Vol.807 16年5月21日 週刊あんばい一本勝負 No.799


体重が増え続けている

5月14日 出張中だが昨夜から絶食中。食欲がない。仙台での暴飲暴食が後を引いている。便通も悪いし寝つきも良くない。もう何があってもおかしくない年だ。いきなり10度近く気温の高い環境に身を置いたのも影響あるのだろうか。持ってきた替えシャツが間違えて「半そで」だった。これが怪我の功名でジャストフィット。若い友人2人と外で食事をする約束がある。仕事関係の打ち合わせも一つ。東京はすべて移動が前提なのであわただしい。早く秋田に帰りたい。

5月15日 あれほど好きだったブラジル料理のシュラスコ(焼き肉)も元をとれるほど食べる自信がなくなった。ピンガ(サトウキビの焼酎)も同じ。2杯も呑むともうヨレヨレ。肉も酒も後が続かない。食べ放題はもう無理だ。家に帰って山菜や常備菜で白いご飯をかっ食らいたい。出張中の食事は「大戸屋」専門だ。魚定食を食べる。秋田に「大戸屋」はないのが悔しい。でもあってもはいらないか。家で同じものが食べられる。新幹線のお隣は信じられないことにまたしても風邪ひき客。30代後半の女性でコンコンと小さな咳が止まらず鼻水をすすりだした。もちろんマスクなし。

5月16日 出張に行くと体重が増える。これは便通が悪くなっているせい。どこかにストレスがかかっているのだろう。山に登るようになってどこでも「キジ撃ち」ができるようになった。乳頭山の避難小屋でも可能だ。ここの便所はその汚い便器をみただけで便意が引っ込むというすさまじいシロモノ。そんなところで鍛えられているから都会の公衆便所ごときでビビることはない。でも出張では便意がなくなるのだから始末が悪い。

5月17日 春まっただなかのこの時期は森に入ってボーっとしていたい。山の新緑は目に痛いほどで、残雪の白もまぶしい。雨の森も風情がある。仕事を休む理由(いいわけ)はいつも考えているのだが、いい理由ができたところで実践に移すことはほとんどない。意気地なしの仕事人間だ。仕事をしていれば何も変わらない。安定と退屈な時間とのなれ合い。年をとると保守的になる。新しいことを嫌がり不慣れなことを敬遠する。そんな淀んだ空気感を一蹴するには思い切って森に出かけよう、といつも思っている。いつも強く思っているだけだ。

5月18日 東京でめったに行けない場所に行く機会があった。神楽坂にある東京理科大構内の「近代科学資料館」と「数学体験館」。資料館のほうは計算機やパソコン、録音機からテレビまで、明治以降の最先端科学の歴史の流れを実物展示。体験館のほうは「数学」の楽しさを幼児にもわかるように遊具化して遊べる空間だ。数字の魅力を具象表現し五感で体験できるようにしたもので、館長は秋山仁。文系でも楽しく遊べるように創意工夫がなされていて飽きることがなかった。印象に残った遊具は「アミダクジの原理」。あれって必ず決まったところに着地する。色つきの糸とボールを使って、その原理が幼児にもわかるようになっていた。いやぁビックリ。数学の教師をしている若い友人に連れて行ってもらわなければ一生縁のない場所だった。感謝。

5月19日 5月6月は仙台の私立大学で集中的にヨタ話をする。もう4年以上続けているのだが、今年は同じ仙台にある私立女子大でも同じバカ話をすることになった。ヨタもバカも謙遜ではない。本当にそれしか(身辺雑記の類)できないのだ。それなりの努力はしている。少しでも若い人に受けようと日々ネタ作りに励んでいる。こんなシンドイのなら今年限りでやめよう、と毎年思っているのだが、「若者を振り向かせることもできないくせに何が編集者だ」という心の中の声が聞こえ続けている。授業中居眠りをする学生を振り向かせたい。もう少し我慢して続けてみようと思っている。

5月20日 新聞の読者投稿コーナーには、近所で撮ったカモシカの写真がよく掲載されている。説明文は決まって「人なつっこい動物」だ。本当は人なっこいのではなく近視なだけだ。よく見えないのでじっと見つめるしかない。このところ県内ではいないとされていたイノシシの目撃情報が相次いでいる。宮城県が北限だったが今回は県北・大館での目撃例だ。地理的に言えば県南地方に出没するはずなのに、岩手県境を越えてきたイノシシなのだろう。岩手県もイノシシ不在県だったはず。イノシシが跋扈するようになるとカモシカもそうおっとりはできなくなる。毎週のように山に登ってもニホンジカやイノシシにかすりもしない(カモシカはよく見る)。死ぬまで一度でいいから彼らと遭遇したい。まだ時間は大丈夫だろうか。 
(あ)

No.799

ダンス・ダンス・ダンス
(講談社文庫)
村上春樹

1年間、ベルギーに留学して帰ってきたばかりの国際教養大の学生に、ご当地の書店事情を尋ねたら、「とにかく村上春樹の本ばっかりが目立ちました」とのこと。ベルギーの本といえばフランス語、世界中の人が熱狂する小説家なのだ。なのに一応は読書好きを自称する私は、まだ数冊の村上本しか読んだことはない。村上春樹初心者である。難しくてなかなか長編を読み通すことが難しい。本書は30歳台のフリーライターが主人公。この「僕」が潜り抜けていく喪失と絶望の世界が、札幌や東京、アメリカを舞台に繰り広げられる。ムラカミ・ワールドの定番ともいえる二つの異空間が同時進行しながら交わっていく、という輻輳的な構造ではない。読者にとっては読みやすく、わかりやす物語といっていい本だ。とはいっても登場人物は多彩で複雑怪奇なキャラクターの人物ばかりだ。羊男や美少女、娼婦に片腕の詩人、同級生の映画スター……こうした個性的な登場人物たちが、わき役として物語の重要な役割を演じながら、ムラカミ迷路を、縦横無尽に駆け巡る。過激な性描写もあるし、ミステリーのような殺人事件も起きる。キーになるのは謎の「羊男」なのだが、この存在が初心者にはよくわからない。本書が刊行される四年前、『羊をめぐる冒険』という本が出ている。どうやらこの本を読まなければ羊男のキャラクターは理解できないようだ。こうなると読むしかない。

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