Vol.200 04年7月3日 週刊あんばい一本勝負 No.196


比内鶏の秘密

 新企画として「比内鶏物語」のような本を作ろうと取材が始まりました。ライターは『乳頭温泉郷』や今月刊行予定の『東北漬け物紀行』の著者である林みかんさんです。さて、ここのところ比内地鶏の人気は急上昇で、地元秋田だけではなく東京でも高級食材として比内地鶏専門店や有名レストランで使われ、テレビに登場する機会の多さも尋常ではありません。いろいろな料理人や評論家がテレビや雑誌で比内地鶏について薀蓄を傾けていますが、我々はそんな人気に便乗してこの本を作ろうと思い立ったわけではありません。

放し飼いの鶏舎を走り回る比内地鶏
 実は普段仕事で「秋田の食」などについて調べ物をしていて、比内鶏や比内地鶏についての資料が少ないことに困っていました。インターネットを検索してもそれは同じことです。鶏の研究家が著した専門的な報告書はいくらかありますが、歴史や現状などに詳しく触れたものは驚くほど少なく、伝聞が一人歩きしている感がします。そこで「よし、我々が仕事の上でも使える“比内鶏百科”のような本を作ろう」、ということになった訳です。
 面白いことに比内鶏のことを調査し、取材を進め始めたら次々と新しい疑問が出てきました。たとえば先日フジテレビの「トリビアの泉」で、「比内鶏を食べたら逮捕される」というのがあり、結論は天然記念物だから食べてはいけないでしたが、翌朝のNHKの番組では食べても良いとやっていたそうです。私はどっちも見ていませんでしたが、比内地鶏の生産に関わっている人たちの間でも話題になり大きな混乱が起きたようです。実際は「比内鶏は食べても良い鶏と悪い鶏がある」が正解です。理由は本に書きますがこのように専門に関わっている人たちの間でも知られていないことがたくさんあります。比内鶏の名前はいつ誰が付けたのか、なぜ太平洋戦争中のあわただしいなか天然記念物に指定されたのか、比内地鶏はなぜ急に人気が沸騰したのか、年間出荷は本当は何羽なのか、秋田県以外でも比内地鶏は生産されているがそれはどこか、秋田県以外にも比内鶏がいるというが本当か、美味しさの秘密は、なぜ比内地鶏は高価なのか、そして今後安くなるのか、比内地鶏の卵が出回らないのはどうしてか、雛はどのようにして育成しているのか、比内鶏が秋田藩への年貢にもなったというが本当か、など疑問はいくらでも出てきます。次々と解決していますが、また新たな「なぜ」が出てくるという状況です。ライターの林さんも「こんな不思議だらけな取材は始めて」と面白がって集中取材をしています。
(鐙)

高校球児のグラウンドに立つ

 実は甲子園に代表される高校野球にはほとんど興味はない。夏になると高校野球だけに華やかなスポットライトが浴びる風潮には反感を持っているし、他のスポーツに打ち込む若者たちへの大いなる障害ではないか、とさえ思っている。それが機会があり、県南のある高校野球部の練習をはじめから終わりまで3時間、たっぷりと見学させてもらうことになった。野球そのものの取材ではなく、高校野球を通して農業や町づくりの問題に取り組めないか、というこちら側の企画意図だったのだが、梅雨の合間のピーカンに晴れ渡ったグラウンドに立ち、高校生のひたむきな練習光景を見ているうち、すっかり仕事を忘れ、昔の野球少年だった頃に帰ってしまった。たぶん都会の球児たちがこの恵まれた練習場の環境を見たら、うらやましくて涙を流すかもしれないが、村の高校には村の高校の大きな悩みや問題が横たわっている。そのへんのことを一年かけ、このHPに連載していければ、と思っているのだが、まずは好印象(野球部や学校側の感触)のうちにスタートを切ることができた。今年は、年甲斐もなく高校野球を追っかける暑い夏を迎えることになりそうである。
(あ)
練習風景

No.195

キャッチボール(ぴあ)
キャッチボール製作委員会

 大リーガー・イチローに糸井重里がインタビューした記録である。BSデジタル民放放送5局の共同特別番組としてテレビでも放映されたものらしい。スポーツ選手の本業以外の言動なんて興味がないのだが、イチローとサッカーの中田だけは正直なところかなり気になる。この2人が登場したことで私の若者観は変わってしまったからだ。この二人の言動に照らし合わせると息子の不可解な行動もよく理解できたし、老成した考え方の基盤にあるものが何なのか、いまも気になっている。二人は天才に属するアスリートだが、また同年代の若者たちの世界観を集約した存在でもある。イチローはこの本で、子供たちに「野球がうまくなるには?」と訊かれて「宿題をちゃんとやること」と答えている。嫌いなことをやれといわれてやれる能力は後で必ず生きる、というのだ。教育者は絶対に言えない台詞だ。天才かと訊かれれば、一打一打のヒットや凡打の原因を全部説明できるから天才ではない、と答える。イチローの基盤には「オレは負けない」という強いモチベーションがある。戦争に行った大人には負けそうだが、眉毛を抜いてる若い娘には負けない、俺のほうが上だ、テレビのバラエティに出てオチャラけるスポーツ選手は許せない、野球がうまくなるためならどんな苦しいことも我慢できる……。やっぱりただものではないよなあ。

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