわっと身体が持ち上げられ、飛ばされそうになる。これでも風速は15mほどで山頂はこれよりもずっと風が強い。
 Sシェフは早々とここで撤退を決めた。残念。避難小屋から9合目、舎利坂と急登が続く。この風の中を登り続けるにはリスクが大きいと判断したのだ。個人的には今日の体調を考えると、無理をしても登りたかったのだが、これだけはリーダーの決定に従うしかない。
 下山は30分。ほとんど直登なので下りはあっという間だ。できうれば今月中にリベンジしたい。
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 温泉は大内町・総合交流ターミナル「ポポロッコ」。ちょっと遠かったが、ここだと温泉と道の駅が並んでいる。下山したのが12時前だったので食事をして温泉に入れる場所を選んだのだ。レストランもあるのだが、売店でインスタントラーメンを買い(鳥海山は風と寒さでコッヘルが使えないので、おにぎりしか持ってないため)、道の駅の休憩室でお湯を沸かして昼食。すっかり山の節約魂が身についてしまった。
 温泉は露天もジャグジーもサウナもある、自分的には秋田県の三大温泉に入る好きな温泉だ。館内も多くの芸術的な絵が飾られているのも好感が持てる。
 今日は私の車で行ったので、お風呂後の運転はさすがに疲れた。それでも同乗していた元高校教師のNさんから興味深いお話を聞くことができたのは収穫だった。
 子どもたちが川で遊ばなくなったのは昭和39年の東京オリンピックのあたりから、という話だ。このころオリンピック用工事で使う川砂利を大量に全国からかき集めたため、川底が深くえぐられ、そのため水難事故が相次いだそうだ。そこで文部省は、川遊びを禁止して、学校に多くのプールをつくり方針に舵を切ったのだ。
 これはおもしろい話だなあ。詳しく調べてみよう。

イヌワシの巣か?

背景は元八郎潟の眺望だ

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●No. 1 草紅葉の海で、なぜかパエリア
●No. 2 贅沢お昼と、お気に入り温泉
●No. 3 白神のブナの森を彷徨う
●No. 4 南八幡平の自然休養林を歩く
●No .5 巨木の森で、雨に追われて
●No. 6 何が悲しくて、遠い県境の雨の山へ(+クマの話)
●No. 7 「キジ撃ち」慣れ、増える体重、初めての山
●No. 8 雹に雷とスパイク長くつ、是山の山
●No .9 賞味期限切れ食品がうまい、きれいな三角山
●No.10 生きものたちと出あい、ラーメンうまい雪の山
●No.11 はじめての朝市、風格の天然杉、泥土のババ落とし
●No.12 雪と風とツェルトとストック
●No.13 「靴納め」はダブル山行、かててくわえて忘年会
●No.14 これが今年最後の山行です、信じてください!
●No.15 桜のつぼみが大きいから、春は早い……
●No.16 彷徨っても漂っても、頂上は遠い
●No.17 動物の足跡がないのは、「なまはげ」がいるからだ
●No.18 どんな山でも、なにか新しいことを学べるもんだ
●No.19 「山があるんで、お先に」って言ってしまった夜
●No.20 大滝を見にスノーハイク、帰りは古民家見学
●No.21 冬は近場にこそ遊び場がある+ついにシュールストロミング開缶!
●No.22 山頂で野点、そうか今日は「桃の節句」か
●No.23 青空、中岳、ひとりぽっち
●No.24 石仏に村人はどんな思いを託したのだろうか
●No.25 冬限定、地図に名前のない山に登る
●No.26 登山道のないやぶ山で、昆虫になる
●No.27 ダブル登山で、県北の春山に酔う

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