Vol.871 17年8月19日 週刊あんばい一本勝負 No.863


知らないことばっかり

8月12日 いつもお酒を届けてもらうA酒店さんから「出羽鶴」のお酒がとどいた。いつも刈穂か天戸なのに珍しい。7月下旬の豪雨で出羽鶴の精米所が水没・被災、応援したいので飲んでください、とAさんからのメモ。そうだったのか、知らなかった。宅配便の到着が以前より遅くなった。人手不足や激務の問題があるから、それはいいのだが、お隣の青森に2日間かかるのはなぜ? 送り先に問い合わせると、北へ行く荷物はすべて盛岡経由になるので、そのぶん遠回りするからだそうだ。これも知らなかった。先日、オスプレーを観たといったが勘違いだったようだ。秋田には県内上空を飛ぶ米軍機をウオッチする市民団体があり、友人がそこに問い合わせてくれた。こんな団体があるなんて、知らなかった。

8月13日 土曜日なのに地元紙に広告を出したせいか電話が多い。お盆帰省客の方々なのだろうか。併せて読売新聞県版一面にも小舎の新刊が記事になっていた。こちらも何本か電話。高齢者からの注文がほとんどだが、電話注文は訛りや発語が不確かで住所や名前がうまく聞き取れない。昨日の電話注文で驚いた名字がひとつ。「木対」さん。「木村」ではない「対(つい)」だ。「きつい」と読む。初めて聞く苗字なので電話でしばし雑談。由利本荘には普通にある苗字といわれて、またもやビックリ。世の中知らないことばかり。

8月14日 散歩の途中にニッサンのディラー店があり、道路脇にこれ見よがしにEV(電気自動車)充電機が置いてある。これがいつもフル稼働、想像しているよりもEVはずっと普及している。それにしてはトヨタやホンダがEVに関心がなさそうなのは不思議。その答えが昨日の朝日新聞に載っていた。HVを無視し一挙にEVに飛び移ったニッサンは、EV競争では一頭地を抜いている。他企業はエンジン開発に金と人をかける従来の仕組みから脱却できず、思い切った舵を切ることができない。EVに舵を切れば雇用の半分は不必要になる。HV開発をしなかったニッサンは、そのおかげでEVに投資と開発を続けてこられた。K.ゴーンが10億円もの年棒をもらう理由がここにある。ヨーロッパも中国もEV車以外は問題外、という世界にいま突入しつつある。そうか時代のトップランナーがニッサンだったのだ。知らなかった。

8月15日 お盆中もひたすら机の前に垂れ込めています。今度書く予定の本の資料を読み、時間が空けばジムでエアロビに興じ、夜は散歩と読書、という単調な日々を楽しんでいます。今年は不意の帰省客来訪も少ないようです(2件ありましたが)。夜は藤沢周平の本を読んで暑気払い。藤沢の時代物でも細かなジャンルがあり(私が勝手に色分けしている)、エンタメ系時代小説は得手ではない。江戸期に米沢藩や荘内藩で起きた事件や人物にスポットを当てた実録物が好みです。清川八郎を描いた『回天の門』、雲井龍雄の短い生涯を描いた『雲奔る』、庄内の百姓たちの「国替え騒動」の『義民が駆ける』、上杉鷹山の『漆の実のみのる国』といったものですね。藤沢のこの手の実録郷土ものを読むたびに、秋田にも藤沢周平がいたら……と思います。そんなことを考えると、秋田藩士・戸沢小十郎が大活躍する時代小説を描き続けた花家圭太郎(角館出身)さんのことを思い、早逝が悼まれます。

8月16日 朝早くから東成瀬取材、家に帰って来たののが夜7時。実は水沢(現・奥州市)まで足を延ばし、そこからさらに花巻市に寄り道。花巻市は取材とは関係なく話題になっているマルカン食堂を個人的な興味から見てきた。ところがちょうどお盆休みで閉まっている。え、マルカン食堂を知らない? ネットで検索してみてください。あまり面白い本ではなかったが『マルカン大食堂の奇跡』(双葉社)という本も出ています。花巻の老舗デパート内にある食堂で、そのデパートは倒産したのですが、市民の力で人気の食堂だけ営業再開、流行っているという。その噂の真偽を確かめに行ったのですが……。ちなみにわが新入社員はもう行って食べてきたそうだ。味は「普通」だそうです。

8月17日 マグロ船乗組員などを経て、ブルースギターの弾き手として名を馳せる濱口祐自の「フロム・カツウラ」というCDをアマゾンのユーズドで購入。CDを開けてみると「レンタル専用」と大きく印刷されていた。レンタル店からパクったものを出品したものだろうか。気分が悪い。これでは小生も犯罪に加担していることになる。抗議することも可能だが、たぶん「知らないで買い取ったものを転売した」とか「レンタル店から正式に払い下げられたもの」と理由をつけて逃げられるのが目に見えている。盗人の子分になったようで、本当に気が滅入るが、濱口のギターはなかなかあじがある。

8月18日 町内会の班長なので回覧板や高齢者リストの作成など近所を訪問する機会が増えた。そこで気が付いたのだが、私の受け持ち18軒には玄関にチャイムが全家についている。あの話の出来るやつだ。ついていないのは私の家だけ。最初はチャイムの使い方がわからず戸惑ったが、もうだいぶ慣れた。玄関チャイムが珍しいという人も珍しい、と友人に揶揄されたが、玄関チャイムがこんなに普及しているとは思わなかった。我が家は築40年に近いボロ家だが、建てた時のままなにも変わっていない。リフォームしても、風呂も台所も玄関も屋根も外観も、昔通りに新しくする。40年前から保守的で思考停止状態なのだ。もっともそれで不便に感じたことはない。
(あ)

No.863

ヨーロッパ退屈日記
(新潮文庫)
伊丹十三

 伊丹十三は昔から好きな作家であり俳優だった。この本も確か大学生だった時代に読んでいる。でも感動したわけではない。あまりにキザで、住む世界が違うことに戸惑い、読むのを途中でやめてしまった記憶がある。ちなみに伊丹の本で感動したのは精神科医・岸田秀との対談だ。約半世紀ぶりに文庫で本書と際会することになった。今度はスイスイと、引っかかりなく最後まで面白く読むことができた。書かれている内容も今ならすべてよくわかるし、若書きも容認できる。ものすごい人がいたもんだ、と素直に感動もできる。半世紀前の日本人にこんなすごい人がいた、という事実を誇らしく思う。それにしても当時、外国映画に出るだけで2年間、無収入で生活ができ、なおかつスポーツカー1台を欧州で買える収入が保証された、というのは驚きだ。高校時代の友人である大江健三郎との交流の濃さも本書からは伝わってくる。巻末の解説で関川夏生は「この本は自慢話と雑知識にまぶして行った自己表白である。戦後青年を挑発しつつ勇気づけた、優れた青春文学である」と締めくくっている。なるほど、納得である。

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