Vol.806 16年5月14日 週刊あんばい一本勝負 No.798


GW終わって、バタバタ忙しくなる

5月7日 最近、テレビ局や新聞社などから本の資料(写真など)の転載許可願いが増えた。秋田県内メディアが中心だ。昔は県外メディアからが圧倒的に多かったのに、この頃はほとんどが県内だ。県内の場合は「販売目的」でないかぎり無料で資料を貸与してきた。でも今年からは1資料1万5千円の掲載料をとることにした。PTA会報であろうが町内会誌だろうが例外なしにお金をとる。「お金がかかります」というと依頼主の9割は「それならけっこうです」と答える。それでも「課金」することで精神衛生上はずいぶん楽になった。「著者や版元が時間と費用をかけて得た文化的な価値はただではありません」と前から宣言したかったからだ。

5月8日 GW中の最大行事である「鳥海山登山」。4日は雨で中止、GW最後の今日に変更になった。天気はいい。バックカントリー(山スキー)愛好家たちで駐車場は満杯だ。新入社員も昨夜から泊りがけで月山にバックカントリー。体調もよく登り始めたが七ツ釜避難小屋あたりから風が強くなり標高1800m地点で前に進めなくなるほど強風に巻き込まれた。下山を余儀なくされた。降りだした途端、頂上の雲が消え絵葉書のような鳥海山が顔を出した。でも山頂はたぶん人が立っていられないほどの強風が吹き荒れている。早く下山したので、前から気になっていた八塩山の「幻の矢島登山口」を探しに行くことにした。村人に訊いても今ひとつはっきりしない。村人にとっては登山より山菜、そんな遊び場など興味がないようだ。悪戦苦労の末、ついに登山口を発見した。今年は何度かこのコースを楽しむつもりだ。

5月9日 GW明けの月曜日。朝から緊張感がピリピリ。仕事場はこうでなくちゃ。お祭り前の町内会長の気分だ。5月の後半は半分以上、外に出ている。事前に処理しておかなければならないことが山積みだ。月曜日はそれでなくともいつも心身が急いている。そこに鳥海山山頂に立てなかった無念さも加わった。身体にモヤモヤが残滓のように張り付いたまま。今月中ならまだ再アタックのチャンスがある。でももうその時間的余裕がない。「運動の後のシャワーの味には、人生で一等必要なものが含まれている」と言ったのは三島由紀夫。「どんな権力を握っても、どんな放蕩を重ねても、このシャワーの味を知らない人は、人間の生きる喜びを本当に知ったとは言えないだろう」。 

5月10日 道の駅で買ったコシアブラとシドケを和え物にして一杯。少しずつだが山菜のうまさがわかってきた。20年ほど前、電気も水道もない仁賀保の山中に友人が移住した。何度か彼の家族を訪ねるうち「春になると山菜にはうんざり。早く野菜が食べたくて狂おしくなる」という話を聞いたことがあった。彼らにとって山菜はあくまで冬の野菜代わり、保存食だ。来る日も来る日も山菜の塩蔵を食べなければならない冬は苦痛以外の何物でもなかったそうだ。リアルな現実である。昨日は友人から「ワラビ」の到来モノも。山菜ではポピュラーなワラビが一番好きだ。ということで夕飯は山菜がずらり。酒は焼酎のオンザロック。

5月11日 なんだか気持ちまで陰鬱になりそうな雨だ。昼はいつも事務所でリンゴと自家製カンテンで済ませるのだが、こんな日は外食でもして気分を変えたい。朝もパンだったから空腹感もあり余計そんな気になるのかもしれない。。昼に外食しなくなってもう3年以上になる。家で買い込んである野菜を炒めてインスタントラーメン(チャルメラ)。おいしかった。なんだかすごいごちそうにありついた気分だ。野菜のおいしさに目覚めつつある。昨夜はニンニクの茎と牛肉切り落としを塩ダレで炒め酒の肴に。この茎も山帰りに道の駅で買ったもの。野菜料理をいっぱい覚えて、もうきっぱり外食の誘惑を断ち切りたいものだ。

5月12日 新幹線で乗り合わせた客は座るなり「よろしいですか」と後ろの客に声をかけシートを倒した。40代のスーツ姿のサラリーマンだ。礼儀正しい客だと思ったのもつかの間、ゲホゲホと盛大に咳をしだした。鼻水もすすっているのにマスクはしていない。これはひどい、と離れた席に急いで移った。車掌が来たので事情を話し席の移動をお願いしたら、即座に別の車両に席を用意してくれた。移動するとき風邪男を子細に観察すると、スーツも靴もバックも貧相で、スマホをいじるのに夢中だった。ひとこと言ってから移動しようと思ったが、咳をしながらスマホ夢中男に何を言っても無駄、と判断。しかし我慢して席に居続けなかった自分をほめてあげたい気分だ。仙台のホテルの一室でいまこれを書いている。なんだか喉がいがらっぽい。まさか、あの男に風邪をうつされたのだろうか。昼の打ち合わせを終え、これから国見に移動して私立大学でお話し、夕方は大学関係者と一献の予定だ。まだあの咳男への怒りは収まらない。

5月13日 今日は東京に移動。昨夜、仙台でちょっと日本酒を飲みすぎたせいか起きるのがつらかった。昼には地方小のKさんと神楽坂の蕎麦屋さんで千円ランチ。すぐそばに新しい喫茶店ができていたのでお茶。アイスコーヒーを頼んだのだが1杯980円。いくらなんでもこれはない。どうやらお替り自由だったらしいのだが、お替りなんてしません。午後から巣鴨に移動。手作りの皮の登山靴専門の店Gへ。既製品に比べても決して高くない値段にまずはビックリ。足の寸法を丁寧に測ってもらい、細かな要望を聞かれ、2か月後には出来上がってくる。今流にいえば「自分へのご褒美」のつもりだったが、既製品以下の値段なので、なんだか得した気分だ。東京は暑い。半そででも違和感がない。
(あ)

No.798

巷談辞典
(河出文庫)
井上ひさし・文/山藤章二・絵

久しぶりに「便所本」の登場である。ネーミングはよくないが、家の便所に準備しておいて毎日読む本のことを、自分流に「便所本」と呼んでいる。読み切りできる短いエッセイが多いのだが、この選択がなかなか難しい。けっきょく毎日読み続けることができず、途中で本をチェンジするケースがほとんどだ。なのに本書は大成功。毎日便所に行くのが楽しみだった。実は井上ひさしのいい読者ではないのだが山藤章二のイラストが素晴らしい。文章書きに一泡吹かせてやろうという野心満々で、皮肉とユーモアもたっぷり効いている。本書は『夕刊フジ』に1975年前後、毎日(!)110回にわたって連載されたもの。4文字漢字成句をテーマに、巷の話題をふんだんに取り入れたエッセイだ。著者40歳の時のエッセイである。読者が男性サラリーマンなので、しかめっつらしい四文字成句(当時、四文字熟語という言葉はまだなく定着したのは1980年代だそうだ)が、ほとんど下半身ネタに染め上げられている。井上ひさしってこんなに下ネタ好きなの、と読み始めは驚くほどだ。読者サービスのひとつだったのだが文学史的には価値のある下ネタエッセイといえるかもしれない。それにしても毎日書く作家も偉いが、それに絵をつけるイラストレーターのひらめきのすごさには驚愕しかない。

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