Vol.808 16年5月28日 週刊あんばい一本勝負 No.800


台湾4泊5日の旅

5月21日 「イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑」澤宮優・文/平野恵理子・イラスト(原書房)は久しぶりに面白い本だった。編集者として本書と同じ企画をずっと温めていたので、正直なところ「やられたなぁ」というのが偽らざる感想だ。それにしても「115種」という消えた仕事の収録数には驚く。私の仕事関連(出版・編集)を探してみると「カストリ雑誌業」「新聞社の伝書鳩係」「赤本の出版屋」「文選工」「代書屋」「トップ屋」「貸本屋」「紙芝居屋」と意外に多い。「帯封屋」というのもある。もっとも面白かったのは「天皇陛下の写真売り」という仕事だ。行商人も正装姿だったそうだ。これは知らなかった。今日から実は台湾旅行だ。朝に秋田をたち、夕方には台北にいる。

5月22日 台北にいる。昨夜は着いてすぐ、有名な屋台街・士林夜市をひとり淋しくうろついた。今日は関西から来る友人グループ(8人)と「欣葉」というこれまた有名なレストランで待ち合わせ。このグループは神戸の伝説のフランス料理店シェフや京都の話題の中華料理店主、ミシェラン2つ星の京料理店の親方といった、すさまじいグルメ・メンバー。共通項はビールをあまり飲まないことか。日本のビールは「味の素」を使いすぎなのだそうだ。日本のビールは冷やして飲むために味がわからなくなる。そのため味の素を入れているのだそうだ。「欣葉」でランチの後は新幹線で高雄に移動、ここで「名人房」という中華の最高峰の店で夕食をとる。

5月23日 高雄は2回目。20年近く前に一度、山岳民族を訪ねて来たことがあるが何も覚えていない。翌朝の朝飯は抜き。「ババアのアイス」(婆婆氷)が朝飯変わり。かき氷にシャーベットとマンゴーがてんこ盛りになったもの。高雄は好きな街だ。この地に住んでみたいと思わせる情緒と落ち着きのある街だ。漢末大飯店(ハイライホテル)も気持ちのいいホテルだ。ホテルに帰ってから夕飯までずっと村上春樹『世界の終わりとハードボイル・ワンダーランド』(下)読了。『ねじまき鳥クロニクル』を読み始める。海外に旅行するとき本を持っていくが読了したためしがない。でも村上作品は不思議と没頭できる。高雄から新幹線で台北に移動。町中の移動はすべてタクシー。これが信じられないくらい安い。今日の夕食は台北中心地にある世界貿易センタービル33階で北京ダック。毎日旨いものを食い続けていると不思議なことに「もっと食べたい」と際限ない欲求が起きてくる。昨日まで納豆ばかり食べていた人間にわかる味ではないのだが美味いものはうまいのだ。夜景を楽しみながら今回の旅のハイライトを堪能。高い料理は金を払えば食べられる。ここの料理は料理人同士のネットワークや信頼関係から予約で来た特別な場所。プロたちの仕事場に私のようなど素人が紛れ込んでしまった。

5月24日 今日で関西グループが帰国する。小生だけが飛行機の関係で台北もう一泊。毎日旨いものを食べ続けているので今日は何も食べず、朝から故宮博物館へ。ここも2度目だが一度ざっと見ると飽きてしまった。館を出て周りの山々をみているとムラムラと登りたくなった。300mほどの山々が連らなっている。山道に分け入ると原色の赤い花や真っ黒なトンボ、ゲホゲホとヘンな鳴き声の鳥たちが出迎えてくれた。30分ほどでふいに登山道が消えた。あきらめて帰ろうと振り返ると足元にタヌキほどの黒い動物がいた。心臓が飛び出るほど驚いた。野犬だった。少し前まで人間に飼われていたのだろう。人なつっこい。一緒に山を下りてからもずっとついてきた。山頂には寺やゴルフ練習場まであり車で上まで行ける。でもマウンテン・トレイルの道もちゃんと準備してある。いつか山頂まで登りたいものだ。

5月25日 早いもので帰国の日。昼に松山空港から飛行機に乗れば今日の夜には秋田に着く。でも実は昨日の朝から少し体がだるい。咳も止まらない。あれほど用心していたのにクーラーにやられてしまった。空港や飛行機の中ではマスクをしてひたすら眠っていた。熱が出ないのが救いだ。秋田に着いたのは夜の10時を回っていた。風呂にも入らずベッドへ。とにかく寝ているしかない。

5月26日 朝からバリバリ仕事をするつもりだったが、身体にだるさが残っている。食欲もない。熱っぽいし咳も出る。仕事を休むことにした。自分隔離だ。朝から布団に入り寝ていることにした。寝床にあった門井慶喜『家康、江戸を建てる』(祥伝社)を読み続けた。このところ村上春樹一点張り。たまには正反対の時代劇エンターテイメントを、と思って選択した。でも村上ワールドにはまっている身には時代物は「大味で」で面白みに欠ける。単発でこれだけ読めばエンタメとして楽しめたのかもしれない。とにかく筋の運びが荒っぽくて気持ちが覚めてしまう。

5月27日 昨日1日、寝床で本を読んでいたのが功を奏した、朝は快調に目覚めた。ノドも痛くないし咳も出ない。頭もすっきり、食欲も活力も戻ってきた。今週末はいろんなスケジュールが立て込んでいる。こんな時に限ってカミさんも不在で新刊もできてくる。今日も動けなかったらとんでもないことになるところだった。旅行に行くとそのしわ寄せは必ずやってくる。どうにか週末のスケジュールはこなせそう。旅行休み中のブランクの半分は今日1日で埋めた。集中して仕事するのは気持ちいい。毎日こんなだと半月で帯状疱疹になりそうだ。月に2,3回なら望むところ。海外から帰って一番食べたかったのは意外にも「ジャガイモの味噌汁」。羽田について蕎麦と寿司を食べたが、おいしいと感じなかった。台湾の中華があまりに美味しかったからだろう。今日は自分でジャガイモの味噌汁を作って、3杯ものんでしまった。
(あ)

No.800

ぼくの道具
(平凡社)
石川直樹

山行や冒険の業績、メディアの露出度などだけからみたら、もっと注目されるアウトドアライターはたくさんいる。でも、なぜかこの著者の動向が気になる。若いということもあるが、日常生活の延長線上に「さりげなく」ヒマラヤや極地の冒険が存在する「自然体のスタイル」がいい。ふだん着のアドベンチャーというのが新しいからだろう。その彼が、自分の愛用するイクゥイプメント(旅道具)について書いたエッセイだ。極地や高所で着るための衣類や薬、食品など体験的道具論だ。物々しい装備に身をくるみ派手な冒険する人の道具論は眉に唾が必要だ。数多いスポンサーがついているので、その絡みでしか道具を語れないからだ。そのてん著者の冒険行はほとんど単独かスポンサーなし。本書で興味深かったのは「ナルジンボトル」。飲み口の大きな透明ボトルの水筒だ。8000m級のベースキャンプではおしっこで外に出ることすら危険だ。飲み口が広いナルジンボトルは小便をするのにちょうどいいのだそうだ。それで飲み口が広いのか。旅先の電源のない場所で日記やメモなど長い原稿を書くためにはノートパソコンが必需品。でも電源など不便が多い。そのため「ポメラ」を使っているそうだ。ポメラは書くことだけに特化したワープロ。単3電池で30時間動き続ける。「レンズ付きフィルム」も必需品だそうで、これも意外だった。

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