Vol.742 15年2月14日 週刊あんばい一本勝負 No.734


書を捨てて町に出よう

2月7日 今日も穏やかないいお天気。雪がないのはうれしいが、どこか不安も隠せない。こんなはずはない、ドカ雪がどこかで笑っているはず、とついつい思ってしまう。明日の日曜登山(大滝山)というか雪山ハイキングまで、この天気が続いてくれればいうことはないのだが。土曜日はその明日の登山準備とHPの原稿書き、やり残した仕事の処理で終わってしまう。ほとんど1日中、机の前に垂れこめている。新入社員は泊まりがけでスキー場だし、カミさんは朗読のボランティア。今日の夕食の担当は私だ。そうか食材の買いだしもあるなあ。車がないので歩いて行くしかない。近所の八幡平ポークのコロッケでごまかすか。ここのコロッケは抜群の味だが、揚げるのは自分でやらなければならない。休みだからと言って散歩も休むわけにいかない。散歩を休むと食欲がなくなり、夜もよく眠られなくなる。現金なものだ。そんなわけで土曜日もけっこう忙しい。

2月8日 今日の日曜スノーハイクは秋田市内の大滝山自然公園を一周する三時間お散歩コース。もちろん大滝山(206m)の山頂にもちゃんと登ったのだが、下の大きな用水地を一周することのほうに意味があるコースだ。景色がいいからだが今年は雪がめっきり少ない。去年とはまるで違った風景だった。春先のような地肌の露出した山は中途半端で、なんだかちょっと興ざめ。スノーシューをはいたり脱いだりを何度か繰り返し、どうにか完踏できたが、雪の少なさに不完全燃焼。午後からは雨の予報だったが、下山して温泉から上がったら雨が降ってきた。なんともタイミングがいい。家に帰ったのは午後三時前だった。

2月9日 今週は半分ほど外に出ている予定だ。来週はほとんど事務所に居ない。これもちょっと珍しい。国内だが海外旅行だ。春のDMの製作中で大事な時期なのだが、そんなことを言っているといつまでも外に出られない。思い切って外に出る用事をつくり「息抜き」をしてこようと思っている。夜半から風が吹きまくっている。それでも不思議なことに雪は降らない。今年はなんだか不気味なほど、雪が降らない。それはそれで助かっているのだが、なんだか身体がしゃきっとしないのも確かだ。このまま緊張感が失せたままナマチョロイ春へ突入してしまうのだろうか。いや、そう甘くはない。やはりもう2,3度は、雪の怖さを知らしめてくれるような事件を起こしてくれるのは間違いないだろう。今日は外れた差し歯を直しに歯医者。新しく買ったモバイル用PC(サーフェス)にも慣れる必要がある。

2月10日 今年は外に出る機会が多そうだ。ということをもっともらしい理由にして、モバイル用パソコンを買ってしまった。マイクロソフト社のタブレット端末サーフェスである。迷っても違いがわかるわけではないのでキーボードの操作性だけで選んだもの。はたして使いこなせるのか自分でも不安だ。というのも過去にiphoneやipadをいち早く購入、結局まったく使うことなくカバンの肥やしにした苦い経験がある。タブレットやスマホなどなくても普通に仕事はできる。ガラケーがあればなんの不便も感じない。いやガラケーさえもほとんど使わずとも大丈夫だ。でもなんとなく格好つけてタブレットを持ってみたい。いい年をしてこのミーハー度はいかんともしがたい。まあ端末なので通信費はかからない。使いこなせなければ新入社員に払い下げればいい。その点は気が楽なのだが、今回は何とか自家薬籠中のものにしたい。

2月11日 青森行の列車でこの原稿を書いている。新幹線と違って「つがる3号」は揺れるし、ネット環境はゼロだし、おまけにモーレツに暖房が効いている。昔から冬の列車の暖房は「地獄」のようだと感じていたが、この時代に変わらぬこのJRのスタンスは見上げたもの。今回は列車の中でのPC(サーフェス)の使い具合をレポートするつもりだったが、とにかく「暑く」て何もする気になれない。新幹線に乗りなれて心身とも脆弱になっている自分を恥じたりもするが、やはりこの暑さは尋常ではない。外は一面の銀世界。中は常夏のハワイ。おまけにネットはつながらないし、車掌は切符をチェックしに来るし、楽しいはずの旅がイライラし通し。早く気持ちを切り替えて「楽しい旅モード」にならなければ。今日は青森市で「弘前劇場」の公演を観る予定だ。昨年から八戸の教師になった元バイトのH君も一緒。暖房ごときでくじけてはいられない。それにしても青森市は遠い。

2月12日 久しぶりの青森市。駅からまっすぐ繁華街が伸びていて、ほとんどこの1本の道路ですべての用事が足りる街になっている。公官庁も飲食店もホテルも市場もデパートも病院もこの道路1本で事足りるのだ。便利というかコンパクトというか、でも飽きやすいだろうな。住んでみると案外暮らしやすいのかもしれない。海のすぐ横に街がある、というのもロケーションとしてはアドヴァンテージ。それにしてもこの道路の人通りは驚くほど多い。祝日とはいえ秋田市で繁華街にこれだけの人が出ていることは、まあちょっとないだろう。若者の姿も多いし、おばちゃんたちも寒さに負けずに元気そうだ。さらに二つの大きなデパートの洋服屋さんに「インターメッツオ」が入っていた。40代からずっとこのブランドの服を買っているのだが、秋田に2軒あった店がどちらももう消えてしまった。これだけでもうれしくなってしまう。10数年ぶりに訪れた街だが、秋田市よりずっと大きな街になっていて、なんともこちらの不明を恥じるばかり。

2月13日 活気に満ちた青森市街の風景が今もまぶたに焼き付いて離れない。少子高齢化、人口減に悩む北東北の地にあって、青森市もまた秋田市と同じような……と信じていたら、街や路上のにぎわいに圧倒されて帰ってきた。秋田はかなりひどいなぁ、というのが切実なる実感である。繁華街を1本の幹線道路にすべて集中させているために必然的に生み出される「活気」なのかもしれないが、一部分とはいえにぎわいがあれば、そこに暖かさが生まれ、人は集う。かなりのショックを受けてしまった。国民文化祭の経済効果云々で自画自賛している場合ではない。「コメ」(あきたこまち)に拘泥するあまり、もっと大切なことを置き去りにした結果だろう。「青森には負けないだろう」と思っている人たちが秋田には多い。15年ほど前、印刷所のあった山形市で美味しい日本酒をいただいた。酒蔵の人は自信満々「昔は秋田の背中をみるばかりでしたが今は新潟です」と言い切った。今の青森も同じことを言うだろう。
(あ)

No.734

ノンフィクションは死なない
(イースト新書)
佐野眞一

 週刊朝日の「ハシシタ!」連載中止事件の波紋は、さまざまな形で今も言論の世界に暗い影を投げかけている。権力へ真正面から言論で立ち向かってきたノンフィクション界の大物ライターが、この仕事であっさり業界から消えてしまうのは惜しい。上原善広や石井光一といった若手の書き手たちも台頭しているとは言いながらも、まだまだノンフィクションの世界における著者の存在は小さくない。個人的には、週刊朝日の予告広告を見た瞬間、その連載タイトルのあまりにひどい、傲岸不遜なネーミングに驚いた。それが正直な気持ちだ。差別そのものを、これだけ露骨に題名に練り込んでいいのか。あまりに悪意に満ち、すっかり読む気が失せた。なぜ、これほど非常識な題名にしたのか。「危うい」とわかっていて題名をつけたのはだれなのか。本書を読んで、題名をつけたのが週刊朝日編集部だったことが明らかにされている。もし本人がこんな題名をつけたのだとすれば、物書きとして再登場の機会は失われていたのは間違いないだろう。盟友だったはずの猪瀬直樹との関係も本書では赤裸々につづられていて興味深かい。できれば猪瀬直樹のリヴァイバル本も期待しているのだが、こちらは小説でも書かなければ、復活は難しいのかもしれない。あまりに大言壮語が過ぎたからだ。そうした人並み外れた権力志向や出世志向が強かったといわれた猪瀬だが、それも実像だったのか疑ってみる必要があるのかもしれない。虚像を暴くプロフェッショナルの実像があぶり出されたのでは洒落にならない。

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