Vol.870 17年8月12日 週刊あんばい一本勝負 No.862


毎日暑い日が続きますね

8月5日 10年ほど前に長く続けてきたエアロビをやめた。理由は登山を始めて夢中になったから。20年以上も続けてきたエアロビをやめるのは勇気がいったはずだが、すっぱり山登りに切り替えた。それには理由があった。ジムのシャワー室隣りに風呂場ができた。男性陣は風呂に浸かりながら世間話を始めた。まるで町の銭湯だ。当時は昼休みを利用していたので、風呂に入って世間話に興じるようになったら、確実に午後からの仕事のモチベーションは失せてしまう。これは危険だと直感が働きジムから遠ざかったのだ。昨日もエアロで汗を流しシャワーを浴びていたら風呂場から老人たちの哄笑が聞こえてきた。田舎のスポーツジムはほぼ老人ホームだ。10年前の判断は間違っていなかったが、自分も老人になることまでは、考えていなかった。

8月6日 Sシェフから「フィットネスチューブ」をいただいた。シリコンゴムの30センチほどの棒状のもの。これを延ばしたり、ひいたり、押しつぶしたりして、腕に負荷をかける運動グッズだ。この頃、上半身の筋力が落ちている。そのことを嘆いたら「これがいいヨ」と持ってきてくれた。Sシェフが人に進めるものは、たいがい自分自身を実験台にして「効果あり」と確信したものなので信用できる。仕事の合間や仕事中にゴニョゴニョと使い始めているのだが、まってしまった。この手のグッズにありがちな「めんどくささ」がない。仕事の合間になめるアメのような感じで、いつの間にか手に取って「遊んでいる」。買えば1000円もしないグッズだそうだが、ようは使う人間との相性だ。

8月7日 オードリーという漫才コンビの若林正恭の本を読んだ。新刊のキューバ紀行だが、1週間ほどの旅を1冊の本に編んでしまうクソ度胸に驚いたが、『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』という書名が凝りすぎで、ビックリもした。続けて処女作の『社会人大学人見知り学部卒業見込み』(角川文庫)も読んだ。こちらは味と癖のあるコラムで、なるほど売れた理由(評価された)がよく分かった。この人は将来的に又吉よりも作家として大成するかもしれない。

8月8日 暑い日が続いています。皆様にはお変わりなくご清祥のこととお慶び申し上げます。と、まずは暑中お見舞い申し上げます。山登りを一時中断、エアロビに変更して3週間になろうとしています。これまで通ったレッスンは計10回。各インストラクターの特徴がつかめ、ようやく最後までついていけるようになりました。体重は3キロ減、夏バテもなし。一番の変化は朝起きた時、片足立ちでパンツをはき、靴下着脱ができるようになりました。これが出来なくなってショックを受け、ジム通いを始めたのです。今日のレッスンは11時から。歩いて3分、距離にして300m先にジムがあります。コンビニにコヒーを買いに行く感覚で通えます。うらやましいでしょう。

8月9日 お昼ごろ、ジムに行くために外に出るとヘンな形のヘリコプターが飛んでいた。あれっ、オスプレーじゃない、と思ったが、秋田にオスプレーって、ありえない。でも確かに大きなプロペラは2つあった。近くに医学部の救急搬送用ヘリポートがあるのでヘリは珍しくないのだが、これは初めて見る形の飛行機だった。夜、『あたらしい無職』(タバブックス)を読み始めたら面白くて最後まで読んでしまった。女性フリーライターの仕事日記だが、出版の未来についていろいろ考えさせられた。版元も知らない会社だったが、目録をみると以前に『はたらかないで、たらふく食べたい』という本を買ったことがあった。「仕事」をテーマにした本を専門に出す出版社だった。

8月10日 スポーツはもともと男性がつくりだした文化。だから女性を排除する。産業革命(近代スポーツが誕生)後、女性の労働力を必要としなくなったブルジョアジーが、女性を支配する方策として「か弱い女性・激しいスポーツは無理」という虚構を作り上げ、女性のスポーツを禁じたのだ。根本には「女は男より優れている」という劣等意識がある。ただ走らせれば最後は必ず女が勝つ。女が男より長生きするのは昔から自明の事実。だから100メートルとか1500メートル、マラソンといったふうに距離と時間を区切って……これは玉木正之『スポーツとは何か』(講談社現代新書)に書いていたこと。玉木さんは信用できる評論家だ。スポーツの起源である「遊ぶ」の語源は「朝臣でいられる、いい身分」の「朝臣」。天皇のそばにいる人、の意味だ。

8月11日 朝早く玄関掃除をしていたカミさんがぼやいていた。今年は蜘蛛の巣が張らないし、蚊もいない。スズメの姿を見ることがなくなったし、ゴキブリも何年も見ていない。毎年アリに悩まされて来たけど、そのアリも今年はいない。何か変だよね、というのだ。確かにそういわれればそのとおりだ。事務所でもゴキブリやアリとはしばらく会っていない。すぐ思いつくのは、昔のように家族で大量の食材を使わなくなったこと。ヤツらの食い扶持がなくなったこと。それ以外考えられないが他にどんな理由があるんだろう。そういえば去年、突然玄関に巨大なヘビが現れて、腰を抜かしそうなほど驚いた。あいつもいまはもういない。なんだかちょっと不気味な暑い夏だ。
(あ)

No.862

マルカン大食堂の軌跡
(双葉社)
北山公路

 花巻市にある老舗デパート「マルカン百貨店」が老朽化のために2016年、閉店した。そんななか、580席ものキャパを持つ「マルカン大食堂」を愛してやまない市民たちが、食堂の存続を模索しはじめる。その先頭を切って署名活動を始めたのが地元の高校生たちだった。食堂の名物メニューは「25cm特大ソフトクリーム」(180円)、高校生たちはこのソフトのファンだ。そこに地元の若手ベンチャー企業家も立ち上がった。周囲の若者たちを巻き込み、活動は町ぐるみの大きなうねりを持つようになる。そして大食堂の存続は決まり、再オープンすることになった。この草の根的運動の経緯を克明にルポしたのが本書だ。著者は花巻在住の編集者(プロデューサー)。テーマも間違いなく面白い。どのような構成・展開で読者をひきつけるのか、その手腕が問われる。難しいのは、現実が圧倒的に面白いコンテンツなので、筆力がそこに追い付かない、という懸念だ。残念ながらその予想は当たってしまった。花巻市民ではない、まったくこの経緯と無縁の外部ライターに書かせたほうが偏見も偏愛もなく、臨場感あふれるルポになったような気がする。なんだか大魚を逃がしたような、ちょっと複雑な悔しい気持ちになってしまった。料理法を間違えてしまったのだ。

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