Vol.772 15年9月12日 週刊あんばい一本勝負 No.764


いつになったら老後を楽しめるのだッ

9月5日 土曜日だが仕事。アルバイトのM君にも来てもらい3人で机にかじりついている。仕事の内容は能代の料理レシピ集の文章を作るための資料収集と、突然入ったある原稿の「突貫工事」。突貫工事のほうは過去に何冊か本を出している高齢の著者の原稿だが、脱稿と同時にご本人が入院されてしまった。一時は出版をあきらめる旨の連絡もいただいたのだが、「私たちが校正に責任を持ちますから」と約束、気合を入れてとりかかった仕事だ。著者に何かある前に完成させ現物を見せてあげたい。時間との勝負である。しかし中身にミスがあれば元の木阿弥。最終チェックをする著者本人が不在の中での作業なのでいつもの二倍気を遣う。最近、こうした高齢者の本づくりのお手伝いをすることが多くなった。先日も寝たきりの高齢者の方が昔書いた原稿を親族の方が編んで本を出す、というお手伝いをした。

9月6日 モモヒキーズは鳥海山・七高山登山だが私はお休み。1週間後、台湾旅行三泊四日の予定が入っているので片しておかなければならない仕事がある。具体的には農業新聞の書評原稿と朝日県版コラムとHP用書評4本。枚数にすれば400字詰めで10枚ほど。書くのは何とかなるが書評は書く前に本を読まなければならない。その本を昨夜2時過ぎまでかかり読了。書くのは1時間もかからないはず(気分が乗れば)。日曜登山をセーブし始めて2か月、体調はキープできているが、それでも疲労が翌日まで消えず残ることが多くなった。年相応なのだと思うが思うように体が動かないのはもどかしい。体力をつけるためと称して暴飲暴食の誘惑も頭をもたげるが、今はガマン。

9月7日 ウインドウズ10になって「いいなあ」と思えることがある。パソコンにロックがかかると自動的に自分の写した写真のスライドショーが始まるのである。1枚もの写真の合間に6分割画面も出てくるコリようで、何度見ていても飽きない。分割写真には雪山写真の横にアマゾンの赤土道、どこかで食べたソバ定食の下に見事なニッコウキスゲの群生。隣は家のリフォーム工事風景といった具合でアトランダム。テーマも年代もテンでバラバラがいい。あれっ、これいつの写真だっけ、と考えているうちに次の画面に切り替わる。画像ストックはゆうに1万コマ以上ある。長く見続けても同じ写真は出てこない。すっかりはまってしまった。暇があるとすぐにパソコンをロックしてスライドショーの日々。

9月8日 目黒考二著『昭和残影 父のこと』(角川書店)のことをDM通信に書いたり、農業新聞の書評に取り上げたりしているのだがミスを連発していた。著者の名前は「考える」の「考」なのに「孝」と書いていた。私の祖母と目黒さんのお母さんは「叔母・姪」の関係なのに「姉妹」と間違えたまま。もう散々だ。恥ずかしくて穴に入ってしまいたい。訂正できるものは訂正したが誤植や校正ミスは本当に怖い。「考」と「孝」なんて確認しようとも思っていないのだから、始末が悪い。先日はある本の校正で「智恵子抄」の「智恵子」を「知恵子」のまま校了してしまいそうになった。書名に使われている最重要な単語ミスを見落としたまま本文校正が進行してしまったのだ。これが印刷にまわれば、もちろん全部刷り直し。なんだか気が緩んでいる。

9月9日 朝夕肌寒くなった。寝間着はいまだに半袖だが、朝ごはん時にはなにか羽織らないと寒い。カミさんは早くから朝ごはんの準備で動き回り火を使っているせいか「まったく寒くない」と言い張り「暑がりだったくせに」と嫌味を言われた。昔に比べて皮下脂肪がなくなったことも影響あるのだろうか。とにかく急に寒がりになってしまった。ご飯を食べ炭水化物が燃えだすと寒さは消えていくから空腹との関連が強いのかもしれない。昔に比べると炭水化物は控えるようになっているのは事実だが、1週間に一度は日本酒や羊羹が無性に恋しくなる。

9月10日 武田浪さんという好きな陶芸家がいる。滋賀県在住の人なので個展の案内をいただいても簡単には行けない。今年中には一度工房を訪ねる予定だが、その武田さんから詩人と組んで「詩と土」というテーマ個展の案内が届いた。この詩人がすごい。高橋秀明さんという北海道出身のかたで、ニヒリズムというか詩人に最も必要な孤高感がハンパない。詩を一篇読んだだけで魂をわしづかみされてしまった。かたや武田さんも、その作陶の荒々しさと繊細さに目がクラクラする。両人とも今や死語となった上品な「過激さ」の持ち主だ。武田さんはアメリカであの八島太郎に師事していた人。この2人がどこかで出逢ったのかコラボする。世の中捨てたものではない。

9月11日 秋田市は今のところ小康状態。夜半雨の音を気にしながら寝付けずに朝を迎えた。そうひどい状態になっていないことにホッとした。これから能代市に出かけるが、県北部は県南部に比べて雨量は少ないようだ。でも車の移動なので何が起きるかわからない。秋田県内はいたるところに大小の川があり簡単に決壊するからちょっと心配だ。ニュースで報道されないような小さな集落や里山では、ちょっと雨が降っても通行止めは日常茶飯事。山に登っていると、しょっちゅう足止めを食う。明日は仙台まで行き仙台空港から台湾へ行く。朝のTVで「空港アクセス便が不通」と報じていた。大丈夫だろうか。人生はほとんど思うようには通れない道ばかり。それは痛いほどわかっているつもりだが、ここ数年頻発する天災には恐怖を覚える。
(あ)

No.764

これでいいのか秋田県
(マイクロマガジン社)
鈴木士郎編

 自慢ではないが書店に行くことはほとんどない。本はネットで買う。ところが先日、用もないのに入ったコンビニの雑誌コーナーで本書を衝動買い。ムックのような雑誌で著者も版元名も聞いたことがない。表紙のデザインはヘタの域を超え下品なエロ本で、買うのに勇気がいった。でもなんだか「吸引力」がある。言いたいことは歯に衣を着せず言いました、というような潔さが本から立ち昇っていた。で、読んでみると、思った通り至極まっとうなことを書いていた。短期間の取材で、縁もゆかりもない地方を、これだけ正確に(風聞も多いが)、書けるというのはすごい。いやすごいことを書いているわけでないが、全体を過不足なく俯瞰できる「総合力」(歴史・文化・自然)がなかなかのものだ。読みながら、これはもしかしたら秋田県人の誰かがゴーストしてる可能性もあるな、という疑念も消えなかった。これだけ辛口の視座で全体像を見渡せるバランス感覚のある論客は、いるだろうか。問題の抽出力が的確で際立っている。本のレイアウトも装丁もブラック雑誌そのものなのに書かれていることが至極まっとうだ。1300円の雑誌だったが「お買い得品」だった。コンビニは侮れない。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.768 8月15日号  ●vol.769 8月22日号  ●vol.770 8月29日号  ●vol.771 9月5日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ