Vol.1105 22年3月5日 週刊あんばい一本勝負 No.1097

ウクライナに思いをはせながら

2月26日 コンビニの雑誌コーナーで「60歳すぎたらやめて幸せになれる100のこと」(宝島社)という雑誌が目に飛び込んできた。直感で「この雑誌は面白そうだ」と電流が走った。冠婚葬祭、人間ドッグ、老人ホームにお墓のことまで、かなり過激だが、しがらみや見栄を棄てた、「人と比べない生きかた」の智恵が簡潔に100本まとめられている。ちなみに雑誌に書かれている100本のうち半分以上、私自身が実践していることだったが、これも共感できた理由なのかもしれない。

2月27日 5時から5時11分までの間に起きたことを群集劇で描いた「11ミニッツ」という映画を観た。ポーランド映画でワルシャワが舞台だ。「こんな街に住みたいなあ」と思うほどきれいな街並みで、物語以上にその街の佇まいに感動した。最近よく呑んでいるワインは「プレミアム・フュメ」というルーマニアの白ワインだ。値段は1600円ほど。これが気に入ったので隣国モルドバのワインも試そうと思っていた……もうお気づきだろう。これらはいま世界中を騒然とさせているウクライナと国境を接した国々の話ばかりだ。縁もゆかりもないウクライナという国の近くを秋田にいる私は日々ウロウロしていたわけだ。どこかで何かがつながっている世界に私たちは生きている。

2月28日 間食用のおやつは「さつまいも」だ。イモを買ってきてレンジでチン、小分けにして食べている。最近、料理のレパートリーも増えた。オニオンスライスとキャベ玉お好み焼きだ。居酒屋で食べてから病みつきになったのだが、この程度なら自分でも作れる、と気が付いた。オニオンのほうは玉ねぎを10分間水にさらし、生卵を落とし、カツブシとポン酢で食べるだけ。お好み焼きはキャベツと揚げ玉、ときにはタコとカキまで入れてカツブシとソースで食す。冷凍がきくから大量に作っても大丈夫だ。どちらの料理も簡単なのに酒を選ばない。3日に1回はこのどちらかを作って食べている。

3月1日 外出はほとんどが徒歩で買い物がある時だけ車を使う。年々、車の運転が怖くなっている。免許返上も考えているのだが、健康で視力も聴覚も運動能力も問題ないのが逆にネックだ。昨日、信号待ちにイライラし乱暴にも赤信号で発進、対向車とぶつかりそうになった。100パーセントこちらが悪い。しばらく自己嫌悪でゲンナリした。スーパーでもレジ打ちが遅いとイラついてマスクの中で悪態をつく。運転もたぶん昔に比べれば反射神経や運転技術は格段に落ちているはずだ。

3月2日 人文書からサブカルチャーまで、広くユニークでインパクトのある本を出し続けた弓立社の宮下和夫さんが亡くなった。私より7つ年上だから、まだ80歳手前だ。10年前に弓立社を知人に丸ごと譲って、最近は吉本隆明の遺作編集や著作権の管理をなさっていた。何度か一緒に会食しているのだが、出版の世界では尊敬する編集者のひとりだ。去年の秋から脳梗塞で入院生活だったようだ。暮れ(12月頃?)に「ケータイのアドレスが変わりました」と連絡が入ったので、「コロナが収まったら一杯やりましょう」と返信したのが最後になった。こうして尊敬する先輩たちがひとりずつ消えていく。合掌。

3月3日 地下道のアイスバーンで転倒して1カ月が経過。まだ両手首に痛みは残っているが、痛み止めの薬からは解放された。でもまだちょっと山歩きは無理。でも「温泉に行きたい」という欲求が強く湧き上がってきた。山歩きの後は必ず温泉に行く。自宅の風呂に入っても両手首が痛いので思い切って体を洗うことができない。これが温泉の大浴場なら気兼ねなく身体を洗える。というわけで先日、郊外の日帰り温泉でひとっぷろ。実にいい気分。ところが寝床に入る段になり、身体が芯から冷えきって寝つけない。あわてて自宅の風呂に入りなおした。

3月4日 一日中、誰とも話さずシャチョー室でまんじりともせず過ごす。電話もなくコロナ禍なので来客もない。朝から大きな音でFM音楽を聴きながらパソコンとにらめっこ。昼は自分で作った昼食(リンゴ・カンテン)を食べ、午後からは書庫で資料をひも解き、仕事や執筆に必要なメモをつくる。冬の間は夜の散歩が危険なので、午後の明るいうち1時間半ほど散歩。雪道を歩くのは夏場の1・5倍はエネルギーをつかう。夕食は午後5時。夕食後にもうひと仕事するので、夫婦とも夕食は早めだ。最近はヒマなので夕食後の事務所では仕事よりも本を読んだり、録画していたTV番組かDVDの映画鑑賞だ。9時には帰宅、風呂に入り、寝床に入るのは12時前後。こんな日がもうずっと続いている。

(あ)

No.1097

八甲田消された真実
(ヤマケイ文庫)
伊藤薫

 日曜日のスノーハイクで、唐突にA長老が「今日は八甲田の日だね」と切り出した。あの雪中行軍で陸軍の歩兵部隊が200名近く山中で遭難死した事件だ。個人的にもちょうど本書を買い込んで読もうと思っていたところだった。偶然ではあるのだが読みだすと壁があることに気が付いた。本は大ヒットした映画「八甲田」によって定説となった「物語」の誤謬を、丁寧な分析と資料狩猟で解き明かしたものだった。この映画を見ていない私には読んでもまったく意味が通じないのだった。そこで急いで映画を見た。なるほど豪華キャストで3年もかけて八甲田ロケをした迫力ある映画で面白かった。映画では北大路欣也と三國連太郎の対立がメインで物語が進行し、三國を悪者に仕立てることで北大路と高倉健がヒーローになっていく単純で勧善懲悪チックな物語構造になっている。しかし著者に言わせれば、映画によってつくられた「事実」はほとんどが捏造された事実に他ならないという。著者は自衛官で舞台となった第5連隊に勤務し、現地の雪中行軍も経験している。そうした現場の視点を織り込みながら、目標地である田沢新湯という場所に対する知識を誰も持っていなかったこと、地図を不携帯だったこと、青森と弘前の二つの連帯の根深い対立、上司の救いがたい無知蒙昧や言い訳、軍隊の隠ぺい体質を、ひとつ一つ発掘された資料を基に「暴いていく」。

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