Vol.708 14年6月21日 週刊あんばい一本勝負 No.701


神室山はやっぱりきつかった!

6月14日 山用レインウエア―を着て、傘もささずに1時間、雨中を夜の散歩。そんな気分の時もあるサ。歩いているとわかるのだが、雨中散歩というのはけっこう気持ちいい。身体は雨具で守られているのに、自分以外の外の世界の汚れだけが浄化されていく。自分と世界が微妙に対立しながら、時間とともに徐々に溶けあっていく。家に帰ってから「カイピリーニャ」(ブラジルの地酒・サトウキビ焼酎に砂糖とレモンを入れて呑む)を一杯。これはかなり珍しい酒のチョイスだ。あたりを見回すとWカップでブラジルの話題だらけ。無意識に損ね影響でブラジルの酒を選んでしまったのだろうか。しかしツマミに選んだイカ墨煮(缶詰)がよくなかったようで朝は下痢気味。そうか、今日は母親の1周忌法事で湯沢に行く日だ。

6月15日 雨中を大館市・田代岳。前夜からものすごい集中豪雨で、何度も目を覚ました。よく眠れなかった。それでも「山が中止」になることは考えなかった。朝4時起き。タケノコのシーズンなので、山仲間は雨などものともしない。田代岳は県内でも有数の良質のタケノコのメッカ。けっきょく雨は降りやまず8合目付近でタケノコをとって下山。タケノコに興味がないこちらはボンヤリと小雨の中を登山道の大木によりかかって休むしか方法はない。そのときどうやらうるしの葉っぱに寄りかかってしまったようだ。下山後、猛烈に首筋がかゆい。毎週山行している割に事故が少ないのを自慢していたのだが、今回ばかりは山神様の怒りにふれてしまった。タケノコをとらなかったのが神様は気にいらなかったのだろうか。

6月16日 今週は明後日水曜日に休み(神室山に登る予定)をとっている。それでなくとも忙しいので、この2日間はやらなければいけないことがビッシリだ。そうまでして水曜に休みをとるのは、神室山はそう簡単に行ける山ではないから、みんなの都合のいい日が明後日なのだ。この日を逃すと、もう来年まで待たなければならない。昨日のうるし事件で皮膚科に行かなければならないし、神室山の後はすぐに東京出張だ。帰ってくると3泊4日で山形・庄内行き。ようするに6月後半はほとんど私は役に立たない。事務所に根が生えたように居続けるばかりなので、息抜きにはいい機会なのだが、貧乏性なので事務所を空けるのは苦渋の決断でもある。それと外に出ると暴飲暴食の危険率が一挙に高まってしまう。その危険地帯に突入する前に少し体重を落としておく必要がありそうだ。やれやれ。

6月17日 夏のDM注文もひと段落。これから6月後半は編集業務が仕事のメインになる。手がけている本は5本。原稿の手直しが必要なやっかいなものもあるが、後はなんとかこなせそうだ。とりあえず今月末に2本の新刊が出る。いまはその「付き物」関係の細かな作業に追われている。「付き物」というのは出版用語で本文とは別に帯やカバー、表紙、扉など、編集者でなくデザイナーが関与する仕事の総称だ。もっぱらやり取りはデザイナーとになる。最近ずっと「付き物」を担当してくださっているAさんは、付き合いはまだ浅いが誠実でまじめな女性。もうすっかり無明舎カラ―というかデザインの無明舎トーンに慣れたようで、スムースに仕事が流れている。ファックスとメールのおかげでちょっとした行き違いも、すぐにやり直してもらえる。便利な世の中になったものだ。

6月18日 平日水曜日だが朝3時半起き。神室山登山のため休みをもらった。県内に登山口のある山でも神室山だけは特別、最難関の山だ。歩行時間だけでも10時間余。5年前一度登ったが今回はよりハードな周回コースだ。気持は入っていたが体調管理が不十分だった。ハイライトの急登で両腿にケイレン。他のメンバーに迷惑をかけてしまった。それでもヨタヨタながら前神室山頂に立てた(前は神室山山頂だったので前神室山にはこれが初登頂)。下山は快調だったが、どうして肝心な時にケイレンなのか、腑に落ちず、ずっと落ち込んでしまった。自宅に帰ってきたのは夜8時。夕食も食べずにベッドに倒れ込んで10時間熟睡した。今朝の体重測定は2キロ減。ものすごい山だった。このへんが自分の体力の限界なのかも。

6月19日 明日からは断続的に出張が続き、来週いっぱい席を温める暇がない。昨日の神室山登頂を「自慢話」に旅の先々を楽しんでこようと思っていたのだが、思わぬアクシデント(両腿ケイレン)で気分は落ち込んだまま。挫折感に打ちひしがれている。山はしばらく休もうか、などと真剣に考えている始末だ。山に行かなくともやることはいっぱいある。都合いいことに仕事は忙しい。忙しさにかこつけて「山はもうしばらく止め」といってもいいのだ。でも、週末が来ると、たぶん身体がウズウズするのは間違いない。定番化した週末山行は、仕事にも健康にも大きな良い効果をあたえている。何にも代えがたい栄養剤だしリフレッシュ時間帯でもある。その充足感や達成感はお金で買えるようなものではない。やっぱり一度の挫折ぐらいでやめられるわけはないか。田代岳ウルシかぶれ事件は、Sシェフの診断で正式な「うるし」と断定され、薬を処方してもらい、快方に向かっています。深謝。

6月20日 今日から月末近くまで外に出ている。ときどき帰ってくるが、またすぐに外へ出ていく。人はこれを出張というが私の場合は「息抜き」といったほうがいいのかも。もちろん、いろんな会合に顔を出すのだが、それとて出なくても何の問題もない。行っても行かなくても多勢に影響はない、と言ってしまっては主催者に失礼か。ま、とにかく年に何回かは無理やりに用事にかこつけてデスクの前から自分をひきはがさないと、居心地のいいシャチョー室から一歩も外に出ようとしないのだから、我ながら困ったものだ。出張といっても半分は遊び気分。カジュアルな服装で十分なのだが、なかに挟まる会合のおかげで、一応ブレザーも持っていかなければならない。これでけっこう荷物なる。なにも持たない身ひとつの旅行こそ、わが夢の「出張」なのだが、そんな甘くないか、世の中は。
(あ)

No.701

犬と、走る
(集英社インターナショナル)
本多有香

 一気に読んだのだが、おもしろいのか、おもしろくない本なのか、読後の今もよく分からない。著者は最後のほうで「お金を稼ぎたくて本を書こうと思った」と正直に書いている。本の構成や内容に、出版社側から依頼して書いたものではない、ある種、素人っぽい個所が随所にみられる。依頼されて書いたものではない生硬さのようなものである。だからだと思うのだが、こんなに面白い素材なのに、どうしてこんな構成なのか、という疑問は残った。最初に編集者が話を聞き、それをもとに構成案を提示、それに沿って著者が筆を進めていく、というのがオーソドックスなこの手のノンフィクションのひとつの方法だと思うのだが、本書にはその形跡が見えない。無手勝流っぽいというか。それはともかく、本書は犬ぞりレースに出るために北極に移住してしまった岩手大卒(新潟出身)の女性の物語。その破天荒というか、筋金入りの信念というか、レースのためならどんなバイトも厭わないバイタリティには、ただただ驚くばかり。電気もお店もない厳寒の地に、独力でキャビンを建て、26匹の犬たちと暮らす、半端ではない個性の持ち主だ。これだけの「黄金の本を書くための素材」があれば、どんな面白い本でも出来るのだが、残念ながら、主人公の興味ある舞台裏がほとんど描かれていない。彼女を激しい冒険心に駆り立てているものは何なのか、そうした個人に肉薄する記述が希薄なのだ。残念。もう1冊書いてくれれば、また買うと思う。

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