Vol.716 14年8月16日 週刊あんばい一本勝負 No.709


お盆は、退屈極まりなし

8月9日 このところずっと外に出ることもなく規則正しい生活をしている。暴飲暴食もしければ、接待も集まりも会合もない。同じ時間に起き食事をし毎回決まった人とすれ違う散歩コースを歩いている。そんな毎日を繰り返しながら、気がついた。自分は「夜型タイプ」の人間なのではないか、という意外な事実に。寝る時間も12時前後と決まっているのだが、夕方あたりからがぜん頭が冴えてくる。夜の時間帯に重要な仕事のほとんどを片付けている。そういえば午前中はデスクワークと言いながら、ダラダラ音楽を聴いたり鼻くそをほじくりメールの返事を書いて、終わる。クリエイテブなことやアイデアを思いつくのはほとんど夜だ。出版社といえば午後から出社し夜中に帰る、というスタイルが主流だった。それに反発してサラリーマンと同じスタイルで40年間通してきたのだが、やっぱり仕事のクオリティは夜に集中しているのは間違いない。なんでだろう。でもやっぱり午後出社は自分には無理。職住近接という要因も大きい。仕事と生きることが区別なく混然と一体となった形を目標にしてきた、という事情もあるのかもしれない。

8月10日 今日の「大深岳」は台風の影響で中止。リーダーの妥当な判断だ。雨や風におびえながら山に登っても楽しくない。暑さが敵の夏山ではそれ以外の心配はしたくない。ポッカリ時間ができたので、近所のレンタル店ミニシアター・コーナーで不作為に選んだアメリカ映画『ネブラスカ』を観る。モノクロのロードムービーで去年制作されたもの。これが大成功。おもしろかった。「アバウト・シュミット」や「サイドウエイ」の監督がつくったものと知って納得。1日1冊の本に少し飽きが来ていたのでモノクロ映画の豊饒さ、新鮮さに打ちのめされた。モノクロ映像って、もしかすると活字に限りなく近いのかもしれない。

8月11日 お盆休みは13日から15日まで。土日がはいるので仕事は18日からになる。お盆中はたぶんまちがいなく事務所でウダウダしているので、誘ってください。どこにでも行きます。週末の山行予定も入っていません。お盆が明けると、いよいよ年4回刊行の愛読者DM通信の制作に入ります。9月のしょっぱなには送信できるように、もう準備がボツボツ始まっています。昨夜は面白い映画を観ました。イタリア映画なのに英語でしゃべる『鑑定士と顔のない依頼人』。どんでん返し映画なのでネタばれ防止でストーリーは話せませんが、監督はジョッゼッペ・トルナトール。あの『ニュー・シネマ・パラダイス』の人。原題は「The Best Offer」(最良の注文)。これなら邦題のほうが的を射ている。映画っていいですねぇ。お盆休み中は映画三昧もいいかなあ。

8月12日 ようやく雨があがった。1週間ぶりの晴れ間。世間は気分的にはすっかり「お盆モード」。電話も来客もメールもほとんど休止状態、デザイナーとお盆後の仕事の準備打ち合わせぐらいしか、やることはない。こんな時は思い切って仕事を切り上げ、外に出てなんか楽しそうなことでもできればいいのだが、そういった才覚はゼロ。読書に映画、そうじに料理ぐらいしか思い浮かばない。インドア派の面目躍如である。最近はよく家族の夕食を作っている。料理はまったく苦ではなく、やればやるほど意欲とアイデアが生まれてきて、大好き。でも欠点は太ってしまうこと。料理に夢中になれば食うほうも一所懸命になる。できれば一日中でも料理していたいのだが、リスクも小さくない。人さまより太りやすい体質のくせに暴飲暴食派で、太るとてきめんに身体のあちこちに異常な数値が出るタイプだ。それを考えると料理もダメ。ということは本か映画しか選択肢はないのか私の人生は。

8月13日 夜の街を放浪(散歩です)していたら突然雨が降り出した。大慌て家々の軒先に注意を払いながら歩いたら、捨てられた傘があるわあるわ。ものの5分で3本の使える傘を拾った。なんだかよくわからないけど、ホームレスが生きていける環境は整っている世の中、慶賀に堪えない。今日からお盆休み。新入社員は車にテント持参で被災地方面に出かけたようだ。こちらはひたすらどこにも出かけず事務所で仏頂面を貫くつもり。外に出てもお盆後の「秋DM」のことで頭がいっぱいなので、楽しめないことはわかっているから、事務所にいるのが精神安定剤のようなものなのだ。速く来週が来てほしい。

8月14日 食べ物の話ばかりで恐縮だが「カニ玉」が大好物だ。中華料理の天津麺。母親からカミさんへの「遺言」で「1日1個しか卵は食べさせないように」と言うのがある。これをいまも忠実に守らされているため3個近くの卵を使うカニ玉は厳禁なのだが、最近は隠れて自分で作っている。「うちのごはん」のようなスーパーで買える超簡単インスタント食材があるからだ。昨日もナイターを観ながら,食べた(食後なのに)。美味かった。麺はインスタント麺。事務所の簡易コンロでカンタンにできてしまう。体重のほうが心配だが、隠れて中華料理屋に行ってムチャ食いするよりはいい。ものは考えようだ。

8月15日 お盆休みだが、車がないのでどこにも出かけられない。車は新入社員が被災地巡りに使用中。車なんかなくても不自由しないと思っていたが、やっぱり不便極まりない。手足を縛られているような気分だ。ボンヤリと事務所に隠棲しているしかない。周辺の空気もよどんでしまった。思いあまって夜の間、換気をしてしまおうと窓を開け放って帰宅したら、一晩中雨。換気どころではなかった。やることなすことがチグハグだ。高村薫の新刊が出たので読んだら、まったく面白くなくて途中でやめた。著者初のユーモア小説という触れ込みだったが、ベストセラー作家でもこんなハズレがあるんだ。無作為に選んでいる映画のほうは『セッションズ』『メビウス』とどちらも当たり。かろうじてバランスはとれている、というべきか。一日中降り続けそうだ雨は。なにもしないでボーっとしていよう。
(あ)

No.709

英国一家、日本を食べる
(亜紀書房)
マイケル・ブース(寺西のぶ子訳)

 買ったけど、そのままツンドク。続編も出たというので、シブシブ読みはじめた。続編が出るくらいなら面白いのだろう。小さい版元だが、編集者のA女史は晶文社出身の名編集者だ。一気に読了。定番のグルメ本などでよく登場する人物やお店がやたらと登場するのだが、それらも変なイギリス人家族からみると、まったく「異質」なものとしてたち現れてくる。印象深いことが2つあった。ひとつは日本での100日間にわたる家族食べ歩き旅行のきっかけをつくったイギリスの友人トシのこと。コルドン・ブルーで知り合い日本と韓国のハーフでビートたけしに似た日本人だ。もうひとつは「ふたつの料理学校の話」。日本の食の頂点に立っている服部料理学校の校長を取材した章だ。単刀直入に著者は服部に「日本で一番おいしいと思う店は?」と訊く。服部は「壬生」という店です,と即答する。日本の食に絶大な影響をもたらす人物が、いかに外国人ジャーナリストとはいえストレートに店の名前を挙げているのだ。それも本書の前半部で。それっきりこの店のことは本書に登場しない。巻末のエピローグ、突然この店の探訪記がはじまる。本書のハイライトが巻末にある、という構成も憎い。今、続編も読んでいるところだ。

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