Vol.1096 22年1月1日 週刊あんばい一本勝負 No.1088

よいお年を

12月24日 正月用に読む本をまとめ買い。毎年この時期になると「今年の本ベストテン」風雑誌に一通り目を通し、自分の興味にかなうものを「厳選」してネットで買う。15冊前後の本を買うのだが、毎年ちゃんと読むのはうち半分だ。でも本は腐らない。半年後に思い出し、書棚から引っ張り出すこともある。リアル書店に本を見に行くことは100パーセントなくなった。本の情報は新聞書評がほとんどで、年末のベストテン雑誌は本当に助かるガイダンスだ。

12月25日 1年間であっさりと首相を辞めた菅義偉さんのことがちょっと気になる。この人は同郷で私の高校の1年先輩だ。全く面識はない。客観的に見ても歴代総理の中で、この人ほど「実像」が伝わらなかった宰相はいなかったのではないか。タイムリーな本が出た。担当記者として最もそばで菅氏を見続けたテレビ局の記者が『孤独の宰相――菅義偉とは何者だったのか』(文藝春秋)という本を出したのだ。読んでみると、なるほどいろんなことにガッテン。この人の故郷秋田を思う気持ちは想像以上に強く、激しいことにも驚いた。同時にパフォーマンスが大嫌いで、官僚とケンカのできない岸田氏と、見識と実行力のない小池東京都知事を「最も嫌っていた」ことが詳らかにされている。政局的には仲がいいと思っていた安倍と麻生に「しっかり」と裏切られたのが「道を断たれた」要因だが、世間的な評価と魑魅魍魎の政界内部は、全く別物の価値感で動いているというのが怖い。

12月26日 コンビニで63円切手を50枚買う。礼状や読者からの問い合わせの返事にハガキはよく使う。小生には同年代の男性のペンフレンドがいる。彼は神戸では知らない人がいない元有名レストランのオーナー兼シェフで、すさまじい読書家でもある。文通のテーマはほとんどが読んだ本のことで、ほぼ毎週のようにハガキが届く。週に3回きたこともあった。こちらも負けじと返事を書くのだが、あちらのエネルギーについていくのがやっと。旅した時に買いためている絵ハガキのストックも、そろそろ心配になってきた。

12月27日 週末2日間で、かなりの積雪。1年前も県南部は記録的豪雪だったことを思い出した。1年というのはこうしてみるとけっこう長い。今年の読んだ本の「点数」チャックしたら、今年一番の感動本は森健著『小倉昌男 祈りと経営』(小学館文庫)だった。ヤマト運輸の元社長の物語だが、文庫になってようやく手に取ったもの。大成功した歴史に残る名経営者の伝説的な物語に見せかけて、実は全く内容はそことはかけ離れた、精神障害をめぐる家族の物語だった、というのがこの本に仕掛けられた最大のトリックだ。

12月28日 小さな川や海にも漁業権がある。漁業権というのは世界中に日本にしかない独自の法律だった。諸外国はそれぞれ漁船に操業許可が与えられる。海産物を水面に近い住人が独占するという概念はない。歴代、日本での漁業権は村の有力者に与えられ網元や庄屋が独占してきた。でもたびたび争いが起きたため、権力側は基本的に村の前の海は住民のもの、という漁業ルールを定めた。これは『サカナとヤクザ』鈴木智彦(小学館文庫)で知ったことだ。アワビ、シラスウナギ、大アサリ、ナマコ(黒いダイヤ)、秋鮭、ウニやカニ……密猟の市場規模は軽く100億円を超える産業だ。今も昔も密漁はヤクザのしのぎで、私たちが食べる高級魚の半分はヤクザのもとに落ちることになる。

12月29日 寒気も少しユルんだようだ。屋根からものすごい音を立てて雪がなだれ落ちている。今日から来月三日まで正月休みだ。いつも通り私は毎日事務所でグータラの引きこもり。リニューアルしたシャチョー室で大音量の音楽を聴きながら、ボーっと「引きこもっている」。これが何よりのリラックス。お正月中もここから出たくない。それが本音だ。散歩以外の筋トレも必要だ。お正月はデブとの戦いでもある。

12月30日 今年一年で特筆すべきことは持病の「痛風」の症状がなくなったこと。これはひとえにお酒(量)を呑まなくなったせい(かな)。欠かさず晩酌はするが飲む量はコップ一杯だ。それもプリン体のないホッピー一点張り。寒くなるとさすがに熱燗の酒が飲みたくなる。こちらは矢島の本醸造「小番(こつがい)」の一点買い。ウイスキーもハイボールでたまにやるが2杯以上はキツイ。仲間たちとワイワイやるときはどんなお酒もスイスイいける。たぶん酒よりもおしゃべりに軸足が移っているからだろう。酒はおしゃべりのツマですよ、御同輩。

12月31日 大晦日に大掃除をしたことがない。でも今年はシャチョー室のリニューアルをしたこともあり自宅の書斎の汚れが目立ち、昨日今日と大掃除を決行。特に電線・コンセント廻りは40年近くそのままで危険水域に達していたので新しいコンセントに換えた。ふだん掃除することのない蛍光灯裏や机、窓枠、ベッド下まで、気持ちがどんどん大掃除モードに引き込まれていくのが怖かった。今年も一年、どうにか生きのびた。よいお年を。
(あ)

No.1088

モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語
(文春文庫)
内田洋子

 イタリア・トスカーナの山深い村で、何世紀にもわたって本の行商で生計を立ててきた民たちがいる。籠いっぱいの本を担いで国中を旅して、彼らはイタリア全土に「読む」ことを広めた。そのおかげで書店が生まれ、「読むということ」が広まった。なぜ山の住民は、食材や日用品でなく本を売り歩くようになったのだろうか。著者は関係者たちに聞き書きし、古びたアルバムから資料をひも解き、子孫たちを追いかけて、消えゆく話を聞き歩く。取材当時(2018年)モンテレッジォ村の人口は32人。そのうち4人が90歳代だ。就学児童も6人いるものの村に幼稚園や小・中学校はない。食用品や日用雑貨を扱う店もない。薬局も診療所もない。銀行もない。郵便局は30年ほど前に閉鎖、鉄道はもちろん通っていない。山の上まで行くバスもない。
 本書は「方丈社」という出版社のHPに連載(『本が生まれた村』)されたもので、18年4月にその方丈社から単行本で刊行され、21年11月に文藝春秋から文庫として刊行されたもの。本文中には50葉ほどの美しいカラー写真が使用されているが、著者自ら撮ったものではない。プロのカメラマンの手になるもので、これらの写真に対する説明がほとんどないのが悔やまれる。

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