Vol.863 17年6月24日 週刊あんばい一本勝負 No.855


穏やかに日は過ぎていく

6月17日 土曜日だが町内公園の草むしり。班長なので5時起き。草むしりそのものは30分ほどで終わったのだが、その後の細々とした確認作業など、班長の役割はけっこういろいろある。ひと汗かいて、朝ごはんを食べ、これから酒田行きだ。友人の写真家の個展にかけつけるのだ。友人からの連絡には「個展会場の近所にうまい蕎麦屋があります」の一言、それが決め手になった。昼はその蕎麦屋で合流することに。

6月18日 日曜だが山行はなし。モモヒキーズの一部は神室山に登っているのだが、小生はパス。心身とも神室に登れる状態ではない。昨日は酒田市松山で開催されている友人の写真展に顔を出した後、同じ松山にある「阿部記念館」へ。あの『三太郎の日記』の哲学者・阿部次郎の生家だ。『三太郎の日記』は若いころから何度もチャレンジしながら読破できなかった本。この本を読んで一人前といわれた「若者のバイブル」だ。次郎の甥の襄も「サケの一生」などで知られる生物学者で彼の遺品も多く展示されていた。生家そのものを保存して記念館にしたものだが、夏目漱石門下だっただけに交友関係や業績には改めて驚くことばかり。明治初期に建てられた生家も質素で重厚なたたずまい。管理している女性といろいろと当時の商家の暮らしについて話し合い、長居してしまった。

6月19日 この時期はTシャツに半ズボンでもかまわない。誰から怒られるわけでもない。でもフォーマルな服装を心掛けている。ほとんどフリーランスのような立場だが、年をとるごとに服装はサラリーマンのように堅苦しくなっていく。普通の曜日に休んだり、朝寝坊したり、昼から出舎したり、日の高いうちから酒を飲んだり、そうしたことはやろうと思えばできるが、絶対にしない。やってみたいとは思うのだが、やらない。そこを崩してしまうと「何でもあり」の世界に突入してしまうからだ。会社員は定年退職すると服装が途端にラフになる。こちらは逆に年をとればとるほどフォーマルになっていく。若いころからネクタイを締めない生き方をしてきた人間の「逆説的けじめ」だ。

6月20日 一日中まったくやる気起きずダラダラ。こんな日もあるサ、と達観したいところだが、やる気のなさはすぐに弱気や不安に転嫁する。放っておくととめどなく落ち込んでしまうからやっかいだ。今日は昨日の分も挽回すべく頑張ろう、と出舎したら、いきなり兵庫県から来客。うちの読者でアポなし初対面。北前船の後を追って旅をしている方で、話がめっぽうおもしろい。この珍客のおかげで少し元気になった。

6月21日 洋服チェーン店でズボン3本買う。2本買うと一本が半額で、3本買うと3本目が無料。ということで3本になった。なんだかよくわからないシステムだが、お得感よりはだまされ感のほうが強い。事務所に帰ると「助成金をもらうための無料セミナー」へのお誘いファックス。零細企業に、税金である助成金をもらえる簡単な方法を指南するというセミナーだ。インチキ健康食品並みの商売に違いないのだが、どうしてうちのファックス番号を知ったのか。とにかく「無料」をうたったものには近づかないのが一番だが、こちらが近づかなくてもやつらはグイグイとこちらの領域に踏み込んでくる。

6月22日 週刊誌の新聞広告に「酢が効く!」の文字。広告コピーによると、酢は高血圧や糖尿病、肥満、骨粗しょう症に効果があり、毎日30ミリグラムほどをグレープフルーツなどで割って飲む、といいそうだ。これは小生がこの10年以上毎日実践していること。その成果が現在だから微妙な立ち位置にいるのだが、まあしてやったりの感はある。肥満は解消できてないものの血圧も糖尿病も骨粗しょう症も基準値をクリアーできているのは酢のおかげかもしれない。酢を何で割るかは試行錯誤を重ねてきた。やはりクエン酸系のグレープフルーツか、酸味のあるアップルジュースが、酢との相性はいい。今週はブドウジュースで割っている。これはけっこうアクが強くて失敗だ。もう10年以上続けている習慣とはいえ酢に慣れたということはない。朝作ったものが夕方までそのまま残るときもある。大酒呑みだった父が晩年、毎日酢卵をつくって呑んで86歳まで生きた。そのことに影響されて始めた食習だ。

6月23日 友人と久々に「山の学校」へ。藤原優太郎さんが亡くなってから初めて立ち寄った。学校は本人がいた時よりもきれいに管理されていて、まずは一安心。跡を継いだOさんのおかげだ。「山の学校」には藤原さんが元気なころ大量の本を寄贈した。寄贈と言えば聞こえはいいが、増える一方の書籍を引き取ってもらった。が、時間がたつにつれ、必要な資料(本)が出てくる。古本屋などで買ってしのいでいたのだが、どこにも売っていない貴重なものも多い。一度は寄贈した本だが、何点か戻してもらおうと昨日は出かけたのだ。ダンボールで5箱ほどの本を引き取ってきた。これで肩の荷が下りたと思ったら、肝心の諸橋の漢和辞典を忘れてしまった。近いうちにもう一度行かなければならない。
(あ)

No.855

成功者K
(河出書房新社)
羽田圭介

 この著者の本を読むのは初めてである。芥川賞をとった際、同時受賞が芸人の又吉直樹だったため、一緒にマスコミの寵児になった人物である。毎日のようにテレビに登場する。作家には珍しい出たがりキャラの人物だが、奇をてらわない真っ直ぐな若者である。まさに「ある朝、目覚めると有名人」になったことに、まさに自分が一番驚いている。芥川賞から始まった狂騒曲を正直に綴ったのが本書だ。TVに出まくることによって群がってくる女性たちと次々に性交する、という一点に物語の主軸を据えているのが潔い。突如、文学賞を受賞することでテレビに出て人生が変わってしまった。その運命を赤裸々に、正直に、疑い深く、付き合う女性たちの姿を通して描いた小説である。ここに書かれている中身はほぼ間違いなく現実に起きたことだろう。細部のリアリティがしっかりしているから芥川賞フィーバー・ドキュメントといっていいだろう。でも彼の芥川受賞作を読もうという気は起きないのはなぜだろう。そういう意味で本書は、作家の狂騒ドキュメンタリーとして興味があったのだろう。

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