Vol.1082 21年9月25日 週刊あんばい一本勝負 No.1074

宝蔵コースはまだ無理だ

9月18日 去年からピタリと痛風の症状がなくなった。いろんな要因はあるが一番は飲酒の量が劇的に少なくなっていることだろう。数年前まで年に3,4回は痛風に襲われ、日常的に尿酸値を抑える薬を飲むようになったが、いまはときどき思い出したように飲む程度だ。冷静に考えると、仕事が忙しくなり、飲酒の回数が増え、出張中の電車の中やホテルで発症するケースが多かった。酒、ストレス、プリン体食の三位一体が原因とわかっているので、魚卵系、内臓系、ビール系の食は遠ざけている。最近、『痛風の朝』(本の雑誌社)という実に面白い本が出た。抱腹絶倒、身につまされるユーモア体験談の詰まったアンソロジーだ。もう自分は卒業したから、とおごっていると不意の激痛が襲ってくる、という記述に思わず襟を正してしまった。アル中に似て痛風は治らない病気、と思ったほうがいいようだ。

9月19日 今日は太平山。それも過去に一度しか登ったことのない「宝蔵コース」だ。普通の旭又コースは3時間内外で登れるが宝蔵はそれより1時間余計にかかる。長いうえに本格的なくさり場の崖が山頂付近に待ち構えている。ここ1カ月ほどの筋トレの成果を信じ、覚悟を決めて登り始めたが、やはり3時間を越したあたり、弟子環のくさり場で両腿が痙攣寸前、乳酸飽和状態になった。まったく足が上がらず、気力もなえ、山行を後悔した。こんな気分は昔谷川岳に登った時以来だ。みんなからかなり遅れヨレヨレで4時間かけてどうにか山頂に立った。下山はもっと大変だった。両腿が1時間のランチでは回復せず、食欲もなく、ほとんど病人かけが人状態で、一足ずつソロソロと下に降りた。それでも1時間ほど歩きつづけたら下山のリズムが体に染みついてきて完全回復、いつもの旭又コースですら下山はヨレヨレで、岩や木の根に足をとられて「こんな山、もう絶対イヤ」と弱音を吐くところなのに、今回はスキップを踏むように下山できた。でも宝蔵コースだけはしばらく勘弁してほしい、というのが本音だ。

9月20日 昨日、宝蔵コースを登りながら「もう山なんか登らないぞ」と思った時、うすぼんやりと「明日は旗日だな」と思ったら、少し力が出た。途中Sシェフが両腿に噴射してくれたサロンパスも予想外に効いたことを思い出した。さらに登山靴は足にぴったりフィットしていたし、指のケガも完治、筋トレも持続中で、身体の不調はどこにもない万全の状態だった。それが、あっけなく体力不足を突きつけられた。油断大敵という事なのか。でも今日の目覚めの気分はすがすがしい。両腿に筋肉痛はあるものの、精神的には身体の汚れをすっかりクリーニングできた爽快感がある。

9月21日 録画していたNHK再放送「プロジャクトX ワープロ運命の最終テスト」は見ごたえのある番組だった。私が無明舎を起ち上げたのが昭和47年で、ワープロが一般発売されたのが昭和54年。ワープロ開発秘話はいわば「同音異義」言葉との戦いで、そこをクリアーした東芝という会社の偉大さが強く印象に残った。私は会社をはじめて7年めあたり、仕事に脂がのり始めたころで、ワープロのお世話になった。翌年55年には今の新社屋に引っ越しし、そのころは東芝の「文豪」をもっぱら愛用していた。販売から20年間でワープロは3千万台を売ったそうだ。

9月22日 宝蔵コースの筋肉痛は丸2日間続いて、今朝きれいに消えた。昨夜、中秋の名月(満月)を見たら、月の中の影が世界地図にみえた。改修工事の終わった近所のツルハにはいったら100円ショップがオープンしていた。昔は100円ショップをバカにしていたが、Sシェフから生活に役立つ「使い方」をレクチャーしてもらったら、その利便性に目覚めた。県内中学校の修学旅行がコロナ禍で「県内旅行」として復活したようだ。取材したいのだが教育委員会を通さないとダメだろうな。県北の生徒が県南のどんな場所や光景に驚いたり感動するのか興味がある。

9月23日 枕を二つ重ねて寝ていたのだが、首周りに圧迫感と息苦しさを覚えて枕をひとつはずしてみた。低いほうがずっと寝やすく、寝起きが楽になった。この20年、水枕を使っている。文字通り枕に水を入れて使うもので、これを二つ重ねて使っていた。朝起きるたびに首周りに疲れがないことを確認して、もっと早く低い枕にしておけばよかったなあと、と後悔するジジイである。

9月24日 事務所前の道路の水道工事が続いている。建物はガタガタ揺れるし、騒音はもう耳になじんで何も感じなくなってしまった。一番困るのは事務所から外に通じる4本の道路のうち2カ所が封鎖され使用不可なったこと。車で出たのはいいが戻るとき封鎖道路に入ってしまい、結局遠回りで帰り着くことになる。夕方、散歩で外に出てもやはりいたるところで工事現場に出あう。そのたび交通誘導員の人に丁寧に狭い通路を案内されるのは、うっとうしさも感じるが、これが彼らの仕事だからしょうがない。ボーっとして過ぎていく日々だが、ときおり社屋がガタガタと揺れ、騒音にイラつくくらいの「刺激」は、ないよりあったほうが気持ちはしゃんとする。
(あ)

No.1074

小倉昌男 祈りと経営
(小学館文庫)
森健

 ヤマト運輸の元社長の物語だ。大成功した企業経営者の物語なんか読んでもしょうがない、とも思ったが、この本が大宅賞を満場一致で受賞したという興味から読みだした。今年読んだ本で今のところ一番の面白さだった。驚きのラストまで息をつかせない展開だ。この名経営者はなぜ私財を投じて障害者福祉に晩年を捧げたのか、取材から浮き上がってくる伝説の経営者の知られざる素顔が、感動的で言葉もない。小倉の経営者的生き方も魅力だが、なにより本の考え抜かれた構成がすごい。豊富な取材と流麗な筆力に読者は完全に打ち負かされてしまう。大成功した歴史に残る名経営者の伝説的な物語に見せかけて、実は全く内容はそことはかけ離れた、精神障害をめぐる家族の物語だった、というのがこの本に仕掛けられた最大のトリックだ。大仕掛けの良質で完成度の高いミステリー小説を読んだ気分だ。読んだ本の評価をメモに記しているのだが最高点は10点満点中8点がふだんの最高点だ。この本は自分的に「8・5」。めったにない感動本だったわけだが、まだまだ読んでいないこんな感動本が世にはたくさん転がっているのだろうな。

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