Vol.862 17年6月17日 週刊あんばい一本勝負 No.854


台北のプールサイドで

6月10日 台北に来ている。明日から関西の仲間たちと合流するのだが、初日は秋田―羽田―台北というまったくの一人旅。松山空港で雷のため1時間以上、荷物が出てこなかった。夕方、ホテルについてプールでひと泳ぎ。自前の水着持参だ。張り切りすぎて疲れた。おまけに寒気まで。旅の解放感から頑張りすぎてしまった。台北は31度もあるのに雨。PCの調子も悪くメールが読めずイライラ。DM注文がちゃんと入っているか心配だ。

6月11日 台北2日目。少し贅沢していいホテルをとったので、よく寝られた。昨夜は暑かったり寒かったり、待たされたり泳いだり、ヘトヘトで体調不良寸前だった。寝る前に読んだ高村薫『作家的覚書』(岩波新書)が面白くてやめられなくなったが明日からのことを考えて早めに消灯。朝は青空。ホテルバイキングで日本食。プールに移動して、たっぷり1時間水中エクササイズ。サウナと温泉に入り部屋でウトウト。午後から市内の中華料理屋で仲間たちと合流。2泊3日台北うまいものツアーが始まった。体調を整えることが大事な仕事になる。昼の「欣葉本店」は一見大衆食堂風だが、支店も多く日本人にも評判の店。台北での集合場所はいつもここだ。ホテルに帰ったらディナーまでプールでひと泳ぎ。腹を空かせないと戦(いくさ)はできない。

6月12日 台北3日目。ずっと天気が良くない。梅雨なのだろう。昨日は「日本文学100年の名作」(新潮文庫)というアンソロジーの中編小説集を読んでいた。文庫で全10巻もあるから当分この文庫本だけで楽しめる。夜は同じホテル内の中華レストランで。今朝は早起きし地下鉄に乗って近くの市場を冷やかし、午前中はプール。すっきりと青空とはいかないが日中の温度は35度。ホテルのなかは快適。本に飽きればプールでひと泳ぎ。

6月13日 台北4日目。昨夜は今回のメイン・イベント、世界貿易ビルの34階にある会員制レストランで食事。ここは2回目だが個人では容易に来ることができないレストランだ。白酒(パイチュウ)もうまかった。朝は気持ちよい目覚め。関西組は昼の飛行機で帰るのでお見送り。午前中はひとりプールで泳ぐ。夕方の便で羽田へ。機内映画は邦画の『サバイバル・ファミリー』。僅か2時間ちょっとで羽田着。今日は東京泊。

6月14日 10時ころまで熟睡。ホテルではよく眠られないのだが疲れがたまっていたのだろう。東京駅まで歩き、新幹線で秋田へ。陽の高いうちに帰ることができた。仕事の山を一つ一つ丁寧に崩して、明日からは何事もなかったように「日常」に戻りたい。ひとつのことが終わらないと次に取り掛かれない典型的な不器用タイプだ。これでもう当分外に出るようなことはない。じっくり腰を据えていい仕事をしたい。

6月15日 朝からバタバタ、いつもの光景が戻ってきた。台湾旅行も楽しかったが、何かにせかされるように追い回されるこの仕事感覚も捨てがたい。Sシェフから大好物のワラビとタケノコが届いていた。どんな高級料理も旬の山菜にはかなわない。心配だった体重は2キロ増。元に戻すのに10日かかる。しばらくはどこにも出かけずダイエット。編集中の本は2冊。読みたい本や見たい映画が手ぐすね引いて待機中だが、まずは仕事最優先。

6月16日 短い旅行だったが今回の台北旅行は、これからの生き方の指針になるような「想い」が垣間見えた旅でもあった。うまく言語化できないが、「小さな地方的なものに徹底的にこだわる」生き方は間違っていない、という確信のようなもの。そこを基軸にぶれない生き方をする。世界にとってはとるに足らない価値だが、地域社会では自分にしかできない「小さな歴史へのひっかき傷」を絶えず繰り返しつけていく。それが自分の仕事だ。自分にしか遺せない、自分だけが更新できる、小さな世界にこまめに加筆訂正を加えていく。台北でのんびりプールサイドで寝っ転がりながら、こんなことを考えていた。 
(あ)

No.854

断裁処分
(ブックマン社)
藤脇邦夫

 もう何冊も「出版論」を書いていて業界では知らない人のいない元白夜書房の営業部長が著者。その彼が退職後、初めて書いた小説である。出版不況の中、窮地に陥った経営破たん寸前の老舗出版社が最後の財産として残しておいた版権をめぐって、さまざまな人間たちが暗躍する。そういう筋立てなのだが、細かく章立てされた構成があだとなって物語の全体がうまく繋がっていかない。もどかしい。大筋の流れがわかりにくくなってしまったのは小説としては致命的欠陥かもしれない。書店や出版社、編集者と経営者、経営や営業の話が小川のように描かれ、その小川が大河へとうまく流れ込めないのだ。各章の中身は面白い。でもひとつの流れへと収斂していかないのだ。このへんは「小説の技術」の問題で、書いていけばうまくなっていくのかもしれない。業界紙の編集長として私の友人も登場する。ほとんど実名に近い仮名である。誰が読んでも業界筋の人はその人物を特定できてしまう。このへんも小説にしてはどうなのだろうか。他の登場人物の書店員や取次店社員も、似たような本物に近い名前で登場しているとすれば、これはもう実録小説の類といっていいのかもしれない。次回作に期待しよう。

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