Vol.770 15年8月29日 週刊あんばい一本勝負 No.762


毎日人と会っていた八月

8月22日 「おいしいものは脂肪と糖でできている」というのは平凡だが、実は深くて秀逸なコピーだと思う。ウーロン茶のCMだ。実際TVで流れる食べ物のCMは99パーセントが「脂肪と糖」が圧倒的だ。体重にナーバスになっているデブとしては「脂肪と糖」はにくい敵。だから敏感なのだが、グルメ番組もCMも「おいしい」は「脂肪と糖」のことなのだ。脂肪と糖とは無縁のおいしいものを取り上げてほしい、と要求すれば、たぶん番組もCMも成立しない。だからこのウーロン茶のCMはある種TV番組やCMへの批評になっている、というのはうがちすぎ。

8月23日 仕事が大きな山場を越した。来週からは新しい仕事のスタートに立つ。私たちの仕事は「切れ目があるようでない」。制作が一段落しても今度は販売流通の問題が押し掛けてくる。スタート台に立ったところで、終わったと思った仕事に足を救われ、レースをキャンセルしたこともしばしばだ。来週からの新しい仕事は新入社員にそろそろ任せようかと思っている。まだまだ半人前以下だが、実戦を経験させないと成長が見えない。どこまでやれるか、どの程度の失敗でつじつまを合わせか、予測不能な事柄なので、やらせてみるしかない。やるほうも大変だろうが、任せるほうはもっと大変だ。

8月24日 まじめに経営者の仕事をしている。先月、毎月の請求書類をチェックしていてある異常に気が付いた。コピー料がバカ高いのだ。いつもの数倍に跳ね上がっている。毎月コピーする枚数は2千枚前後。その量に変わりはないのに料金だけが倍以上なのだ。原因はプリンターの印刷モードがすべてカラー仕様になっていたため。大急ぎで4台のパソコンすべてを「モノクロ優先」に固定。早く発見できたのが幸いだった。普段は請求書をいちいちチェックするなんて、経営者として恥ずかしいが、やったことがない。ちなみに過去のコピー使用データを管理者に問い合わせたら1年ほど前の8月、1か月のコピー枚数の75パーセントがカラー印刷というのがあった。これも間違いなくモノクロをカラーで刷った「痕跡」。パソコンって怖いよね。

8月25日 今日はビンカン回収日。月に2〜3回しかないから忘れたりすると大変なことになる。家と事務所の両方をまとめて出すので結構な量になる。新入社員が入ってきた時、最初に叩き込んだ仕事が「ごみ捨て」だ。1か月のごみ回収スケジュールを予定表に書き込ませ、朝一番でやってしまうようにしつけた。毎週水曜日には老人福祉施設が紙系ごみの回収に来てくれる。だから舎内には不要なものがほとんどない、きれいな空間を保つことができるようになった。

8月26日 夜にDVD映画を観るようになった。これが習慣になるとちょっと厄介。1昨日はアメリカ映画『八月の家族たち』(2013年)。メリル・ストリープとジュリア・ロバーツが競演するブラックコメディだが、結末はちょっと救いがなさすぎ。もともと戯曲として上演されたものらしい。昨夜は日本映画の『ジャッジ』。妻夫木主演のコメディだが、華やかなCMディレクターの世界と出身地の青森というギャップで笑いをとる。アメリカの面白い映画はほとんどがブロードウェイの戯曲が下敷きになるケースが多い。日本映画の原作はほとんどが漫画。漫画に偏見を持っているわけではないが、肝心の物語の「芯」にリアリティが薄い。漫画が優れているというより、活字の物語の弱さが敗因なのか。

8月27日 掛け持ちでいろんなことを同時進行でやれる人がうらやましい。一つのことを片づけてでないと次のステップに進めない。不器用の極みだ。3つも4つも仕事を抱えるとパニック状態になってしまう。朝一番で今日の仕事の優先順位を考える。机上でうまく段取りが決まらないと1日中精神的に不安定だ。イライラしっぱなし。自分の欠点はわかっているのだが、半世紀以上こんなふうに生きてきた。どうにもならない。うまく考えがまとまらないときは、容易くやれそうなものから着手。不安が消えなければコーヒー飲んでリラックス。それでもダメなら散歩だ。こんなことしか手はない。

8月28日 不器用と昨日書いたばかり。今日の新聞コラムで「不器用」をアメリカ人は「歩きながらガムを噛めない」と表現することを知った。うまいねえ。元大統領のフォードを揶揄した言葉だそうだ。毎日毎日ひとつずつ、わずかながらも、ちょっぴり前に進む。そんな日を繰り返して、振り返ればもう八月も終わり。毎朝、長袖にしようか半袖にしようか、迷う季節になっていた。八月のカレンダーは文字で真っ黒だ。ほぼ例外なく毎日誰かと会い、打ち合わせ、交渉し、議論して、酒を飲んでいる。こんなに「不器用」とは無縁の夏はたぶん人生でも初めての経験かもしれない。九月も同じような日々が続くのだろうか。忙しいほうがいい、いやそれなりにのんびりがいい。両方の想いが渦巻く、月末である。
(あ)

No.762

戦争をしない国
(小学館)
矢部宏冶・文/須田慎太郎・写真

 明仁天皇の折々のメッセージを、矢部が解説し、須田のイメージ写真とともに構成した、まるで写真集のように美しい本だ。前作のベストセラー『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)を読むと、この次回作は何となく予想はできた。でもこれだけ美しい写真集仕立てになるとは、ちょっと意表を突かれた。さすが編集者。何十年か前のベストセラー『日本国憲法』と似た発想力でインパクトは十分だ。そういえば「憲法」と版元も同じだ。もしかしたら意識したのかもしれない。
 本書を2度繰り返して読んだ。どう考えても異様としか思えない権力者の暴走に、歯止めをかけるために出版は何ができるのだろうか。本書はその答えの一つでもある。実にタイミングもいい。たぶん時の権力者が何よりも怖がっているのは「天皇のお言葉」に違いないからだ。多くの人たちに興味を持って手に取ってもらい、その行為そのものが権力者にとってはダメージになる。よく考え抜かれた企画だと思う。ベストセラーも間違いないだろう。実は矢部さんは友人だ。前作で一挙に「時の人」になったが、もう1冊、沖縄の基地問題に関する「情緒的でない絵本」を出してほしい。日米地位協定の舞台裏だ。大人が読める絵本を、彼なら書けるはずだ。いや、もう手を付けているのかも。

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