Vol.1095 21年12月25日 週刊あんばい一本勝負 No.1087

健診・初雪・ベストテン

12月18日 外は銀世界、ようやく冬がやってきた。寒々としたモノクロームの水墨画の世界だ。リフォームしたてのシャチョー室は快適だが、それに水を差すようにお隣の解体作業は日々ハードになるばかり。土曜日の今日も朝からブルがガリガリと地面を削り、身の回りのものがカタカタと不快な振動音。もういいだろう、と誰かにかみつきたい気分だ。いろいろやり残したことをやろうと思うのだが敵は振動音、このイライラとの戦いだ。外は吹雪で屋根に積もった雪を舞い上がらせている。振動音と闘いながら仕事をするしか手はない。

12月19日 ブラジルには「ポンデケージョ」という美味しいチーズパンがある。これがけっこう高い。冷凍ものでピンポン玉1個くらいのものが100円以上する。ワインのアテに最高で一回で5,6個はペロリと食べてしまう。先日、モモヒキーズのT女史が「グジェール」という、「ポンデケージョ」よりちょっと小さ目のチーズパンを焼いて持ってきてくれた。パン生地はホットケーキと同じ粉で、それにチーズを練り込んで焼いたもの。中は空洞に近く、ブラジルのようにギッシリ、モッチリ感はないのだが、皮生地を小さなチーズと一緒に食するのだという。

12月20日 「夢は何ですか」と訊かれると、仕事上ではずっと「一度でいいからベストセラーを出したい」と言い続けてきた。でもこれは偶然やひょんなことでピョコンと生み出されるものではない、ということも長い経験でよくわかっている。周到な準備、潤沢な資金、優秀なスタッフ……宝くじを当てるのと同じ確率しかない夢だ。だから結局は「健康で少しでも長く山歩きができれば」と凡庸な答えでお茶を濁す。こっちは本音で、この年になっても筋トレを続け、深酒をしないように気を付けているのは、ひとえに山歩きの体力を維持するためだ。健康であれば、いつかどこかで、何かが化学反応を起こし、うれしい出来事が人生には待っているかもしれないではないか。

12月21日 今日はユーウツな健診の日。でも去年の暗澹たる結果に比べると、体重も落ちたし、暴飲暴食はほとんどなし、食事にも注意してきたので少し前向きに受診。血圧は138と88、いきなりこれでホッとした。E判定(再診)も去年は2つあった。今年はこのE判定をなくすのが目標で、なんとか1年間頑張ってきた(つもり)。さて結果やいかに。明日死んでも誰も不思議に思わない年齢になった、ということだけが重い事実だ。

12月22日 現場監督が工事終了の報告があった。お隣の解体作業だ。長かった。ちょっと風が吹いただけで建物が揺れているような錯覚に陥るほどで海を漂う小舟にのっている気分だった。昨日もイライラが昂じて長い散歩に。駅前から横にずれ「東通り」まで足を延ばした。広面はラーメンとすし屋の町だが、東通りはこじゃれた美容室と喫茶店の町。名古屋の有名なコメダはオバチャン族で満席、向かいのスタバも若い女性で満席だった。客層がはっきり違うのが面白い。いつも同じ町並みと接していると見逃してしまっていることが多い。そんなことを実感した、長い散歩。

12月23日 正月用に読む本をまとめ買い。毎年この時期になると「今年の本ベストテン」風雑誌に一通り目を通し、自分の興味にかなうものを「厳選」してネットで買う。だいたい10冊前後の本を買うのだが、毎年ちゃんと読むのはうち半分で、あとの半分は装丁や目次を見て、読む前に食指が動かなくなる。読み始めても途中でやめてしまうものもある。それでも新刊で出たが値段が高くて見合わせたものが文庫で出ていたりすると即買い。本は腐らない。半年後に思い出し、書棚から引っ張り出すこともあるから損はない。 
(あ)

No.1087

安いニッポン
(日経プレミアムシリーズ)
中藤玲

 ここ数年で行った海外のサンパウロや香港、パリなどで、意識的にスターバックスに入った。どのくらい日本とコーヒーの値段が違うのか確かめたかったからだが、日本と同じかそれ以上だった。サンパウロはコーヒーの国で、小さなカップで飲む濃いコーヒーは50円くらいだ。それがスターバックスでわざわざ400円近い薄いコーヒーを飲むのか不思議だったが、店内は混んでいた。やはり日本の物価は安くなっているのだ。「東京は土地も物価も世界一」というのはもう昔の話だ。日本の初任給はスイスの3分の一、と本書には書いていた。インバウンドで京都に押し寄せる中国人を優越感でみていたが、あれは「単に日本の物価が安いから来ているだけ」といわれると心中穏やかざるものがある。もう年収1400万円は世界では低所得なのだそうだ。そして100円ショップが存在する限り日本の経済成長はないという。「低所得、モノが安くて、どこ悪い」と1句詠んでみたが、世界で生きていくにはデフレは「どうしても」脱却しないといけない「壁」なのだ。ソウルに行った時、衣類やカバンのあまりの安さに、何度も値札を確かめたことを昨日のように思い出した。いまは日本があのソウルなのだ。

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