Vol.773 15年9月19日 週刊あんばい一本勝負 No.765


連休は休めそうだ

9月12日 ちょっとしたトラブルがあり台湾行きが中止。すっぽり時間が空いてしまった、とはならない。やることが山ほどある。中止になってはじめてわかったのだが9月中旬はいろんなことが立て込んでいる期間だった。半年前から決まっていた旅行が、たまたま1年間で一番忙しい時期と重なってしまったわけだ。旅行中止を奇貨にして雑用を一挙に片づけてしまう。9月、10月は本がよく売れる稼ぎ時。今年はうまくそこに新刊ラッシュ―が重なってくれた。今月末だけでも2冊の新刊、4本の編集準備中の本がある。新聞広告も数多く打つ予定。休んでいるひまはない。

9月13日 日曜日の今日も仕事。明日の下準備だ。起きた時から肌寒い。大雨が過ぎ去ったと思ったら「いきなり秋」という感じ。長袖で仕事中だ。そういえばこのごろ温泉にご無沙汰。山に登っていないので機会がない。今が一番温泉の「おいしい」季節。来週あたりから本格的に毎週山行に復帰する予定だが今日は寒くて山より温泉の気分。ゆったりと露天風呂につかりたいのだが、実はカラスの行水派だ。のぼせてしまうので長くお湯につかっていられない体質だ。それでも温泉が好きなのは山歩きの効用だろう。

9月14日 朝から山王の官庁街を車で駆け回っている。免許センターや公文書館、県庁などを順番に回っていた。田舎の広面からいきなり都会の官庁街に出向くと、なんだか外国に来たような気分。日常で接している人とは別の人種がうごめいていて、自分が浮いている。普段ネクタイを締めた人と話す機会がほとんどない。この辺に違和感の原因がありそうだ。職住隣接なので、けじめをつけるため仕事中はあまりだらしない服装はしないようにしている。寝間着や短パンでも誰も咎める人はいないのだが、逆にちゃんとした服装を強く意識している。それでも官庁街に行くと自分の服装はほとんど「山行」に間違われるようなスタイルなのだ。

9月15日『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)という本はなかなか面白かった。著者がこの版元の社員(フリーなのかな)というのも珍しい。モノを最小限に減らして暮らすミニマリストという生き方が若者に支持されているらしい。この本とは関係なく今度出すコミックエッセイの参考に読んだ『わたしのウチには、なんにもない。』(カドカワ)は、仙台在住の「物を捨てたい病」を発症した若い主婦の漫画。これも面白かった。どちらも一昔前の「断捨離」実践者だが、行くところまで行ってしまった人たちだ。モノそのものより捨てて変わった「ジブン」に焦点を当てているのが共通点。生き方として断捨離をとらえている。書名に読点や濁点が仕込まれているのも似ている。。

9月16日 ようやく夏掛け布団を卒業。ずっと寝冷えのような状態で夜半に目を覚ます日が続いた。昼寝のせいで夜の眠りが浅くなっているとばかり思っていたのだが勘違いのようだ。寝具が変わってはっきりした。久しぶりにぐっすり眠れた。寝冷えしていたのだ。今日の夕飯はサンマ。初サンマだ。秋ですねえ。夏物は身の回りから一掃してしまおう。秋は寝具とサンマからやってくる。

9月17日 忙しさのピークは今週いっぱい。連休中はお休みがとれそうだ。休んでも何をしていいかわからないのだが。休みは唐突に訪れた空白のようなもの。対処がうまくできない。遠出は宿が取れないし人込みは大嫌い。どうしたものやら。この3か月間休みなく動き回っている。月末になるとまたちょっとバタバタする。9月は4冊の本を作っている。もっと均して本が出るのが理想だが、そうはならない。この感じだと11月あたりにも3,4本の本を出すはめになりそうだ。

9月18日 もう10年ほど前に出版した『ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏』という本がある。岩田書院は東京世田谷の一人出版社で年商1億円という歴史・民俗専門の学術出版社。その社主である岩田さんの書いた本が3週間ほど前からネット書店(アマゾン)でグイグイ売れ始めた。突然のことで何が理由かわからない。岩田さんにも、思いあたるふしはないか訊いてみたのだが「わからない」との返事。巷では『ひとり出版社という働き方』という本が話題になっている。その本の影響では、という人もいる。でも他人の本の添物扱いで50冊近くの本が突然売れ出すものだろうか。岩田さんの本はいまもコンスタントに売れ続けている。誰か突然売れ出した理由を教えてくれないだろうか。
(あ)

No.765

断片的なものの社会学
(朝日新聞出版社)
岸政彦

 著者は関西の私立大学の教員だ。まだ若い人のようで奥さんの名前が何度か本書の中にも出てくるのが初々しい。研究テーマは沖縄、被差別部落民、生活史。去年出た『街の人生』(勁草書房)も話題になったが、読んでも、あまりに淡々としてその平凡なインタビューぶりに、ちょっと拍子抜けしてしまったことを覚えている。人選や語り口の普通さに逆に違和感があった。本書はそうした著者の「仕事の流儀」のようなものをエッセイに絡めて綴ったもので前著よりも読みやすい。本書を読んでから前著を読めば、たぶんずいぶん印象は変わっていたかもしれない。本書にも時折、路上のギター弾きや元ヤクザ、風俗嬢のインタビューも収録されている。なかなか読みごたえがある聞き書きだ。著者の言う「何事もない、普通の人生を生きている」人々との触れ合いに胸かきむしられる気持ちになった。どこかの学生によって書かれた「昼飯なう」のような、どうしようもないつぶやきにこそ本当の美しさがある、というのが著者のスタンスだ。異質なものにこそ価値があるノンフィクションや学者のテーマとしてはあまりにも何もない事柄にこだわるのは学者としての「失格かもしれない」とも著者はいう。むずかしいテーマ設定であることをわかって、あえて著者はそこに踏み込んでいくのだ。自分の解釈や理解をすり抜けて行ってしまう「分析できないもの」のなかにこそ、著者のテーマがある。

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