Vol.865 17年7月8日 週刊あんばい一本勝負 No.857


歯痛と映画と便秘薬

7月1日 新刊(「角館城下町の歴史」)が昨日出て、晴れ晴れとした気分で7月を迎えた。新刊ラッシュもこれでほぼ終わり。この半年間で15点近くの本を出した。7月の新刊予定は1冊。6月は4冊だ。7月のほうが常態だ。夏場はいつもヒマになる。貧乏性なのでヒマになると何か新しいことをやりたがる悪い癖がある。県内のある村のルポをHPで取材連載しようか計画中。今日は図書館にその資料を探しに。外は雨。山行のない週末の雨はまったくノープロブレム。昨日から漢方薬の効能あらたか、便通がよくなった。

7月2日 横手市大雄地域でかつて暖房用の燃料などに使われていた「泥炭」を復活させた、と新聞で報じられていた。地元では「田村根っこ」の俗称があり、横手盆地のほぼ中央あたりにその産地がある。昭和40年代まで風呂や炊飯用の燃料に使ったものだが、実はこの泥炭が秋田県の近代の新田開発に大きな意味を持っていた。民俗学者・宮本常一がある本の中で「盆地の中央部分まで田んぼをひらけたのは泥炭があったから」と書いている。その昔、燃料がなければ百姓は山里から遠く離れた新田を開拓するのは不可能だった。煮炊きしたり、暖をとったり、小屋に寝泊まりするのが困難だったためだ。「泥炭」は農作業と切り離せない意味を持っていたのだ。ちなみに泥炭とは、湿地帯で植物が枯れて堆積、分解されて炭化したもの。これを日干しレンガ状にして燃やした。

7月3日 アマノジャクなので都知事選はあえて無視、DVDで映画観戦だ。1本目はウディ・アレンの最新作『教授のおかしな妄想殺人』。いつものアレン節炸裂のブラックコメディだが、その枯渇しない才能に敬意を払いたい。しかし、この邦題は何とかならないものか。原題は「IRRATIONAL MAN](分別を失った男)。もう1本は「ノーマ東京」。北欧の世界一のレストランが東京で5週間のみ期限限定レストランを開く様子を記録したドキュメンタリー。ものすごく面白くてコーフンした。今年のベストワンですねこれは。肝心の東京のレストランのオープニング・シーンはわずか数分出てくるだけ。全篇、厨房や食材探しのシェフたちの裏側を描いた作品だ。私の友人にこの店で食べた経験を持つ人がいる。この映画を観て、本当にうらやましい、と思ってしまった。

7月4日 この2日間、歯痛がひどい。予約は3日後しかとれず、シャチョー室にじっと垂れ込めている。せめて頭の中だけでも楽しいことを考えようとするがダメ。ドンドン暗くて視界不能な方向に思考はスパイラルしていく。気分を代えてみようとウィスキーを呑むが、これもダメ。酔いが回っても歯痛は収まらず、負の思考にますます拍車がかかる。自分は一人ぼっち、世界からもそっぽを向かれ、世間からは無視されて、町内の嫌われ者。どこにも自分の居場所がない。歯痛は人間をここまで自虐的で孤独にする。精神衛生上、どうにも不快な苦痛だ。いっそ総入れ歯になれたら、どんなに楽だろうか。

7月5日 友人のSシェフは「まじめな理系」の人。そのせいか小生のブログのちょっとした間違いも見逃さず訂正のメールをよこす。数字や地名の間違いに特にうるさい。そのSシェフが陶芸作品を出展している県展が「セリオン」で開催中、というメールを本人からいただいた。去年まで会場は市中心部の「アトリオン」だったのに今年から土崎に会場が替わったのか、とSシェフのメールをつゆ疑わず出かけた。Sシェフが会場を間違えるなどありえないからだ。でもセリオンのどこを探しても県展らしきものはやってない。受付で訊くと「アトリオンと間違えてません?」と笑われた。……Sシェフも間違えるんです。アトリオンに取って返しSシェフの作品を鑑賞。いつもと違うダイナミックでユーモラスな力作で、急須をかたどった花器という発想が面白い。でもタイトルは「花器ーQSU」。あのねぇ、このサブタイトル、どうなの。

7月6日 新入社員が友人の結婚式で東京に行って不在。ひとり留守番だ。こんな時に限って忙しくなるのが常だが、PCに詳しい長老(一級建築士)が応援に来てくれ、古いPCのデータ処理などの作業をしてもらう。ありがたいことだが、喜寿の先輩にPCのレクチャーを受ける自分がちょっぴり情けない。歯医者に行って、どうにか痛みが治まったと思ったのもつかの間、今度は別の歯が痛み出した。自分の最大の「欠点」であり「持病」は歯だった、ことを改めて実感。イライラしながら時間が過ぎていく。こんな時一番効く薬は「多忙」だ。出版依頼が2,3本くると悩みや苦痛は舞い飛んで行ってしまう。忙しくなってくれ!

7月7日 ひたすら「歩くだけの映画」はないのか。グーグルを検索したら、2010年制作のアメリカ・スペイン合作「星の旅人たち」という映画に当たった。スペイン北部のサンディアゴ・デ・コンポーラを目指す聖地巡礼を描いたもの。亡くなった息子の遺灰を撒きながら聖地を巡礼する父親の物語なのだが、実際の監督が息子で、主演俳優が父親だった。ドラマの中でも本当の親子として何度も登場する仕掛けで、ハートフルなロードムービーである。すばらしい景色の中をひたすら歩くシーンばかりで、これぞ望んでいたものだ。若いころなら「イージーライダー」なのだろうが、この年になるとこんな映画に強くシンパシーを感じる。スペインの聖地巡礼に関しては5,6年前、ドイツのテレビ・コメディアンが実際に歩いて本を出し、その邦訳が話題になったことがあった。さっそく読んだのだが、まったくつまらない本でビックリしたことを覚えている。この映画は掛け値なしに面白い。原題は「The Way」だ。
(あ)

No.857

結婚
(平凡社)
末井昭

 この本は、本好きにはたまらないだろう。先日、神保町の東京堂では早速ベストセラーに入っていた。東京堂の売れ筋はお隣にある三省堂とは全く違う。通好みのセレクションだ。著者はあの伝説の「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」などの創刊に関わった白夜書房の設立者の一人。12年に退社しているが、同じ会社にあの藤脇邦夫もいたのだから、なんだかすごい出版社だ。それ以外にも、写真集「たまゆら」で話題をさらったカメラマン・神蔵美子の夫であり、その略奪婚の内実を夫の側から描いたのが本書なのである。いうまでもなく神蔵の元夫は評論家の坪内祐三で、こちら側も読書人や出版界ではなじみの人物だ。何から何まで実は出版に関わる夫婦の物語なのである。さらに著者は、母親が若い男とダイナマイト心中したこと書いて話題になった人でもある。もちろん、そんなことを知らなくても淡々とした(飄々とした)独特の語り口で、過激なこともさらりと読ませてくれる。本書は平凡社のウエブで連載されたものに加筆修正、対談を加えたもの。対談はよく意味が分からない。なくてもいいような気がしたが、どうだろう。

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