Vol.723 14年10月4日 週刊あんばい一本勝負 No.715


「老け顔」から脱却の兆しが……

9月27日 日本酒がうまい季節。体重計に八つ当たりする機会が増えそうだ。季節にもっとも敏感なのは味覚だ。とくにアルコール飲料が代表格で、身体も正直に反応する。今夏はビールをよく呑んだ。といっても500ml1本の晩酌だが、ビールを飲む習慣がなかったので、これでも大進歩。そのビールが突然嫌いになる。秋になった証拠だ。身体は正直だ。季節は律儀にいろんなメッセージを運んでくる。ビールはツマミを選ばないのが気に入っていた。カワキモノで充分なのも重宝した。日本酒はだんぜん漬物がいい。食事がメインになるケースは、やっぱり焼酎やワイン。食事の邪魔をしないアルコールだ。最近は日本酒を「生」で呑むことがほとんどなくなった。水で割ったりオンザロックにする。ぬる燗も好きだが熱燗はちょっぴり苦手。毎日体重計に乗っているのでよくわかるのだが日本酒を呑んだ翌日は確実に1キロ以上体重が増えている。

9月28日 今日は岩手・国見温泉側から秋田駒ケ岳の外輪を時計回りに1周。去年も同じコースを堪能、HPトップ写真はその時のものだ。国見ルートはきつくもなく、景観のいい歩きやすいコース。去年は女岳で今年は男岳に登頂。ところどころに吹きあがっている噴煙を見るたび御嶽山の惨劇を思い出した。女岳の黒い溶岩流はまだ生々しい。1970年(昭和45)の噴火跡だ。知り合いの新聞記者が、この噴火のときにはまだ秋田の新聞各支局は、画像の送信に伝書鳩を使っていた、と話していたの思い出した。1970年に新聞社が画像を送るために伝書鳩を使っていたんですよ、ご同輩。時代はすごい速度で変化している。鳩からネットへ、こう並べてみると技術革新という言葉の意味がリアルに感じられる。

9月29日 事務所の屋根の葺き替え作業が始まった。若い職人たちが足場を組み立て、屋根を走り回っている。屋根は建物では一番重要な部分だ。築30年以上たつわが事務所にとって、何年かに一度は点検とリフォームを欠かせない重要パーツだ。工事で思い出したが、山を歩いていると登山道が石や砂利できれいに整地されている。こんな山奥まで資材をどうやって運び揚げるのだろう、といつも疑問に思っていた。これは木と木の間にロープを張りウインチで巻き上げ、資材を運び揚げながら作業をするのだそうだ。山仲間の建築士Aさんが教えてくれた。そうか、いくらなんでもヘリコプターでいちいち運び揚げていたらいくら金があっても足らないもんな(国定公園などの大きな山はヘリコプターで荷揚げするそうだが)。鳶のような職人たちが、こうした小さな山の登山道整備を担っている。そうした舞台裏に関しは何もしらないのが、恥ずかしい。

9月30日 事務所の屋根工事やなんやらでこの1週間は仕事にならない。と勝手に判断、外に出ることにした。遠距離が安くなる「大人の休日切符」もゲットできたので、しばらく雲隠れします。来週もずっと庄内に滞在する予定なので、ほぼ2週間、仕事を離れて命の洗濯です。というわけで10月はいろいろと波乱含みの(いい意味での)スタートになりそうです。後半には新刊も2点ほど、編集中の半は3本。年1回の健康ドックもある。ドックと言えば最近まったく歯医者に行っていない。ダイエットで外食をやめ甘もの間食をしなくなったあたりから、過去、年4回ペースで通っていた歯医者にピタリと行かなくなった。歯とダイエットが関連しているなんて驚きだ。ダイエット効果で、思いもかけなかった歯のトラブルが消えたんです、ほんとに。

10月1日 暑いッ。思った以上に東京は残暑が厳しい。半袖でもじゅうぶんだった。秋田とは4〜5度は確実にちがう。おまけに常宿のホテルがとれず、近くのチェーンホテルに泊まったのだが、隣がオフィスビル。夜中もこうこうと明かりがついていて、カーテンを開けられないア。建物同士の間隔が1mもない。カーテンを閉めっぱなし、クーラーつけっぱなしで、閉塞感が半端ではない。旅行一日目にして秋田の秋と居住空間がなつかしくなってしまった。

10月2日 昨夜から二晩続けてカジュアルなイタリアン・レストラン、「サイゼリア」で夕食。昨日はじめて入ったのだが、噂にたがわず(値段の割に)、美味しくて、驚くほど安い。ハウスワインはデカンタ(500ml)で400円、ドリアもサラミも生ハムもソーセージも本場ものが300円以内で食べられる。焼きたてのパンも絶品だった。たらふく食べて2000円ちょっと。ちょっと信じがたい値段なので、翌日も確認(?)のためにノコノコ出かけてしまった。「てんや」も「日高屋」も「大戸屋」もわが街にはない。東京まで来て、ついついこうしたファーストフードチェーン店に入るのは、もの珍しさから。自分の近くにこんな店があっても「逆に行かないもんですよ」と友人たちは言うのだが。

10月3日 旅の3日目は仙台泊。ここから若い友人H君のいる八戸に日帰りする予定だったが、H君は逆に仙台に行きたいと言う。予定を変更し仙台で合流、夜の街に繰り出す。3日間連続の飲み会だ。さすがに疲労もピークだが、山歩きに比べたら楽なもの。この頃、見知らぬ店に入ると嬉しいことがある。実年齢より若く見られるケースが多くなったのだ。生まれた時からずっと「老け顔」で、いつでもどこでも実年齢より4,5歳は「老けて」見られるのが常だった。それが、ここにきて状況は変わりだした。外見的には10キロ近く体重が落ちたこと、ひげを生やしはじめたこと、姿勢や動作がキビキビしはじめたこと、などの影響だろうが、久しぶりに会った人たちにも「若くなった」と言われるようになったから、あながち社交辞令ばかりではないと思う。若く見られてうれしいのは女性だけではない。
(あ)

No.715

オリンピックの身代金
(角川書店)
奥田英朗

 2020年に決まった東京オリンピックにはちょっと言いたいことがある。東京がますます豊かで華やかになることが、そんなに大事なことなのか。私にはよく分からない。本書は、1964年の東京五輪を舞台に秋田県南部の貧しい農家出身の島崎国男という主人公が国家相手に反乱のテロをしかける長編小説だ。島崎は東大大学院でマルクス経済学を学ぶ院生で、オリンピックのために出稼ぎにきた兄の急死から物語は動き出す。過酷な出稼ぎの現場、東京と対極にある貧困の東北の村、ヤクザたちもオリンピック期間中は「疎開」と称して「所払い」され、東海道新幹線や武道館工事では300人近い人夫が命を落としている。政治が切り捨てた地域に、華やかな東京の百分の一でいいから富を回してあげたい。オリンピックは「東京を近代都市として取り繕うための地方が差し出した生贄だ」とまで主人公の島崎は言う。このテロリスト島崎を追う刑事たちも、本書ののもうひとつのテーマであり主人公だ。刑事ものの本としても充分に楽しめる内容だ。公安と刑事は犬猿の仲、というのも初めて知った。出稼ぎ労働者たちにとって当時はヒロポンが付き物、というのも知らなかった。いろんな側面から、この小説は圧巻だった。面白いばかりでなく、東北に生まれ育ったことを東京と比較して考えるきっかけを与えてくれた心に残る1冊になった。文中で1か所だけ、島崎が本郷の下宿で冷たい「稲庭うどん」を食べる場面があった。これは、ない。昭和39年に庶民が高級な稲庭うどんを買えるはずがないからだ。稲庭うどんが一般化するのは昭和50年代に入ってからだ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.719 9月6日号  ●vol.720 9月13日号  ●vol.721 9月20日号  ●vol.722 9月27日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ