Vol.809 16年6月4日 週刊あんばい一本勝負 No.801


6月は忙しくなりそうだ

5月28日 旅行は楽しいが、その後を考えると躊躇もある。まずその後2週間は「週末休みなし」になる。山行もダメだ。山に入って心身ともリフレッシュしているので封印されるとフラストレーションたまりまくり。それでも、やっぱりたまには海外の空気が吸いたい。日常とは別のリラックス効果がある。帰国後の仕事はきつくなるが、集中力は増す。日常を違った目で眺められる視点を獲得できる。旅する仲間は同年代の人たちなので、そこから受ける影響も小さくない。個性的な勉強家が多い。9月には同じメンバーでフランスに行く予定。そこを目標に体調や仕事の管理していく。目標があると日々の暮らしにも「メリハリ」ができる。それも旅の効果だ。

5月29日 亡くなった義母の後始末があり日曜日なのにバタバタ。1年前に亡くなった藤原優太郎さんをしのぶ会もあるのだが欠席。不義理ばっかりだ。いい年をしてフラフラ海外に遊んだり、若い人に自慢話しに仙台まで出張ったり、山行も毎週欠かさない。ぽっかり何もしない時間ができると不安でしょうがなくなる。何もしないでじっと音楽に耳を傾けたりする時間をなくしてからずいぶん経つ。貧乏性なんだなあ。

5月30日 今日から新しい連載がHP上ではじまる。「秋田藩研究ノート」で執筆者は金森正也さん。歴史ものを連載するのは初めだ。1週間から10日ぐらいのサイクルで更新し、新しい原稿が読めるようにします。でも既読のものはすぐに消します。お見逃しなく。秋田藩に関する論考は専門分野(研究紀要や論文)以外ではあまり見かけません。気軽に読み捨てるにはちょっと難しい論考ですが、歴史に興味のある方にはびっくりするような記述がたくさんあります。お楽しみください。

5月31日 トイレの中に置いて読む本を「トイレ本」と称していた。ある人の本を読んでいたら便所で読む本のことを「置き本」と書いていた。いくら何でも「トイレ本」は著者に失礼と思っていたので、この言葉に納得。早速使わせてもらうが現在の「置き本」は寺田寅彦『科学と科学者のはなし』(岩波少年文庫)。これがとんでもなく面白い。予想以上に面白い「置き本」はベット本(寝る前に読む本)に昇格させる。ベット本はいますぐに読みたい本だ。寺田の本は今日からベット本に昇格だ。池内了が子供向けに読みやすく編集した本だ。

6月1日 夏用DM通信の編集作業が終了、今日入稿した。前号まで手掛けてくれた市内の印刷所が倒産したので、今回からM印刷にお願いすることに。前の印刷所にはいろいろ不満があったから、まあグッドタイミングだ。ページ物の印刷は経験や規模が重要なので東京の大手印刷所に頼んでいる。小さな印刷物はどこで刷っても大差ない。デジタル時代のたまものだ。昔と圧倒的に変化したのは、印刷所が「刷り」に特化しつつあることだ。製版まではこちらの責任でデータ原稿に仕上げなければならない。これが常態になりつつある。何度も印刷所とゲラをやり取りするという風景は消える寸前だ。出版をはじめたころ、まだギリギリ鉛活字の活版印刷が生きていた。おかげで何度か活版で本をつくることができた。活字の本は増刷するとき「象嵌」といって、直し部分の鉛活字を作り直す。そんな本がデジタルで作った本と同じように今も私のところでは流通している。ときどき「おい頑張ってるなあ」と活版本に声を掛けたくなる。

6月2日 机の前の壁にデスクトップ半分くらいのカレンダーが掛けてある。書いたり消したり自由にできる「ほぼ日カレンダー」だ。月末に翌月のスケジュールを書き込むのだが6月はもう赤やら青、黒のカラーペンで半分以上が埋まってしまった。いつもなら月末近くこんな感じで空白が埋まるのだが、なんだか今月は特別。山行が4回、仙台の私立大学のお話も今月から女子大が一つ増え、これも4回。ほとんどが仙台日帰りだ。新刊は2点だが、毎年恒例の事務所の周り改修工事(庭と壁面と駐車場)が入っている。新聞の連載原稿は2回あるが、これはもう先月中に書き上げた。中旬には年4回発行の愛読者DM夏版が発送になり、その後の1週間(のみ)びっしり注文に追われ、他のことは何もできなくなる。広告は地元紙と朝日の全国版に各1回ずつ。町内会の草むしりや義母の納骨予定も書き込まれているが、参加できるかどうか怪しい。1年のうちで2月と6月がどうやらもっともカレンダーが埋まる月のようだ。

6月3日 ベストセラーになった『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』の続編になる矢部宏冶著『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(集英社)が出た。今回は日米外交史に隠された「密約」の問題をアメリカ側公文書などから抉り出している。戦争の脅威が生じたとき日本の軍隊はアメリカの最高司令官の統一指揮権のもとに置かれる。「指揮権密約」といわれる全貌を微に入り細に入り、わかりやすく解読した本だ。プロローグもインパクトある。沖縄では鳩山由紀夫元首相に会う。前作を手放しでほめてくれたが、密約などを生み出す政治構造にまったく無知なことをかくそうともしなかった。首相まで務めた政治のトップエリートにしてこの程度、と驚くところから物語は始まる。この本も話題になりそうだ。矢部さんは昔からの友人だ。秋田に遊びに来たこともあるし、彼の実家のある大阪を訪ねたこともある。友人の本が話題になるのは自分のことのようにうれしい。
(あ)

No.801

1Q84 1〜6
(新潮文庫)
村上春樹

今年のGWはうまく休めば10連休。こちらにとっては関係ないが時間はたっぷりあるので「村上春樹」の本だけを読んで過ごそうと思っている。それほどはまってしまったのは本書がほんとうに面白かったからだ。これまで読んだ村上作品(そんなに多くないが)の中では最高傑作だ。文庫で6分冊もあるのだが、長編にもかかわらず4日間ほどで読了してしまった。物語の輪郭がくっきりしているのがいい。ミステリー感もたっぷりで、純愛小説としても申し分ない。純愛物語がハラハラドキドキ読めるのだからお得感満載だ。スポーツインストラクター青豆と予備校講師で小説家の天吾が、交互に主役になりながらテンポよく物語は進行する。そのお互いの物語の距離が徐々に近づいていくにつれ、この2人に「牛河」という得体のしれない人物が不意に登場する。物語は明快に週末に向かいつつも、なんとも不可思議な地平をさまよい続ける。本書が単行本でベストセラーになった時、全3巻のうち最初の巻は読んだ記憶がある。文庫本の3巻目を読了したあたり、宗教団体教祖をホテルの一室で青豆が殺害するシーンで、「あっ、これ読んだ」と初めて既読感が蘇った。でもこの殺害は物語の序章に過ぎなかった。ここからがおもしろくなる。ページをくくるのが惜しくなるほどで胸の動悸が止まらなくなった。ムラカミ・ワールドからしばらくは抜けられなくなりそうだ。

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