Vol.710 14年7月5日 週刊あんばい一本勝負 No.703


7月・県展・仕事漬け

6月29日 週末はどこにも行かず(行けず)仕事。焼石岳はお預け、クソォ〜。新入社員も一緒で、去年の今頃に比べると仕事量は3倍強だ。人が減ったら急に仕事が増えた、というこの皮肉。10本近い原稿とにらめっこしながら、この夏をすごさなければならない。背筋が寒くなって温度のバランスはちょうどいい、か。浮気の虫も騒ぎ始めている。読みたい本が30冊ほど机の横に積まれたまま。これを読むには「出家」するしかない。やっぱり電車の中が最高の読書空間だ。電話や雑事があれば本には集中できない。出家の勇気がないから旅で代用するしかない。7月初めに東京行がある。その時に長野あたりまで足を延ばしてみようか。でも、長野となると「本」より「山」になっちゃうかなあ。悩ましい夏……いや、もう、とにかく妄想はストップ、仕事だ、仕事だ。

6月30日 深夜カミさんから「斎藤晴彦さんが亡くなったよ」と教えられた。20代の若造のころに知り合い、黒テントを通じてその後もずっと親交がのあった。去年、お電話をいただいたのが最期だった。ある共通の友人の出版パーティーで久しぶりに斎藤さんと旧交を温めていたら、後ろで緊張しながら私たちの話が終わるのを待っている人がいた。市村正親さんだった。お住まいのあった吉祥寺によく行く蕎麦屋があって、そこの主人とは私も親しかったので、斎藤さんの近況は蕎麦屋の主人からよく聞かされていた。73歳だ、若すぎる。「レ・ミゼラブル」の舞台に出ていたとき共演女優のダンナが秋田出身、というだけでお電話をいただいたこともあった。森光子さんが亡くなったとき、テレビ映像で生前の森さんの車イスを押していたのが斎藤さんだった。舞台「放浪記」の菊田一夫役で斎藤さんが出演していたのをしらなかった。安らかにお眠りください。合掌。

7月1日 何年ぶりかで県展を観てきた。モモヒキーズの仲間2名の作品が入選したからだ。一人は元美術教師のNさん。彫刻部門の常連でムーアのような柔らかでシンプルな曲線の人物像がひときわ目立って、奨励賞。もう一人は山のリーダーSシェフ。こちらは陶芸。いつも見ている作品とは180度違う、意表を突いた「三島手あわび鉢」で初出品、初入選という快挙。12名いる山仲間モモヒキーズのメンバーのうち2名が芸術家なのである。すごいでしょう。山に登らなくてもすごいんです、モモヒキーズは。

7月2日 毎日、寝る前にふくらはぎをマッサージ。で、その効果かどうかはわからないが睡眠時のこむらがえしは少なくなった……ような気がする。でも、これもまったく医学的根拠のない民間療法の類、という人もいる。こちとら、神室山ショックがまだ尾を引いている。あのときのケイレンはあきらかに連チャンによる筋肉疲労が原因だ。それで納得しているのだが、ちょっぴり不安も残っている。最近の山で気になるのは、5月の太平山以来、田代岳、鶴間池と遭難事件と遭遇し続けていること。同じ時刻、同じ場所で山に登っていた人が突然「消えてしまう」のである。対岸の火事ではない。いつか自分もそうなるかもしれない。その可能性は年々高くなっている。自戒しなければ。

7月3日 夕食後、さらに事務所2階で泡盛の水割りを呑み、下駄をはいて夜の散歩に出た。泡盛は大好きで水で割るのがいい。素足に下駄というのも快感だ。夜道を少しふらつきながらカラカラと下駄音高らかに歩くのは、なんとも気分がいい。住宅地の郊外にある真っ暗な田んぼの中なので誰に遠慮することもない。繁華街ならこうはいかない。千鳥足の酔っぱらいなんて街中では絶滅危惧種だし、下駄の音に顔をしかめる人も少なくない。下駄をはいて昨夜は3キロほど歩いた。すれ違った人間は皆無。いい環境に住んでるなあジブン。

7月4日 2日は半夏生。ということは夏至からもう10日もたったということか。昨夜ナイターを観ていて気になっていたことが氷解した。2,3年前から打者のバットがやたらと折れるのを不思議に思っていた。解説者がそのことに全く触れないのも解せなかった。あるノーテンキな解説者は、投手の球の威力だとしたり顔で言っていたが、昨日の衣笠さん、見事にその疑問に答えてくれた。近年、手元で微妙に動く変化球が主流になり、その変化球に対応するため打者はバットを軽くしはじめた。そのためバッドの原料材を軽くする必要から、過乾燥にさせる傾向にあるからだそうだ。なるほど過乾燥がバットの折れやすさになって表れたわけだ。ナットク。このことはみんな感じていたはずなのに、これまで誰も言ってくれなかった。衣笠さん、ありがとう。

7月5日 金曜日だが、今週やるべき仕事はほぼ昨日のうちに終わってしまった。こんなこともある。新入社員は初めての休暇をとりSシェフと一緒に旭川に鮎釣りに。週末はみんな予定が入っているので金曜日しかスケジュールの合う曜日がなかったようだ。私は二日酔い。昨夜、モモヒキーズ・メンバー2名の県展入選(奨励賞)のお祝いで2次会まで痛飲。泡盛とワインをたっぷり飲んで胸やけするほど食べてしまった。こうなれば居直って2階シャチョー室の冷房をきかせ、涎まみれで本でも読もうか。田中が登板するメジャーリーグも悪くない。頭がボーっとして仕事モードにはギアチェンジができそうもない。来客がなければいいのだが。
(あ)

No.703

群馬県ブラジル町に住んでみた
(メディアファクトリー)
中川学

 人付き合いが苦手な37歳の漫画家が、外国人と交流したい、とブラジル人、ペルー人が人口の1割を占める群馬県大泉町に引っ越してしまう。サブタイトルに「ラテンな友だちづくり奮闘記」とある。何とも珍しいテーマ・コンセプトのコミックエッセイだ。いや、新聞広告で書名を見たとき、てっきり文章ルポだと思ってネット書店に注文したのだが、届いてみると漫画、ちょっとがっかりしたが、読みだすとおもしろい。この漫画家は「僕にはまだ友達がいない」という作品で有名になった人で、本書の内容そのものが彼のテーマだったのだ。下種の勘繰りを言えば、この本は2匹目のドジョウだ。でも、なかなか含蓄と哀愁感の漂う深みのある内容で、「人付き合い苦手」キャラクターが、すでに確立されているのは見事。とにかく半端な「苦手意識」ではない。芸の域に達しているといってもいいかもしれない。ちょうどブラジル移民のつながりで大泉町を取材しようと思っていた時期なので、この本は参考になった。著者は人とは付き合えない分、逆に町のスーパーや施設、レストランなどの情報はたっぷり、だ。人と付き合えないから、特筆出来るような事件は何も起こらない。それでも小さな出来事やつながりが、ちゃんと物語にアクセントを与えながら、感動的な結末までしっかりと読者を運んでくれる。この版元はコミックエッセイという新しいジャンルを確立したようだ。大ヒットした「知らない日本語」シリーズや「山登りはじめました」もこのコミックエッセイのシリーズだ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.706 6月7日号  ●vol.707 6月14日号  ●vol.708 6月21日号  ●vol.709 6月28日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ