Vol.696 14年3月22日 週刊あんばい一本勝負 No.689


北帰行の白鳥の声を聞きながら

3月15日 土曜日の山行は珍しい。田沢湖が見える山・院内岳だ。先日モモヒキーズで行ったばかりの山だが、その時は仕事とかち合って欠席。うまい具合に2週間後の今日、また登る機会が巡ってきた。初めての山だ。緊張する。どの程度の装備で、食料をどのくらい用意すればいいのか、スノーシューなのかワカンなのか、そうした判断が難しい。冬季しか登れない山なので情報も少ない。で、けっこうハードな山をワカンで登ったのだが春の雪はとにかく重い。スノーシューのほうが正解だった。ワカンはすぐに埋まってしまう。下山してから着替えてSシェフと2人で外での食事。いつもお世話になっているのでお礼の食事だ。これまではこんな余裕もなかったなあ。久しぶりのごちそうで、大満足。

3月16日 春DMを出してから最初の週明けだ。今日からはじまる1週間は注文発送に追われる、最も忙しい1週間になる・・・予定。何となく今回はそれほどでもないような悪い予感もするが、だとしても普段とはまるでレベルの違う忙しさになるのは間違いない。今日は8時前から出舎、準備のためにコチャマカと動き回っている。毎日が今週のような忙しさだったら広小路にビルが建っていただろうが、これは年4回のDM発送後1週間だけの特異現象だ。人生そううまくいかない。この狂乱の1週間が終われば、今度は消費税という大きな怪物が立ちふさがっている。どこを通っても易き道はない。

3月17日 毎朝、カエルがいじめられているような汚い声で鳴く北帰行の白鳥で目が覚める。よくもこれだけの数がいるものだ、と思うほど鳴き声は延々と続く。ところで、昨日は忙しかった。予想に反して、DM注文が半端ではないほど数が多かった。近年では最高クラスで、昼夜とも食事をとる時間がなかったほど(合間をみて居酒屋に駆け込んだ)。なんで? と考えたらすぐに答えがわかった。消費税アップ前に「どうしようかな」と迷っていた本を、一挙にこのタイミングで買ってくださっているのだ、愛読者たちは。なるほどそうだったか。消費税と本の売れ行きはさして関係ないと思い込んでいたが、そうではなかった。これは喜んでいい話なのかなあ。

3月18日 注文発送にバタバタしている日々に次から次へと「大きな事件」が飛び込んでくる。事件といっても、いいこともあれば悪いこともある。喜んだり悲しんだりの繰り返しだ。先週1週間だけを切り取っても、これからの生き方が変わる可能性すらある「大事(おおごと)」が3つも発生。まさに「人生はあざなえる縄のごとし」。先人はうまいことを言う。平穏で静かな日常を望めば望むほど予想外の出来事も身辺に降りかかってくるようにできている。「人生は重き荷物を背負って歩むがごとし」というのも、この頃は身近に感じてしまうベタ格言のひとつだ。

3月19日  ゴミ出しの途中、50羽ほどの白鳥のV字飛行。その美しさに見とれてしまった。でも先頭は苦しいだろうな。たまに雪山のラッセルをすることがあるので先頭白鳥の気持はよくわかる。昨日、近所の灯油屋さんが灯油を入れに来た。頼んでいないのに、だ。ウクライナ情勢の悪化で2,3日後から灯油がぐんと高くなるので今入れておいたほうが……という理由だ。深く考えず納得したが、よくよく考えれば国際情勢が悪化すればまずドルが売られる。となれば必然的に円が高くなる。そうなれば海外からの石油購入価格は安くなる……はずではないのか。今日のラジオでも今月いっぱい石油価格は安定的というニュースを流していた。どうなっているんだろう。

3月20日 晩酌のお猪口に口をつけようとしたところに電話。東京から秋田に車で向かっていた息子が北上西インターと湯田インターの中間地点で「車がスリップして動けない」とのこと。急いで救出に向かったのだが、横手までは道路の状況はどこも悪くない。東北道の岩手県側に入ると急にふぶいて視界が効かなくなった。路上も真っ白で雪が積もっている。湯田の料金所で待ち合わせていたのだが、ケータイ(こういうときのために持っている)が、ここはなんと「圏外」。私の持っているケータイはPHS、県内のいたるところで圏外だ。持っていても意味をなさないことに、ここに至って初めて気がついた。電話を借りようと、とりあえず料金所裏の事務所に入ったら、そこに息子が待機していた。よかった。料金所の駐車場に車を残して、家に帰ってきたのは9時過ぎ。晩御飯を食べていないことに、そこで気がついた。長い夜だった。
(あ)

No689

その手をにぎりたい
(小学館)
柚木麻子

 なんだか不思議な物語だ。ちょっと間違うと「漫画」になってしまうストーリーだが、細部の描写と仕掛けが優れている。そのため破綻なく読者の期待にこたえるような物語になっているのだが、バブルにOL,高級お寿司という三題話をこれだけロマンチックなお話に昇華させる著者の力量には感心する。内容を一言でいってしまえば、銀座の超高級すし店に通う普通のOLの恋とグルメのお話だ。驚いたのはなんといっても舞台設定が現代ではなく1983年から1992年の10年間だったこと。そう、日本がバブル真っただ中で札束が乱れ飛び、モラルがどこかに飛び散った、あの時代。この時代設定がよかったのかも。この時代でなければ成立しない舞台設定だ。章だてもこっている。それぞれが完結する10本の物語のアンソロジーだが、各章のタイトルが「ヅケ 1983年6月6日」といったふうに、寿司の種名と時代のある1日がそのまま章題になっている。「ギョク 1989年11月25日」とあれば、物語の主役は卵で、その主役に時代の景色や舞台裏が巧妙にかぶさり、主人公の心理にいろんな色彩を与える。帯には「恋と仕事とお仕事に生きるバブル期OL大河小説!」。書名もおしゃれ。寿司屋の職人の手を握りたい、という、そのまんまの意味。小説の中身を100パーセント言い当てているピッタシカンカンな書名だ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.692 2月22日号  ●vol.693 3月1日号  ●vol.694 3月8日号  ●vol.695 3月15日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ