Vol.744 15年2月28日 週刊あんばい一本勝負 No.736


目、耳、鼻、歯で最初にダメになるのは……

2月21日 少し長めの旅から帰ってくると、溜まった仕事を片付け、洗濯物を洗濯機に放り込んで一息ついてから、やおらシャチョー室で「カンテン」づくり。約2週間分(3棹)を一気に作ってしまう。これが旅の後の重要なルーチンだ。こうした儀式を終え夜の散歩。これでようやく「ホームに帰ってきた」としみじみ感じる。そして早めに風呂に入って寝る。自分の寝床がいとおしい。そしてシンプルな朝御飯(和食)を食べ、ようやくいつもの日々に生還できる。元の生活に戻るため半日の儀式を通過しなければならない。それにしても、19日朝に那覇のホテルで荷物を宅配便に出したのだが、それが翌20日昼、届いた。3日はかかると聞かされていたのに、これでは本土内より早いではないか。

2月22日 2週間ぶりの日曜登山(雪山ハイク)は秋田市の高尾山。雪のない季節ならまったく行く気のない平凡な自然公園だが、雪をかぶると表情は一変する。山門から山頂までの急坂を登るコースはけっこうハードだ。ぐるりと1周するだけで4時間近くかかる。この時期に毎年雄和・女米木集落側から登っているのだが、今回は川沿いの白川集落からはじめてトライ。雪の少なさが問題だったが、最初から最後までスノーシューをはいたまま下山できた。2月のこの時期、雪山の「雪の少なさ」を問題にするというのも、なんだか微妙な気分。山だけは雪がたっぷりあったほうがいい。いつもなら4月中まで雪の残る我が家の前の路上の雪が、きれいに春先のように消えていた。

2月23日 昨日の高尾山のスノーハイクでたくさんのウサギの足跡を見た。最近は本当にウサギの足跡を見ることが少なくなった。ウサギがいなくなったのは低山に萱場(かやば)がなくなったためだそうだ。『唱歌「ふるさと」の生態学』(ヤマケイ新書)に書いていた。水に関しても興味深い記述があった。日本人が水道水を捨ててペットボトルを買うようになった経緯についてだ。「水道水がまずい」というデマが燎原の火のように広がった歴史的背景について書いてあるのだが、これには深く納得。興味ある人は本を読んでほしい。この本のサブタイトルは「ウサギはなぜいなくなったのか?」。日本人の愛唱歌から自然と動物の生態を追いかけるという発想が素晴らしい。

2月24日 ものを買うより捨てて減らすほうに意欲的になった。これは年を取った証拠。昨日、レンタルビデオ屋で久々にCD音楽を借り、アイチューンで聴こうと張り切って出かけた。選んでいる途中で虚しくなってやめてしまった。5枚で1000円、20枚までレンタルできるのだが、こんなことをしていると、また際限なく借りだしてしまう。こんなことを繰り返すのはやめよう、と踏みとどまった。もう一つ。いっこうに捨てようとしても捨てられないのが贅肉。毎日体重計に乗っているのだが、大幅に増えもしないが、ちょっとやそっとのダイエットではピクリともしなくなった。体重が減ると1日中気分がいい。これはデブといわれ続けた人でなければわからない感覚。目下のところ体重さえ減れば何があっても怖くない、というぐらいの感覚だ。朝からふさぎこんでいるときは、たいがい体重が増えた時。単純なもんですなあ。

2月25日 春DMの印刷が昨日終わり、郵便局への引き渡しも終わった。今日から本格的な配達がはじまる。ここから1週間は忙しくなる予定。わずか1週間しかその「熱狂」も続かないというのが問題だが、こんなご時世、贅沢をいってもしょうがない。そんなわけで作業は一段落だが、頭の中はもう3カ月後の夏DMのことを考えている。なんとも世知辛い。倉庫に入って次に売る本や残部稀少本を探し、目玉になる本を決め、新聞広告用のラインナップを考える。これも仕事の楽しみといってしまえばそれまでだが、なんとも因果な商売だ。死ぬまで延々こんなことを繰り返すのだろうか。

2月26日 蕎麦が好きだ。週1回は食べたいのだが秋田市には蕎麦屋がない。こう言うと県外の人は不思議な顔をするのだが、本当にないのだ。食べる習慣がないので「いい蕎麦屋が育たない」といったほうがあたっているのかも。窮余の策として秋の宮の無店舗宅配蕎麦屋「かむろそば」から、打ちたてと汁を取り寄せている。つなぎにフノリを使った10割蕎麦だ。Kさんは農業の傍ら本格的に蕎麦を打つ職人。この蕎麦がうまいので十分満足しているのだが、雪が消えると農作業が忙しくなり、蕎麦屋は秋まで臨時休業になる。もう少しでその休業期間に入る。そのため、これからは毎週でも食べるつもりで体調を整えている。

2月27日 奥歯手前の差し歯がとれたので現在治療中。行きつけの信頼できる歯科医がいるので歯に関して不安はほとんどない。少年の頃から虫歯が多かったので歯に関しては劣等感ばかり。逆に高齢者になるとその劣後感が功を奏したのか、急速な悪化は免れている。山でも「匂い」には敏感なので鼻も今のところ問題はない。3年ほど前から就眠前に目薬をさすようになって、なぜか目もすこぶる調子いい。目ヤニがたまったりかすみ目がなくなった。問題は耳。TVのCMの言葉がよく聞き取れない。なにを言っているのか分からない。役者が悪いと他人のせいにしていたのだが、どうやら耳の劣化のせいで早口のセリフが聞き取れなくなっているようだ。目、歯、鼻、耳のうち最初にダメになるのはどうやら耳のようだ。これは不幸中の幸い、と思うべきか。
(あ)

No.736

満願
(新潮社)
米澤穂信

 お正月用に読むミステリ小説を探していたら、本年度(2014年)最強ミステリといわれる本書の存在を知った。「ミステリが読みたい!」第1位である。過去に何冊かこの作家の本を読んだことがある。どうやら本書はこれまでの著者の本のなかでも圧倒的なベストセラーのようだ。6篇の短篇からなるミステリだが、ここでは内容に触れられないのがつらい。書名になった「満願」は本書の最後を飾る作品だ。人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機を、弁護士が語り下ろしていく。殺人の動機は思いもよらぬものなのだ。この作品は圧巻だが、個人的には最初の「夜警」が好き。警察小説にまったく興味はないが、この作品は深い謎に満ちていて共感できた。どこにでもいる若い警察官が撃った1発の拳銃の弾が、事件の謎を解く大きな鍵に……いや、これ以上書いてしまうのはルール違反。それにしても6篇ともまったく違ったシチュエーションの物語で、6冊の本を読んだような充実感がる。構築力が見事だし、テーマに興味が持てなくとも読ませてしまう流麗な文章と精緻なロジックがある。すごい作家がいるものだ。1978年生まれというから、まだ40代ではないか。岐阜出身というのも引っ掛かる。好きな作家である奥田英朗も岐阜出身だったはずだ。この県にはエンタメ作家の系譜があるのかしら。

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