Vol.755 15年5月16日 週刊あんばい一本勝負 No.747


雨も地震も追悼も

5月9日 トイレのリフォームが終わったばかりだが今度は倉庫のリフォームが今日から始まった。いや本格的な工事は来週からだが、2階建ての2階部分をつぶし腐りかけている鉄製階段を撤去する。突風や大雪のたびに、背が高くて不安定な倉庫の崩壊が心配だったが、これで大丈夫だ。家も事務所も「自前」なので家賃はいらないのだが、結局は毎年100万円以上の維持管理、リフォーム代がかかっている。来年は自宅の屋根と外装の全面塗装塗り替えが待っている。どちらも築35年以上なので全体にガタがきている。ランニング・コストを考えると「持ち家」のアドバンテージって、あるのだろうか。

5月10日 太平山中岳は風雨、ときおりみぞれまで降りだし寒かった。前日亡くなった藤原優太郎さんの追悼登山の意味もあり、風雨がひどくなっても最後まで登り切ろうと決めていた。山ですれ違った何人かの登山者から藤原さんへのお悔やみの言葉をいただいた。それにしても季節外れのみぞれには驚いた。藤原優太郎さんはうちの著者であり、友人であり、山登りの先生だった。つい先日、抗ガン治療の5ステージ目が終わった、とふらりと事務所に顔を見せた。いつも通りふくよかに肥えていて、食欲もあり、髪の毛も豊かなまま。事務所にあった酢飯用桶が気に入った、というので持ち帰ってもらった。自著も10冊買い求め、そろそろ近場の街道歩きからでも再開します、と別れたばかり。そういえば金山滝から中岳へ至るルートを残雪期に初めて登ったのも藤原さんと一緒だった。雪のある太平山に登るなんて自分にできるだろうか、と不安のため前日一睡もできなかった。そんなことを思い出した。合掌。

5月11日 お天気はいいが温度が上がらない。ストーブをつけるほどではないので仕事場ではダウンジャケット着用だ。5月も半ばになってこの寒さ。いや寒いのは私だけなのかな? 今週いっぱいは事務所内にある在庫倉庫のリフォーム工事であわただしい。来週からはいよいよ夏のDM通信制作作業。その合間に仙台の私立大学にお話の仕事が入る。それとアクシデントも一つ。堅いせんべいをかじりすぎ歯が2本かけてしまったので歯科医通いも。社内宴会も予定に入っている。忙しくなりそうな気配だが、とにかく寒い。身体の中で何か異変が起きているのかしら。

5月12日 10年前に比べて明らかに仕事量は減っている。なのに読書量も年々落ちる一方だ。これはいったいどうしたことだろう。本の購読数は金額ベースでたいして差はない。本は買うが読んでいない、のだ。読む余裕がないといったほうが正鵠を射ている。ヒマはあるのに余裕がないのは、ほかにやることが増えたから。その「やること」の内訳はテレビやパソコンなど、どうでもいいことばかり。他人様に本を読んでもらう仕事なのに、自分が本を読む余裕がないのだから、夜郎自大。反省しきりなのだが、さりとて、何をさておいても読みたい、という本とはなかなか出会わない。文豪の個人全集や世界文学全集の完全読破とでもいった目標を作って義務的に読みだすのも手かもしれない。読書のエクスタシーを知っているから、はまってしまえばこっちのもの。

5月13日 友人や近親者が亡くなると、その夜は一人で行きつけの飲み屋で呑む。こんな自分との約束事を決めてからもう10年以上たつ。その行きつけの小料理屋の主人はカウンターの面前で包丁を握っているのだが、客に話しかけてくることはない。こちらが話しかければ応えるが、黙っているとずっとそのままにしてくれる。昨夜はなんだか独りではさびしいのでSシェフにも料理屋さんに付き合ってもらった。Fさんに追悼の献杯。もう20年以上通い続けている店だが、昨夜は何を思ったか、生まれて初めてウイスキー(角瓶)のボトルを入れた。日本酒や焼酎のボトルは何度も入れたがウイスキーは初めて。ハイボールを何杯か呑んだが和食とウイスキーの相性はいい。

5月14日 雨が続いている。雨は嫌いではない。倉庫のリフォーム中なので工事が中断するのは想定外だが。昨日の早朝の地震には驚きましたね。油断大敵の心構えを思い出させてくれたのはありがたい。ほとんどすべての人は3・11が脳裏によぎったに違いない。ところで先日呑んだサントリー角瓶をさっそく酒屋で買い家で飲んでいる。小売値段が1050円、こんなに安くていいの、という感じだ。コンビニのコーヒーも100円、いつも行列ができている。今日はこれから仙台行だ。毎年この時期、私立大学に集中的にお話に行くことになっている。友人たちには「ああプロセッサーね」と揶揄されている。オレは料理器具か。

5月15日 仙台は暑い。駅から外に出ただけで汗が噴き出してくる。半そで半パン姿の若者が多い。前に来た時はなかったのに隆盛を誇っている店があった。「焼きとりとワイン」を看板にする肉系居酒屋だ。そういえば東京にも多くできていたなあ。ためしにそのうちの一軒で食事。かっこうばっかしのヘナヘナ料理でがっかり。安くてうまい店なんてそうそうあるもんじゃない。それにしてもPCを携帯できるようになって何かと助かっている。今日もサンパウロの日本語雑誌編集長から、読んでほしいという原稿がメール添付されていた。サンパウロの日系3世がポルトガル語で書き、ブラジルの芥川賞といわれる文学賞を受賞した作品だ。編集長自身の翻訳である。この原稿を仙台で読みながら秋田に帰ることにした。便利だが、どんな場所にも仕事がついて回る、というのも問題かなあ。
(あ)

No.747

一般人名語録
(講談社文庫)
永六輔

 古本屋さんで文庫本3冊セットを発見。懐かしくて購読してしまった。たぶん文庫本になる前の単行本で読んでいるはずだが、もうずいぶん昔の話。中身はすっかり忘れてしまった。でもえらく面白かった記憶も同時によみがえった。再読してみよう、と迷うことなく思ってしまったのだ。30年以上続いているラジオ番組『誰かとどこかで』で拾ったネタを、雑誌「話の特集」に毎月連載したものだ。その本になる初期の時点で愛読していた。実はこの話の特集のコーナー時代に、処女出版した拙書「中島のてっちゃ」も紹介されたことがあるのだ。著者には足を向けて寝られない、こちらの事情もある。その70年代の人気雑誌連載が80年代に講談社で本になり、さらに90年代に文庫本になって、20年後の今、古本屋で再会したわけである。3冊というのは「一般人名語録」「普通人名語録」「無名人名語録」。ここでは便宜上1冊を選んだが、読んでいて3冊とも時代の垢がほとんどついていないのに驚いてしまった。いまも新鮮で面白くてためになる。考えさせられる「名言のきれっぱし」オンリーなのは見事としか言いようがない。3冊を一気に読みし、気になった言葉をチェック、手帳に書き写した。なかでも決定打はこの一言。「美しく老いる……よう言うわ」。CMのコピーに使いたい言葉も満載だが毒もけっこうきつい。特に芸能人に対しての著者のスタンスは独特だ。

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