Vol.813 16年7月2日 週刊あんばい一本勝負 No.805


春樹で電子本は復活できるのか

6月25日 土曜日だが少しバタバタ。カミさんのアッシー君の後は買い物。そして弁当作り。10年近く山に登っているのに山のランチでは食欲がない。朝から甘いあんパンや飴などしゃぶるからだ、と言われるが朝の腹ごしらえは大切だ。ガス欠が怖いから結構食べるのだ。でランチでは疲れもあり食欲は思いっきり減退してしまう。帰ってからの夕食はたっぷり食べる。この変則的な慣習を変えたい。朝は軽く、昼はがっつり、夕食はビールとツマミ程度というのが理想だ。そこで、山で食べる弁当は自分で好きな具材だけを詰めこんでつくることにした。ご飯に梅干し、豚の生姜焼きにゆで卵、マカロニサラダにおしんこ。具材はコンビニで調達し簡単に完成。でも問題がある。具材をコンビニでそろえたせいか弁当ひとつに1500円ぐらい費用かかってしまったのだ。それじゃだめだろうジブン。

6月26日 昨日は雨だったが行くところまで行ってみようと岩手・焼石岳中沼登山口へ。着くころには空は明るくなっていた。そこで登り始めたが八合目近くで雨と風が激しくなり下山。でも山小屋に降りて食べた自作弁当は完食した。のりご飯が食欲をそそった。次回からは「のり弁」一本でいこうか。それにしても焼石山頂は遠い。東成瀬からも遠いが、岩手・中沼コースも4時間半はみなければならない。自分の能力では3時間半を超える山は要注意だ。それにしても岩手側の登山口は雨模様にもかかわらず登山客であふれていた。東成瀬口でこんな光景を見ることはまれだ。岩手と秋田では「山」に対する意識がだいぶ違う。

6月27日 出張1日目。仙台の女子大でヨタ話。女子大には入ることすら初めてで、きっちり緊張。お嬢様学校と聞いていたが100人を超す学生たちは居眠りもせず、無視もせず、気持ちよく90分をしゃべらせてもらった。別に難しいことを話したわけではない。担当の先生のリクエストもあり「ババヘラアイス」の話をした。逆にこちらが学生に教えられたのだが青森との県境付近にはスヌーピーの形をしたババヘラが売られているという。でもそれは秋田の業者じゃないのかも。秋田のババヘラはけっこう保守的で伝統を重んじる。進取の気性に乏しいのがスタイルと言えばスタイルだ。東北各地から来たお嬢様が多いので、ほとんどの学生がババヘラのことを知っていた。仙台まで来て将来ある娘さんたちに、しょうもないババへラ話をしている66歳の老人には、いつか罰が当たるのかも。

6月28日 2日目。東京は雨模様。暑くはないが降ったりやんだりで傘なしには歩けない。昼の約束が不測の事態でキャンセルになり、久しぶりに取次店を訪ねてきた。みんな元気に働いていたが、昔に比べると本の在庫数が少ない。その後、何軒か神保町の書店を歩き回ったが、「えっ、こんな本が出てたの」という驚きも発見もないまま、疲労感だけが残った。取次倉庫では「ここにこなければ出会えなかった」という本が数冊あり買った。いつも発見のある東京堂書店には残念ながらそうした本はなかった。なんだか昔の本の焼き直し本がやけに目立った。神保町一帯だけ見て言うのは危険なのかもしれないが、飲食店では「肉系」の店が増えている感じだ。数か月おきに定点観測しているので店の変化には目ざとくなる。競争の厳しい大都市では数か月前にあった店が嘘のように消えている。まさに弱肉強食の世界。こんなところで「兵士」になって一生を終えなくてよかった。

6月29日 3日目。「??ダムの水量が減っています。節水をお願いします」というアナウンスで目が覚めた。東京のホテル内での出来事だ。そういわれてみれば確かに皇居のお堀の水位は見事に下がっていた。今日はオフなので長野まで新幹線で出かけ、用事を2つばかり片して東京にとんぼ返り。新橋で焼き鳥でも食べようと思ったが、どの店もいっぱい、くつろげる雰囲気は皆無。神保町に戻って「汁なし担々麺」を(チェーン店でない)中華料理屋で食べ、早々と寝る。出張先で暴飲暴食をしなかった日はそれだけでなんだかいいことをしたような気分。持ってきた本のうち「ペリー来航」と「この国のかたち4」は読んでしまった。明日は本を買って仙台に移動だ。

6月30日 4日目。仙台で2回目のお話を済ませ新幹線で秋田に帰ってきた。ホテルではよく眠れたし暴飲暴食もしなかった。体調はいい。今日は朝から不在中4日間の残務整理で忙殺される予定。ところで以前から電子書籍の普及は「村上春樹の新本が紙でなく電子本で出た」というような異常で突発的な出来事でもない限り難しい、と言ったり書いたりしてきた。今日の朝日新聞に村上の初期3部作を電子本で発売する、という講談社の全面広告が載っていた。「新刊」でないのでインパクトは弱いが、いずれにしてもいよいよ電子本がリアルな実態を持って迫ってきた、というのが正直な印象だ。このアクセス数はちょっと気になる。もちろん電子本の時代になっても問題は「中身」だ。時代は変わっても中身をつくれる人間の有無だけが実は問題なのだ。電子の世界と言えどもコンテンツは村上春樹に頼るしかない、というのが、その証拠だ。
(あ)

No.805

家康、江戸を建てる
(祥伝社)
門井慶喜

東京出張の折には神保町・東京堂に寄る。秋田で書店に入ることはほぼ皆無だ。その反動でリアル書店の空間で書物に触れたいという飢餓感がある。ネットではよくわからない微細な空気感が手に取ると伝わってくる。本書は東京堂だけでなく三省堂や小さな書店でも平積みにされていた。徳川家康の都市計画をテーマにした時代物ならベストセラーはまちがいない。「絶賛の嵐。重版止まらず。必読のベスタセラー」といった帯文にはちょっと鼻白むが、版元をみると納得。大手出版社ならこう露骨なコピーは使わない。読みだして失望した。長編小説ではなかったからだ。主人公もテーマも別の5つの短編を1冊に編んだものだった。通底するテーマが徳川家康の都市計画である、ということだけだった。当然のことながら家康は名ばかりで登場機会は少ない。1話では湿地帯で水害の多い江戸を多くの人が住めるように変えるため、利根川の流れを強引にねじまげてしまう話。これはなかなか読ませた。2話は通貨をめぐる物語、3話は飲料水で4話は江戸城の石垣の話、5話は天守閣をめぐる物語だ。全体を読めばまさに家康の都市計画の全貌の一端が見えてくる仕組みだが、その意図は成功したとは言い難い。5話にもっと通底する主人公の存在が必要だったのではないだろうか。

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