Vol.746 15年3月14日 週刊あんばい一本勝負 No.738


3・11は真冬日に逆戻り

3月7日 あまり人には言ったことはないのだが、朝のみそ汁の具材で一番好きなのは「じゃがいも」だ。みそ汁に限らずジャガイモ料理そのものが好き。朝にじゃがいものみそ汁が出ると1日気分がいい。今日もジャガイモのみそ汁で、お代わり。先日、ある料理人の方が「みそ汁は具から出汁が出る。わざわざ出汁なんかとらなくていい」と言っていた。煮干し以外にも出汁をとるようになったのは戦後で、A食品メーカーのプロパガンダのせいだそうだ。このところずっとやめていた「ソーセージ焼き」を朝食に復活させた。ソーセージを炒めて醤油をたらした母親の定番料理だが、死ぬ前にどうしても食べたい一品、にはぜひ入れたいマイソウルフードだ。

3月8日 2週間ぶりの雪山ハイクは西木村「院内岳」。700mの標高のある山なので、さすがにハイキングとはいいかねるハードさ。雪が重く湿っていて歩きづらいうえ、急坂の続く長いコースで、山頂まで2時間半を要してしまった。いい気になって先頭ラッセルを引き受けたら案の定、後半ばててしまった。今年の雪山ハイク中、まちがいなくベストワンの疲労した山。この2週間、いろんなところをほっつき歩き、楽をして、美味いものを食べ、酒を呑んできた「つけ」が山の中で疲労になって出てしまった。ま、こんなこともあるさ。明日からはしっかりまじめに仕事。

3月9日 名古屋の出版社Fさんから教えていただいてヤフオクやアマゾンへ自社本の出品をはじめた。何百点も在庫はあるのでデータ作成だけでも膨大な作業になるが、焦らずゆっくり、ネット販売のインフラをつくっていきたいと思っている(といってもデータ作成や担当は新入社員の仕事)。前からネット販売は考えてはいたのだが、なんとなく「外の世界」が怖くて、ウブなうちの本は顔見知りするのでは、と危惧して遠慮していた。ここ数年、新刊をつくるより膨大な在庫本を、例え半額に値引きをしても売りさばくほうが、経済効率や精神衛生上からも重要と認識、ネット販売にふんぎりがついた。はたしてどうなりますやら、その都度ご報告いたしますので、こうご期待。

3月10日 最近面白い本に当たっていない。こちらのアンテナが錆びついているせいもある。いや、もうアンテナそのものが新機種に対応できなくなっているのかもしれない。そんな中、上杉孝久著『日本史がおもしろくなる日本酒の話』(サンマーク文庫)はちょっとよかったなあ。酒を通してみる日本歴史という発想がいいよね。著者の名前からもわかる通り、上杉謙信の子孫に当たる人で、仕事は日本酒プロデューサー。まさにはまり役である。歴史学者ウォーラーステインの「歴史上の人々の暮らしや実態をモノや慣習などを通じて観察する」という歴史人類学の手法で書かれたものだ。世界史を砂糖の観点から描いた『砂糖の世界史』も面白かったが、この日本酒の日本史の本も中学生から読めるすぐれもの。

3月11日 東日本大震災4年目の今日は一夜にして真冬に逆戻り。しまいかけた厚手の下着類を再登場させた。昨日は能代出張だった。ある人の講演を聴き、出版依頼の人と打ち合わせ、古い料亭の春慶塗展示を観て、居酒屋「べらぼう」で酒を呑んできた。行きは列車だったが、帰りはプロのドライバーFさんに秋田市から迎えを頼んだ。終電が9時だからだ。これが大正解。夜になって外は猛吹雪、道路はアイスバーンで、とても普通の人の運転では帰宅困難状態だった。夜の列車も運休なので間一髪助かった。楽しい能代の半日が吹雪でめちゃくちゃな思い出にかわる瀬戸際で何とか食い止めた。不謹慎だが、今日は二日酔いだ。

3月12日 真冬2日目。寒気も今日あたりで穏やかに退場してほしい。それにしても唐突な「冬」だった。DM騒動も落ち着き、大きな行事も片付き、さしあたって事前ストレッチの必要な重要日程はなにもない。こんな時を利用して、じっくり腰を据えて自分の原稿を書きたいのだが、こればっかりはなかなか難しい。なぜなら、書かないところで誰にも迷惑がかからないからだ。締め切りもないし納期もない。完成しなくても誰も困らないから、真剣さのモチベーションが維持しにくいのだ。やるのは自分のためだけだから、やり続けるためには「この仕事は本当に必要なものなのか」という自問自答に勝たなければならない。その答えはいつも同じ。あんまり重要じゃないのかもね、と自分の弱さと簡単に妥協してしまう。言い訳ばっかりいってられるほど若くはない。そろそろ腰を上げる潮時かな。

3月13日 独のメルケル首相が来日した時、日本はロボット(アシモ?)で出迎えた。メルケル首相はうれしいような迷惑そうな不思議な表情をしていた。ロボットはチェコの小説家K・チャペルの想像の産物だ。世界中の労働をロボットが行うようになり、そのうち一体が知恵を持ち人間に反乱をおこす。ロボット=悪魔の集団という物語だった。この小説の影響もありロボットは悪魔という認識はキリスト教圏のヨーロッパでは共通のもののようだ。日本のように手塚治虫のアトムでヒーローになった正義のロボット像は、ヨーロッパにはない。逆にいえば、日本がロボット産業や周辺の技術革新を推進できたのは、ひとえに手塚治虫のアトムのおかげといってもいいのかもしれない。戦後日本の世界に誇る技術イノベーションを支えたのが「漫画」だったのだ。
(あ)

No.738

役にたたない日々
(朝日文庫)
佐野洋子

 ベストセラー絵本「100万回生きたねこ」が家にあったので読んでみた。がよく意味がわからなかった。そのモヤモヤ感が、本書を読むきっかけだ。絵本とちがってこの本はおもしろかった。爆笑の連続である。特に車の話がおかしい。都内を運転中、道に迷いタクシーに先導をお願い、人の乗らないタクシーに金を払った話。圧巻は医者にガンを宣告され、2年ほどしか生きられないことを知ると抗がん剤も延命も拒否、ホスピスや治療にかかる費用1000万円もって、ジャガーの代理店に行きイングリッシュグリーンの車を買ってしまう件だ。その車を運転しながら、タクシーに先導されている図も想像すると、笑ってしまった。ズブズブに韓流ブームにはまり込んでいく自分を冷静に分析するパートも抱腹絶倒だ。これはオバさんたちの理屈などではない。著者にいわせれば「架空の華やぎにねじくれて触発された」ものなのだそうだ。解説を書いている酒井順子の言葉がうまく本書の本質を言い当てている。少しズルして引用する。「料理をし、麻雀をし、韓流ドラマに身を焦がす。病に慄き、自分のバアさんっぷりに愕然とし、それでも身近なものから天下国家までをとことん憂えて怒り狂う。淡々と豪快に生きる老境の日々を綴る超痛快エッセイ。人生を巡る名言、ゴロゴロ転がってます」。

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