Vol.1092 21年12月4日 週刊あんばい一本勝負 No.1084

散歩と本でヒマつぶし

11月27日 ヒマを持て余し近所の石動神社境内で時間をつぶしてきた。太平川によって住宅地から隔離された閑静な、中洲のような場所にある神社だ。ここには深山でさえ見られないような樹齢数百年のケヤキが何本もある。広面地区の氏神様なのだが、夏場には子供たちの朝のラジオ体操の会場にもなる。石動神社は北陸の石動山を本山とする山岳信仰だ。小さな石碑に「文政元年」の文字がある。1818年だから江戸の後期か。創建の言い伝えは宝永6年(1709)、ある老僧が枕元に立ち白龍となって消えたことから、ここに一宇(一棟)を建て、勧請したのがはじまりという。けっこう由緒正しい格式のある神社で、ケヤキの古木がそれを物語っている。

11月28日 イタリア・トスカーナの山深い村で、何世紀にもわたって本の行商で生計を立ててきた人たちがいる。籠いっぱいの本を担いで国中を旅してイタリア全土に「読む」ことを広めた。その村モンテレッジォ村は2018年現在、人口は32人。そのうち4人が90歳代だという。著者は関係者たちに聞き書き、古びたアルバムから資料をひも解き、子孫を追いかけて、消えゆく話を聞き歩いた。『モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子(文春文庫)は、書名や帯コピーだけでも内容の素晴らしさが想像できる。でも読み出したら感情移入できず、感動どころも見つけられぬまま。50葉ほどの美しいカラー写真が使用されているが、著者自ら撮ったものではない。その写真に対する説明もほとんどない。

11月29日 山行のない日曜日。ルートを変えてロングウォーキング。まずは近所の石動神社の隣の丘に鎮座する白山神社へ。ここからは広面地区全体を眺望できる。石動山同様ここも北陸(新潟)の神様なのは何か石動とつながりがあるのだろうか。このあたりには昔、藩校があり、そこが広面小学校になったという標識も発見した。そこから駅まで歩いてロフトで来年の手帳とカレンダー購入。家と事務所用でしめて1万円也、すべて「ほぼ日」製だ。駅構内では内陸線沿線の方々が特産品を販売中。うちの著者でもある大穂耕一郎さんが売り子をしていたので「くまのたいら村」の「なつはぜ」と「さるなし」のジャムを買う。家まで帰って歩数計をみると1万5千歩、ロングというほどのことでもなかったか。

11月30日 アインシュタインの計算式などを記した手稿がパリで競売にかけられ15億円で落札された。生きているうちに世紀の発見といわれる「相対性理論」を理解したい、という希望を持っている。20世紀に生きた人間の、彼に対する最低限のリスペクトで礼儀のようなものだ。「何ものも光速より早く走れない」「空間は星の重力によって歪んでいる」というのが要諦だが、光速に近いスピードのロケットに乗った宇宙飛行士の時間は、地球にいる人より遅く進む。これは重力の強弱と関連するのだが、「止まっているものから見ると、動いているものの時計がゆっくり進む」から、高速ロケットに乗った人の1年は、地球にいる人の2年4カ月分に相当する。ということは映画『2001年宇宙の旅』の、あの人類誕生前の猿たちのシーンは、アインシュタインの発見をなぞったもの、という理解でいいのだろうか。誰か教えて。

12月1日 山に行くと太ってしまう。このところ体重増にまたぞろ悩まされ始めている。山には非常食を持っていく。多くの場合、食べないまま家に持ち帰る。捨てるわけではない。けっきょく家で食べてしまう。非常食はけっこう多めに持っていく。それとは別に甘ものも携帯食として欠かせない。この甘ものも曲者だ。さらに山用昼ごはんもすべて平らげるわけはない。おにぎり1個ぐらいは残してしまう。それも家に帰ってから腹に収まってしまう。家での夕飯以外に、こうした「あまりもの」が腹に入ることになる。山行の時できるだけ非常食は持たない、という選択は難しい。山では何があるかわからない。万が一のための非常食だから、持たないわけにはいかないのだ。

12月2日 いつも数冊の「読みたい本」をストックしているのだが油断していた。読む本がなくなっていたので、本棚で埃をかぶっていた南木佳士『冬物語』(文春文庫)を引っ張り出した。12編の短編からなる短編集だ。そのうちの1篇「赤い車」に衝撃。秋田での医学生時代、3万円で買った中古の赤い軽自動車を廃車にすることになった。その手数料が1万円かかるとわかり、当時付き合っていた看護女子学生の実家の家の裏山に捨てに行く。砂防ダムの役割も果たすから何を捨てても誰も文句は言わないと彼女に言われ、10メートルの沢の下に車を落とした……という話が回想の形で語られている。秋田市から車で40キロほど離れた穀倉地帯の村だったそうだ。いまから50年前の話だが、なんだかすごいエピソードで物語の本筋の方を忘れてしまいそうになった。

12月3日 全国紙の県版は紙面1面分しかない。その1面も岩手や青森の北東北のニュースに侵食され始めた。もう秋田県だけの「秋田版」というジャンルはなくなりつつある。ゆくゆくは1面(か2面)に東北6県の記事がすべて集約されていくのは間違いない。それが時代のすう勢だ。NHKは北海道のローカル放送枠の再編を検討し、室蘭、北見、釧路の3ブッロックをなくして札幌、旭川、函館、帯広の4局体制で放送することになったという。テレビも地域のニュースが減らされ、広域化していくことに変わりはない。もっとすごいのが地方銀行だろう。こちらは県をまたいだ統合が既に進行中で、近い将来、東北6県には2,3個の銀行があれば十分、という形で動いている。「わが秋田で」なんていう言い草は通用しなくなる日が、もう近いのだ。
(あ)

No.1084

サルでもわかる相対性理論
(雄鶏社)
壷内宙太

 サブタイトルは「アインシュタイン宇宙の謎が解けた!」である。1995年の初版なので、たぶん今回は2度目に読む本だ。過去に読んだときには理解できず、でもなんか面白さがあったので、必ずもう一回タイミングを見てチェレンジしてみようと、たぶん本棚にとっておいたものだ。そのタイミングが数十年ぶりに本当にやって来た。夜中に突然、「タイムマシーンがなぜ不可能か」を友人に科学的に説明しようとして説明できない、という夢を見たのだ。この本はそのあたりがわかりやすく書いていたはずだ。昔読んだときのことを思い出したのだ。で、本書を読みだしたのだが、やはり思った通り実に面白い。のっけから「相対」というキーワードのわかりやすい解説があり、つづいて「時速200キロの新幹線で卵を放り投げる」「重いものと軽いものはどっちが先に落下する?」「丸い地球では上も下も絶対ではない」といった基礎的な話が続いて、グイグイと引き込んでいく。「宇宙の無数にある星がそれぞれものすごいスピードで動き回っているのに衝突しないのはなぜ?」と思ったあたりで、「星の込み具合というのはヨーロッパ大陸にハチが3匹いるぐらい」という答えがちゃんと用意されている。これはやっぱりいい本だ。

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