Vol.1108 22年3月26日 週刊あんばい一本勝負 No.1100

映画鑑賞・クレーマー・織田信雄

3月19日 ロシアのウクライナ侵攻で思い起こしたのは豊臣秀吉の「奥州仕置き」だ。明智光秀を葬った豊臣秀吉が天下統一への道を突き進んだ最終的な仕上げが東国(小田原)と奥州への仕置き(制裁)だった。奥州北部(南部地方)で起きた「九戸政実の乱」は南部信直に対して不満を抱いた九戸政実が起こした反乱だ。九戸側の兵力3千5百、対して奥州仕置き軍は6万(仕置き軍全体では15万)。九戸政実はなぜ負け戦をわかりながら降伏しなかったのか。秀吉はなぜ辺境の地の仕置きにこだわったのか。背後には秀吉の野望であった朝鮮出兵のための人狩り(寒冷地用の兵力確保)と、爆薬のための火薬原料確保の目的があったと言われている。遠くで起きた事件を身の回りの歴史から考え直す、ことも必要だ。

3月20日 気分転換を兼ねて散歩コースを「駅前ターン」から「千秋公園コースに。図書館に用事があったからだ。明徳館は県立図書館より便利だ。2階の郷土資料室は手荷物をロッカーに預けるのに100円を出す必要がないし、机とロッカーの距離が近いので必要なものがすぐに取り出せる。郷土資料に特化しているので本を探すのが容易だ。昨日は織田信長の次男・織田信雄(のぶかつ)のことを調べに行ったのだが目的の「琴丘町史」はすぐに見つかった。家に帰って今度は三谷幸喜監督のコメディ時代劇映画『清須会議』を観る。この映画も織田信雄(妻夫木聡が好演)が重要な役回りを演じる作品だ。伊東潤の時代小説『虚けの舞』(幻冬舎文庫)は織田信雄を主人公にした小説で、これがなかなかに面白かったことからいろんなことがつながった。興味深い人物だ。

3月21日 3連休は毎日2本平均映画鑑賞。『二重生活』は門脇麦主演の邦画で主人公が女子大学院生。卒論のテーマで「尾行」を選んだことから事件に巻き込まれていく。テレビマンユニオンの制作だった。最近は邦画をよく見るが、『浅田家』も『ラストレシピ』もテーマが面白いのに主人公がジャニーズのタレントで、あまりの薄っぺらな存在感が映画を台無しにしていた。もちろん例外もある。『窮鼠はチーズの夢を見る』という邦画は男同士のベッドシーンが延々と続く。この濡れ場を見事に演じていたのが関ジャニのアイドルで好演していた。

3月22日 50年史の原稿を書いていて、この30年間の日本経済の低迷について考えた。この30年間、日本はほぼゼロ成長が続いている。成長できなくなったのは日本企業の多くがIT化やグローバル化という世界の潮流を見誤り、輸出競争力を大きく低下させたためだ。先進国は製造業がダメになっても国内の消費市場を原動力に成長を持続してきたが、日本だけは国内消費で成長できない状態が続いているのだ。その理由を「日本社会の不寛容で抑圧的な風潮が個人消費を抑制しているため」と断言するユニークな本が加谷珪一著『国民の底意地の悪さが日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書)だ。この本は経済音痴にも実にわかりやすく面白かった。スパイト行動(悪意、いじわる)とは自分の利益が減っても相手を陥れようとする行為をいい、国際社会の中では日本人に顕著な性癖だそうだ。これが経済の停滞の大きな要因だというのだから面白い。

3月23日 年度末になると公共工事が活発になり、いたるところで道路の掘り返しなどがみられる。もう風物詩のようなものだが、わが事務所前でも先週から大規模な水道工事がはじまった。今年いっぱい広面地区がその対象となっている工事で、朝から2階のわがシャチョー室はブルの振動で細かに震え続け、作業員の怒声が静寂をぶち壊す。今日は天気もいいし外に出てしまうことにした。うるさくて仕事にならないのだ。旧八郎潟の端っこにある旧琴丘町に織田信長の次男・信雄が置き捨てられたという肝いり・小玉徳右衛門跡を観に行くことにした。途中で日帰り温泉でもあれば寄るのもいい。事務所でイライラしているよりはその方がずっといい。

3月24日 日帰り温泉のカウンターで「支配人を呼べ!」と声を荒げている老人がいた。自分は常連客なのに従業員に不誠実な対応をされたことに怒っているのだ。ひとっぷろ浴びてロビーに戻ってくると、件の老人は中年女性の従業員に肩を抱かれ赤ん坊のようにあやされていた。女性従業員はこの手のクレーマーのプロらしく老人の背中をさすりながら「悔しかったでしょう、腹立つよね」とまるで母親だ。老人は先ほどまでの威勢はどこへやら涙を流さんばかりにしょげ返り、おとなしくなっていた。こういうケースではひたすら相手の言い分を肯定的に聴いてやるのが「正しい方策」なのか。

3月25日 この豪雪の間、毎晩DVD映画を観てすごした。映画は過去の映画評などを参考に選んで、毎週3、4本をネットでチョイスする。観てはじめて内容を知ることが多い。昨夜観た邦画『アフタースクール』はどんでん返しの連続で、実によく練られたストーリーで楽しめた。その前はチベット映画『山羊と風船』。風船というのは避妊具のこと。続いて観たインド映画『パットマン』。これも生理用品をインドに広めた男のコメディタッチの半生の物語。あらかじめ内容が分かっていれば、たぶん手には取らなかった内容のものばかりだ。夜の映画鑑賞は昨夜で打ち止めにすることにした。自分の仕事をちゃんと再開するためだ。しんどいけど残された時間は長くない。
(あ)

No.1100

ひとりでカラカサさしてゆく
(新潮社)
江國香織

 大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女は酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。猟銃自殺である。その後、物語は凄惨な自死を遂げた老人たちの親類縁者の日常と、亡くなる当日の老人たちの行動の軌跡が交互に描かれていく。だからと言って自殺の原因や親類縁者たちとの関係が浮かび上がるわけではない。たんたんと残った親族たちの日常は続いていく。何とも不思議な読後感の残る「余韻のある作品」だ。読後も書名の意味もよくわからなかったが、どうやら野口雨情の童謡「雨降りお月さん」からとった歌詞のようだ。自死した三人に何があったのか。妻でも子どもでも親友でも理解できないことはある。いやそれが普通だ。身近な人の唐突な死をきっかけに思いもかけずに動き出した、関係者たちの日常を通して著者が訴えたかったものは何なのだろうか。オビ文には「人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描く物語」とある。「人間は、泣くのとたべるのとをいっぺんにはできないようになっているらしいですよ」という文中のセリフも転記されている。よくわからない物語なのに、その世界に引き込まれてしまうフシギな作品だ。

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