Vol.810 16年6月11日 週刊あんばい一本勝負 No.802


恒例の建物修理工事始まりました

6月4日 朝早くから庭師が入って生垣や樹木の剪定作業。5年ぶりだ。2人の庭師がともに若い。都会で修行してきたはんてん姿もいなせなチョーイケメンだ。カミさんの指示の声もうわずっている。ハキハキと明るく屈託がない職人を見ると、つくづく時代は変遷していることを感じる。自分たちが教科書にした時代の空気はすっかり過去のもの。仕事や生活の価値の基準があたらしくなり若者の未来を照らし始めている。そんなことを考えた、静かであたたかな微風の土曜だ。

6月5日 5月中になんと3回も八塩山に登っている。今日も八塩山。同じ山に何度も登るのは初めてだが、これには「事情」がある。10年前に山登りをはじめた時、この山に登って初めて「山っていいなあ」と感動した。でもそれは矢島口から登った八塩山だった。行きに2時間半、下山にも2時間近くかかるコースだ。ところがその後、いろんな人たちと登った八塩山はすべて東由利側から登る1時間以内で山頂につくダイジャスト・コースだ。矢島口はあまり登る人がいないのかガイドブックや地元の人からも忘れられたコースなのだ。今日10年ぶりにその矢島口から八塩山へ。天気はいまいちだが気分は最高。若いブナ林がきれいで、落ち葉でフカフカの登山道は気持ちいい。

6月6日 矢島口から八塩山に登るという長年の夢を果たした昨日だが、山から帰った後は義母の納骨。これで少しホッとした。今日は雲一つないさわやかな青空。庭師がぼさぼさ頭の庭の木々をきれいに散髪してくれたせいもある。朝からすがすがしい気分で机に向かっている。今週の後半から夏のDM通信の発送、仙台での授業も始まる。日曜の山行でたっぷりリフレッシュできたので、気力は充満。悩みは台湾旅行以来2キロ増の体重はなかなか元に戻らないこと。。

6月7日 窓のサッシの滑りが悪い。壁面の塗装が剥げてボロボロ。コンクリートブロックの土台に亀裂がはいり網戸が破れた。玄関ドアの開閉がぎくしゃくして、水道蛇口から水漏れ。庭のドウダン支柱が腐りかけ……身の回りのほころびが目に余る。便利屋のような人に頼めれば楽なのだが、きょうびそんな都合のいい存在はない。そういう仕事は近所にあるK工務店さんにお任せしているのだが、ここもなにせ忙しい。サッシ網戸を直すのだけでも事前に修理の具合を点検、その方面のプロに依頼し、そのプロがまた再点検、ようやく見積もりが出て、作業に入る。ここに至るまでが長い長い。

6月8日 熊本地震以降、本の注文数は確実に減り元に戻らない。もしかすれば低値安定で推移するのかもしれない。本屋がつぶれ、印刷所が倒産し、出版社が消えても、それはもう「日常」。誰も驚かないし困らない。時代はますます本の世界と無関係に肥大を続け、本の価値は相対的な下降に歯止めがかからない。次世代に残したい「仕事」などと胸張って言えない状況なのは確かだ。紙とデジタルの間には思った以上に深い溝がある。そう簡単には乗り越えられない河が流れている。この溝を埋めるのには時間が必要だ。どのようにすれば次世代に「本」というバトンを渡せるのか、セミのような脳みそで考え続けている。

6月9日 近所の量販店でスーツを買った。何十年ぶりだ。仙台での授業や海外に行く機会が増え、くしゃくしゃになっても大丈夫そうなものが1着欲しかった。スーツなんて着る機会のない半生だったが、そのくせ6着ぐらいオーダーの背広を持っている。オーダーは素材がいいので外見上は今でも十分通用する。通用するのだが「重い」。肩が痛くなるほど昔の背広の生地は重い。さらに上着丈が長い。そんなこんなで量販店に駆け込んだのだがスーツのブランドは「サビル・ロー」だった。背広の語源となったロンドンの世界的名店の名前だ。映画や小説にはよく登場するブランドだ。それが全く廉価で買えるのだ。普通のスーパーでドンペリが買える時代だ。こちらがかってにブランドを尊崇しているだけなのだろう。

6月10日 仙台日帰り。駅舎がすっかり新しくなっていた。駅ビルにはスタバが2つ、ノースフェースや東急ハンズも入っていた。以前から使い勝手の悪い非効率な駅舎だと思っていたが、そうか、こんなふうに改造するつもりだったのか。くまざわ書店も新規出店していた。店頭には獅子文六『七時間半』(ちくま文庫)が平積みでセール中。市街の他の書店も同じだったので、いま最もホットな作家が獅子文六であることを知った。昔の作家がこんなふうにリメイクされて人気が出る。これには仕掛け人がいる。秋田では本屋に入るのが年に一,二回、ホットな情報に接するのは仙台に行った時だけだ。
(あ)

No.802

イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑
(原書房)
澤宮優・文/平野恵理子・イラスト

収録された「115種」という消えた仕事の数の多さにまずは驚く。その分類も丁寧で「運輸」「1次産業・金融・不動産」「情報通信」「製造・小売り」「飲食」「サービス」と丁寧にもれなくカバーしている。著者は本書以前に同郷(熊本)の放浪詩人・高木護の本を書いている。この際に高木が就いた120種の仕事について調べたことが『昭和の仕事』(弦書房)に結実、本書はその姉妹編という形でなりたったもの。本書の中で最も印象に残ったのは「小売り業」のなかの「天皇陛下の写真売り」だ。日中戦争がはじまったあたりから天皇の写真を家に飾ると「愛国心のあるまじめな家庭」と周囲から評価されるようになり、写真は高額で飛ぶように売れた。リヤカーで売り歩く行商人も背広や着物の正装だったというのがおかしい。出版関連の「消えた仕事」も興味深い。「カストリ雑誌業」や「新聞社の伝書鳩係」「赤本の出版屋」「文選工」「代書屋」「トップ屋」「貸本屋」「紙芝居屋」と意外に多いのだ。なかでも「帯封屋(腰巻)」は知らなかった。新刊書籍に巻くオビ(業界ではこれを腰巻という)に魅力的なコピーを書く仕事があったのだ。今でいうコピーライターなのだが、当時はジャーナリストや大学教授、作家たちのいい小遣い稼ぎになったようだ。

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