Vol.730 14年11月22日 週刊あんばい一本勝負 No.722


今年やることは全部やってしまった

11月15日 土曜日は仕事に集中できる。休日仕事はいつもより「はかがいく」のはなんでだろう。1週間分、やり残したこと、やらなければならないのに手がつかなかったこと、これから準備しておかなければならないこと、そうしたことに集中できる。他の曜日と何が違うのか。来客や電話などがないこと。ルーチンがないので時間に余裕があること。やればやっただけ「得した気分」になれること。予定外の仕事だから完了すると「おつりを余計にもらったような」お得感があること……たぶんそんなあたりか。火曜日にやろうと土曜日にやろうと仕事にかわりはない。それで賃金がアップするわけでもないが、とにかく「難しい仕事」は、よし土曜日にやろう、と決めている。

11月16日 今日は横手にある御嶽山。でも目的は山行ではなく増田・真人公園近くなる佐々木リンゴ園でリンゴ狩りをすること。こちらが最重要ミッションなのだ。その前に御嶽山に登るのだが予想以上の雪。30センチ以上積もっていて夏道がわからず、途中で下山してきた。近くにある金峰山に鞍がえし、30分ほどで山頂へ。真人公園でランチ、麓にある温泉「あっぷる」で湯につかりリンゴ狩りへ。自然災害もなく良いリンゴがとれたそうだ。王林が特にいい味になっていた。2カ月くらいは毎日食べても大丈夫なほど仕入れて大満足。毎昼リンゴを食べる生活がもう2年以上続いているから、なんだか大金を貯金したような気分だ。別れ際も山仲間たちは妙に明るかった。今年も無事に入手できたリンゴのせいだ。

11月17日 熱燗の酒が美味い季節。日本酒の世界では大きな地殻変動が起きているようだ。ものの本で読んだのだが長く東北や北陸が「銘酒の里」だったのは酒の熟成に必要な冬の寒さがアドヴァンテージとしてあったため。それがタンクなどの冷蔵技術が進歩、極端にいえばハワイでも秋田と同じ品質の日本酒ができるようになった。さらに酒を搾るときに圧力をかけると酒質が変質する。そこで酒ともろみを遠心分離で分けてしまう「革命的な」機械が秋田の醸造試験場で開発された。が、秋田の蔵では高価で使えず、今をときめく「獺祭(だっさい)」が初めてその機械を採用。「獺祭」はタンクを冷蔵して一年中酒を造る四季醸造の蔵。あと五年もたてば、杜氏もいない、冬の寒さも必要としない、でも世界に通用する「サケ」が登場するという。ちなみに海外のサケ・ブームは実は世界的な景気後退という経済情勢とリンクしているという。ワインが高価で代わりの酒として「サケ」が選ばれているというのだ。う〜ん。

11月18日  昨夜から冬用の厚手の寝間着を着用。そのせいかぐっすり眠れた。寝間着さまさまだが、昔に比べるとすっかり寒さには弱くなった。これが年をとるということなのか。この冬用寝間着はタートルネック風になっていて首はむろん手足にも防風ゴム入り、寒さはどこからも入り込めない。駅前の無印良品で4900円。去年の買い物ベストワン商品だ(ベスト2は忘れたが)。あまりに着心地がいいので2枚持っているが、今年用にもう1枚買う予定だ。2セットあれば十分のような気もするが、良いものは無くなってしまうのが怖い。強迫観念にかられて余分買いをしてしまう。これは貧乏性のなせるわざ。

11月19日 冬DM通信作業が終わった。あとは印刷して送付するだけ。今年最後になる予定の新刊も先週出た。もう何もすることはない。今年やるべきことはすべてやってしまった、と胸をはりたいところだが、そこは貧乏性の悲しさ。来年の仕事がほとんど未定なのが「不安」で夜も眠られない。いつまでたっても「安寧」とは無縁の日々。これを40年以上繰り返してきた。何とか年相応に「枯淡の境地」なるものに近づきたい、と真剣に思っている。でもできない。人間ができていないこともあるが、ともかく何かと格闘していないと、すぐにしおれてしまう「体質」だ。これだけはもうどうしようもない。ウジウジと悩み続けて死んでいくしかない。

11月20日 久しぶりに青空。これだけで十分気分がいい。仕事の山を越えたのもうれしい。うれしいのだが、ここで昔ならフラリと旅行に行くのが常だった。最近はこの旅衝動がすっかり失せてしまった。外に出て酒を呑んで宿で寝る。この「寝る」ことの恐怖がある。枕が変わると寝られなくなる。クタクタに疲れてもバタンキューとはいかなくなった。酒も睡眠誘導には逆効果らしい。旅する作家・椎名誠さんの新刊『ぼくは眠れない』(新潮新書)には、35年にわたる不眠症の赤裸々な告白がつづられている。睡眠薬が手放せなくなり、精神科受診や酒の逆作用、夜更かし癖のある人が肥満になりやすい、といった興味深い話が満載だ。幸いにもそんなにひどくはないが、いまも山に行く前日は確実に「ある種の不安」から不眠症気味になる。山に慣れてくるに従って以前よりは眠られるようになった。「寝る」ことができるというのは幸せなことだ。

11月21日 仕事が一段落したのに、なんだか微妙に落ち着かない日々が続いている。無理矢理やることを探し、焦っているという感じ。やることがないのに自分のデスクを離れるのはけっこう怖い。外に呑みに出かけたいのだが体重増加に躊躇する。旅に出るのはおっくうだ。アクティブな行動に対して、これまでの経験と想像力で思いっきりブレーキをかけてしまう。気分転換にショッピングもありだろうが、店の前まで行っても「あるやつで十分じゃないか」と抑止力が勝ってしまう。いろんなことは結果が想像できる。結果がたやすく想像できると喜びや満足の度合いもわかるから途中でやめてしまう。思い切って行動に移すと結果オーライのケースも多いのだが、それを織り込んでも結局は「なにもしないこと」を選んでしまう。これは深刻な老化ではないのだろうか。
(あ)

No.722

山に登る前に読む本
(講談社ブルーバックス)
能勢博

 山登りをはじめて今年で10年になる。毎週毎週それも四季を通して県内近隣の山に登り続けている。もう初心者と甘えてばかりもいられなくなったが、300回以上山行を重ねた今も恥ずかしいのだが足の痙攣が頻繁に起きる。身体のどこかに欠陥があるのだろうか。塩分がたらない。筋肉の冷えや疲労。いやストレッチ不足では……いろんなことを言われてきたが、この本を読んで疑問が氷解した。「グリコーゲンの枯渇」が原因だという。本書のサブタイトルは「運動生理学からみた科学的登山術」。著者は信州大学のお医者さんだ。身体と運動のメカニズムをわかりやすく解説、効果的なトレーニング方法や水分栄養補給の必要量を豊富な実験データから教えてくれる。とにかく「目からうろこ」というか、驚くような科学的データが満載で、山の本というよりも健康科学の本というほうが正確だ。ご本人自身がクライマーである。海外遠征にもドクターとして参加するつわものなので自説に説得力がある。ちなみに毎日のトレーニングで最も山登りに効果的なのは「インターバル速歩」だそうだ。意外だったのは、スポーツドリンクはできるだけ薄めずにそのまま飲むこと。朝食はラーメン、夕食はカレーにベーコン、これが炭水化物と脂質を程よくバランスした山行前の理想的な食事だそうだ。運動生理学という観点から山登りを解読する新鮮さが、この本の魅力だ。

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