Vol.693 14年3月1日 週刊あんばい一本勝負 No.686


返品との戦いだった2月も終わって

2月22日 1,2月はほとんど返品の処理で終わってしまいそうだ。青森、岩手、山形、宮城の4県の教科書販売会社や取次店との委託販売を中止した。地方小出版流通センターの「買い切り」販売1本に出口を絞るためだ。いつかはやらなければならない(数百万の過払い金が生じるので)処理だ。やるなら早いほうがいい、とこの時期になった。突然、多額の過払い金負担が生じるのは「重荷」だが、今ならなんとか処理できる範囲。先延ばしすればするほど(実はいくらでも先延ばしはできるのだが)過払い金のリスクは高くなる。同時にこの2ヶ月間で返品になった本の7割を「廃棄処分」に。本は重い紙のゴミにすぎない、ということを実感として思い知らされた心痛む日々。早くこの忌まわしい作業から抜け出したい。

2月23日 雪はもう見たくない。事務所にいると仕事のことばかり考え続ける。この場所も離れたい。うまい具合に日曜なのに、山行なし。この機会を逃してなるものかと朝早く秋田駅へ。駅についてもどこに出かけるか決めていなかった。酒田か八戸か仙台あたりに行こうと漠然と思っていたのだが、けっきょくは新幹線で仙台へ。交通の便がいい、という理由だ。仙台はいたるところに雪がのこっていた。駅ビルの蕎麦屋で昼酒を飲んで、いい気分で街をフラフラ。晩酌も駅前の焼鳥屋ですませ自宅に戻ってきたのは夜9時。帰りの電車はさすが眠りこけてしまったが、行き帰りの電車内で2冊も本を読了。本を読むために旅に出ているのかも。でも、これだけでも十分リフレッシュできた。

2月24日 週末、少し大きな会場でお話をする予定だ。「本」についての話なので、ちゃんと勉強しておこう、とこのところ「出版」関連の新刊ばかり読んでいる。けっこうまじめなオレ。もともと出版業界について書かれた本はあまり読まない。参考にならないからだ。でも今回読んだ3冊は書き手の等身大の「思想」が詰まっていて刺激的な本ばかり。福嶋聡『紙の本は、滅びない』(ポプラ新書)、宇田智子『那覇の市場で古本屋』(ボーダーインク)、内沼晋太郎『本の逆襲』(朝日出版社)。内沼さんの本は「出版業界の未来は暗いが、本の未来は明るい」というチョーポジティブな提案が盛りだくさん、強く印象に残った。来月あたり彼がやっている下北沢の書店「B&B」を訪ねて見ようかな。雑誌「ブルータス」の「本特集2014」も読んだ。年に1,2冊しか雑誌を買わないから、これも珍しい。みんな本が好きでたまらない、という気持ちがビンビンと伝わってくる。

2月25日 仙台の駅前の焼鳥屋で何の気なしに「バーニャカウダ」を注文。温野菜が専用のストーブ鍋で出てくる本格的なものでビックリ。もっとびっくりしたのは焼鳥屋で当たり前のように温野菜を注文する「自分の味覚」。このところSシェフの料理に影響され、薄味に対する感覚が以前より研ぎ澄まされているのは感じていたが、味覚嗜好が昔とは180度違うベクトルを向いている。年のせいもあるのだろうか。それにしてもこんなメニューを置いている店も店だ。もちろん美味しかった。決め手のディップソースもアンチョビとニンニクの利いた本場風。もともとイタリアの冬料理だから雪国の今の季節にはぴったりなのだ。それにしても焼鳥屋でバーニャカウダとはなあ。

2月26日 消費税の問題がかまびすしくなる前に予測される問題点をクリアーしておきたい。そのためには取次のある東京に打ち合わせの必要がある。その時間がとれない。返品問題や倉庫の在庫整理、DM発送や新刊編集などの合間を縫って2泊3日ぐらいで東京に行き、問題を一挙に処理したい。今年はなんだか忙しくなりそうな予感がする。慶事にちがいないが、今年に限ってわがままを言わせてもらえば、すこしヒマ気味を希望します私。じっくりいろんなことを考えたい。過去と未来をゆっくり整理したい。身の回りのぜい肉をそぎ落とすことに多くの時間を使いたい……。毎日のように学生のアルバイトたちが来てくれて助かっている。外も「雨水」を過ぎたあたりから、めっきり空気が「ぬるく」なってきた。先走りの春の気配が、ちょっぴりだがしないでもない。

2月27日 今日はゴミの日。家と事務所で45リットル2袋。ほぼこれが定量だ。月に2回ある燃えないゴミの日も量はほぼ決まっている。生活にはリズムがある。そのことをゴミが教えてくれる。ゴミの日は「大事な日」だ。仕事よりゴミが優先。その日に出張が入るとがっかりするほど。どうしても出せないときは、世話になっている近所の工務店の業務用ゴミ箱に捨てにゆく。内澤旬子『捨てる女』にも書いていたが、捨てることは習慣になると快感にかわる。で、けっきょくは捨てすぎを後悔するようになる。いま自分はその後悔の道をゆっくりと歩きはじめている。身の回りのもの何でも捨てたい欲望が抑えられない。怖いなあ。

2月28日 1週間が過ぎるのも早いが、「2月」という1か月が飛び去る速度も相当だ。2,3日、他の月より短いだけなのに、2月だけは別の速度で運営されているかのようにあっという間に終わってしまう。それはともかく、この半年間を振り返れば、9月から12月までが事務経理で七転八倒。ようやく慣れ、年を越したと思ったら委託販売中止にともなう返品(過払い)問題にのたうちまわった。それも2月でどうにか決着をみた。3月はどんな難題が待ち受けているのやら。消費税の問題が仕事の何割かを占めてくるのは予想できるが、毎日学生バイトに来てもらわなければならないほどの混乱なのか、それとも自然態でやり過ごせる程度のものなのか、まったく予測不可能。年4回発行の愛読者DMは3月初旬には出せそうだ(すでに入稿済み)。新しいデザイナーとの仕事もスムースに進んでいる。ま、何とかなるだろう。
(あ)

No686

哲学の先生と人生の話をしよう
(朝日新聞出版)
國分功一郎

 電車の中で読もうと思って購入。読みはじめたらやめられないほどおもしろかった。人生相談というのは老大家の文学者の専売特許のように思い込んでいたが、ちょっと不意をつかれた感じ。若手の哲学者を登用したのは同じ評論・思想家系の宇野常寛。彼の勧めで彼が主催するメールマガジンで連載した人生相談を編んだもの。最近、朝日新聞出版はなんだか意欲的で、いい本を出す。現代の出版文化の一角に確かな位置を占めつつあるなあ。人生相談本にしては書名も秀逸だし、装丁もいい。もちろん中身のほうも「目からうろこ」のアドヴァイスが満載だ。若い人の相談が多いのが特徴だが、たとえば「モテる」ことにかんする質問には、「モテる、というのは敷居の低い人のことを意味しています」と、意外な前提の解釈から解いていく論理的なスタンスが気持ちいい。感情論は一切持ち出さない。同じく「運がいい」というのは「心身で行っている計算の量が多い人」のことで、これまで積み上げてきた膨大な情報処理に基づいて無意識のうちに適切な選択を積み上げている人、だという。だから「ざんねんな人」は計算を積み上げず情報のリソースの少ない人で適切な選択が行ないのだという。相談の最後には、そのアドヴァイスの説明典拠となった文献をあげているのも、斬新で親切。

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