Vol.732 14年11月29日 週刊あんばい一本勝負 No.724


バタバタしていたら、もう師走

11月29日 Sシェフから薫陶を受けネギ料理にはまっている。2年ほど前、Sシェフの生まれ故郷・能代のぶっといネギをいただいたのが始まりだった。旬のネギをオリーブオイルで炒め醤油をたらしただけの「酒の肴」が美味しかった。このあたりからネギ料理に開眼。先日は生まれてはじめて「ネギマ鍋」を食べた。ネギとマグロとあぶらげとキノコを薄味醤油で炊いたもの。これはバランスが難しいのでSシェフに作ってもらった。ネギを筒状に切り鍋に立て、真ん中に鴨を盛り上げた「簡単カモ鍋」は自宅でつくってみた。ネギをバジルソースで炒めトマトソースと併せワインのツマミにできないか目下の課題だ。ネギはあの薄皮をはいだぬめりのあるところにうまさが凝縮しているのだそうだ。

11月30日 今日は県北にある房住山。澄んだ秋の空の下を気持よく歩いてきた。雪もなく無風、これが秋の山の最後かもしれない。前日、あまりよく眠られなかった。山行にだいぶ慣れてきたのにこのザマはなんたることか。妙に気持ちが高ぶり、目が冴えてしまう。それでもウトウトしたようだ。強烈な夢を見た。なぜか少年時代のぼくはライオンを飼っていた。自宅に放し飼いだ。すごくいい関係だったが、ある日ライオンは家出する。外に逃げてしまう。人間に危害をくわえないか心配で、必死で探すと家の裏手で雪の中に倒れていた……というストーリーだ。夢の背景と言うか根拠になったものある程度は想像できるのだが、ライオンという存在がなんとも唐突でインパクトが強かった。夢はしょっちゅうみるが、こんなに細部まではっきりストーリーを覚えているのも珍しい。

12月1日 月曜日の愉しみは夜のテレビ。他の人と比べてみたことはないがテレビはあまり見ないほうだと思う。でも月曜の夜だけは別。「プロフェッショナル 仕事の流儀」「サラメシ」「人生デザインU−29」と3本を連続で見続ける。夜10時から12時まで連続して放映される。好きな番組が月曜夜2時間にたまたま凝縮されている。最近のお気に入りは金曜夜11時からの「ドキュメント72時間」。週末なので見逃すことが多いので、これは録画している。予定調和を排し、普通の人々の多様な人生を演出抜きで切り取ったドキュメンタリーだ。NHKでなければできない好企画。自分の仕事のヒントにもなっている。こういう番組はずっと続いてほしい。

12月2日 毎日食べる「沢庵」は生協から届く九州産1本漬け。病み付きになるほど美味い。これ以外の沢庵をうまいと思ったことがない。ところが先日、酒田の寿司屋でもっとうまい沢庵に出くわした。お代わりを頼むと「築地の寿司屋専門店でしか買えない希少品なので」とやんわり断られた。寿司屋専用の沢庵があるとは知らなかった。根掘り葉掘り聞き出し、後日ネットでその製造・販売店を突き止めた。かなり高価でびっくりしたが、もっと驚いたのは、ここ何十年も家で食べている生協の沢庵と同じ製造会社だった。九州・宮崎の野崎という漬物専門店だ。ちなみに白菜漬けは西武デパート地下の丸越という店で買っている。ここは名古屋が本店だ。秋田には漬物自慢をする人が多いが、残念ながら西日本の足元にも及ばないレベルのものがほとんどだ。秋田市の「お多福」の漬物がひとり高いレベルで他県物と競い合っているのが現状だ。

12月3日 いつもは静かな事務所だが、今日は賑やか。仙台の私立大学の女子大生が研修に来ているのだ。自分も非常勤で教えている大学なので二つ返事で引き受けた。それにしても若い女性が一人いるだけで事務所はずいぶんと華やぐ。普段は曇天の空の下で暗い表情で押し黙って仕事をしているのだ。午後からは、いつもの秋大生バイトM君も参戦。こちらにはずっと調子の悪かったマイコンピュータをチューニングしてもらい、PC問題点が一挙に解決。モバイル用に買うか買うまいか迷っていたコンピュータも重要なヒントを与えてもらい一歩前進。外からの「新しい風」って必要だネ。山仲間の長老Aさんから朝一番で「秋田のたくあん」の差し入れがあった。というか昨日のブログに対しての「異議申し立て」か。試食が楽しみ。

12月4日 なんだかバタバタしているうちに12月。師走である。まったくそんな気分ではないのだが忘年会の予定がボツボツと入りはじめている。カレンダーにそんな今月の予定やルーチンワークを記していたら先月は山に5回も登っていることが判明。大石岳、高岳山、御嶽山、鞍掛山、房住山と、名もない小さな山ばかり。雪に埋もれる前の「あでやかな秋の山」を目に焼き付けようと欲張った結果だ。秋の山は本当に息を呑むほど美しい。といっても雪に埋もれた冬山がつまらないわけではない。これはこれで「心が洗われる清冽さ」がある。天気が良ければそれは倍増する。冬の青空は雪国に生きる人たちの希望の源だ。で今週末は保呂羽山。スノーシュー着用防寒具装備の本格的な冬山登山。まだ4日も先だが、いまから心は浮き足立っている。秋の山はきれいだが、冬の山は楽しいのだ。

12月5日 油断していたらまたアマゾン・ユーズドで注文した本が「輪ゴム本」だった。裁断されページがバラバラの「自炊した後の本」が送られてきたのだ。つい最近、日本ペンクラブが知財高裁で「自炊は違法」という判決を勝ち取ったばかり。なのにアマゾンではいまだに堂々と自炊本が出回っているのだから始末が悪い。それでもネット通販に関しては楽天よりはアマゾンが好き、という人が多い。楽天は客の囲い込みがしつこくウンザリする。逆にアマゾンは一人ひとりの顧客には無関心風なのがいいのだろう。くわえて楽天マーケットで明らかに違法な商品が売られていれば、日本では有名人であるM社長は批判の矢面に立たされる。それがアマゾンでは経営責任者の顔が不明なため暖簾に腕押し状態だ。それにしても自炊本は頭にくる。自己嫌悪をともなった後味の悪さ、といえばいいのだろうか。あ〜あ、またやられてしまった。
(あ)

No.724

檀密日記
(文春文庫)
檀密

 日記本は大好きだ。いい日記は「悪口」や「悪態」をつく。そこが重要な要素だ。他者への攻撃という意味ではない。世間や社会一般、友人たちへの呪詛のような毒がないと日記はつまらない。きれいごとばかりの日記はタレント本で充分だ。というと、本書もタレント本のように思われるかもしれないが、そうではない。33歳の裸を売りに芸能界に生き残る女性の哲学的なモノローグが満載のちゃんとした本だ。自問自答する自省的な作文だ。檀密のつくられた虚像と実像とのギャップに感動すること請け合いである。テレビや雑誌などで手あかのついた人物像から遠くはなれ、抑制の効いた、ちょっと斜に構えて世間と対峙する、れっきとした頭のいい大人の女性の日記なのである。有料のブログに綴られたもののようだが、いきなりそれが文春で文庫本になるのだから、編集者もよく見ている。「晴れ間と雨の絶妙な共存で不快さが拭えない昼過ぎ」なんていう書き出しから日記ははじまるのだ。驚いたのは共演や対談をした有名人の名前を実名で登場させないことだろう。たぶん久米宏や細川元首相らしき人も、それとなく人物像を匂わせるだけで実名で登場させていない。このへんの上品さと謙虚さが彼女の持ち味だ。賞味期限切れのソースで運試ししたり、やたらと髪の薄さを気にしてコンビニに通う。熱帯魚に夢中で眼鏡フェッチだ。なんだかよく分からないが、型にはまらないアナーキーな分裂ぶりが本書の魅力だ。

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