Vol.864 17年7月1日 週刊あんばい一本勝負 No.856


再び便秘薬を服みはじめました

6月24日 ネットでブック・サーフィン(小生の勝手造語)。「岩波ジュニア新書」の項に。数百冊が出展されていた。順を追って購読チェックを入れていくと1円表示のユーズド(新刊なし)も多数。昔から「困ったときのジュニア新書」だ。電気でも植物でもローマでも遺跡でも身体でも、知りたいことがあればこの新書に頼る。学問的な基礎素養がないので、この新書を読むターゲット(中高生)と自分はぴったり重なるのだろう。酔いしれるようにサーフィンするうち20冊あまりの新書を買ってしまう。

6月25日 日曜なのに山行なしでお仕事中。仲間たちは焼石岳でうらやましい。でもクマも心配だ。この時期はタケノコ・シーズンで、クマにとっても重要な食材。最近のクマは鈴もラジオも人声も「美味しい餌がある」シグナルとしか思っていないからバッテングが怖い。県内に流通するネマガリダケはすべて個人が山でとってきたものでキロ千円で取引される。クマがいるのがわかっていてもその領域に入っていくのは収入になるから。去年、汗水たらして登った貝吹岳山頂近くにタケノコ採りのバイクが走っていた。この光景をドローンで撮影すれば衝撃的な絵になるはず。命がけでタケノコを採る背景には貧困という問題も横たわっている。

6月26日 どこにも出かけず、どんよりとした週末を送ってしまった。読んでいる本で、弥生時代にすでに家畜のブタがいた、ということが書いていた。イノシシとは明らかに骨格が違う「家畜のブタ」である。その骨が出た時、多くの学者はイノシシの変種としか思わなかった。家畜化したイノシシ(弥生ブタ)の存在を信じる学者はいなかった。ところがある研究者が、執念で野生のイノシシと家畜のブタを区別する決定的な「発見」をする。ブタの歯に歯槽膿漏の跡があったのを見つけたのだ。野生のイノシシではありえないこと。この病気が決め手になり、人間がエサを与えて育てた「新種の動物の骨」であることが証明された。遺跡や考古学の本を読むと、いつも「炭素14」の発見の偉大さに首を垂れたくなる。

6月27日 タケノコ、ブタに続いて燻製の話。古代のヨーロッパでは家畜を余すことなく燻製にした。秋田で山菜を保存食にするようなもの。ヨーロッパでは家畜は燻製にするために飼っている、と単純に思い込んでいたが、そうではなかった。寒冷地なので冬になると家畜のえさである草が枯渇する。冬になると家畜は全滅する。そのため事前に冬の前に一斉に家畜を殺してしまうのだ。。燻製にするために殺すというより、冬に家畜を生かしておくことが不可能だったために考え出された窮余の方法なのだ。

6月28日 「睡眠障害」という言葉をよく聞く。NHK「クローズアップ現代」で初めて知った言葉だが、「寝不足」状態を科学的根拠に基づいて言語化したもの。毎日、規則正しく7時間は寝ているから睡眠を苦痛と感じたことはない。でも週末の山行前日だけは別。夜中に何度も目が覚め、ほとんど一睡もできず、朝方ウトウトしかけ、目を覚ます。登山という週1回の愉しみが、逆に「眠れない」という苦行とセットになっているのだ。夏は陽が長いので大きな山に行くから朝が早い。3時起き4時起きが当たり前。こうなるともう前日いくら早く寝ても、遠足前の幼稚園児のようにコーフンして眠れなくなる。いろいろ努力しているのだが、これだけはどうしようもない。

6月29日 仙台でお仕事。往復の新幹線でたっぷり本を読めるのが楽しみだ。最近いい本に当たり続けている。『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)が圧倒的に面白かった。円城塔(芥川賞作家)と田辺青蛙(ホラー作家・せいあと読む)の夫婦が、お互いに読んでほしい本を勧めあい、その本のレビューや印象を書く、という新機軸の「読書リレー」で、これは拾いもの。大量に一括購入した岩波ジュニア新書では『遺跡が語る日本人のくらし』(佐原真)がおもしろかった。昔一度読んでよくわからなかった『日本人はどこから来たのか?』(海部陽介)を再読中だ。『21世紀はどんな世界になるのか』(眞淳平)もなかなか読ませるが、こんな本を本当に中高生が読破できるのか。いや、こちらのレヴェルが中高生並み? 仙台の大学では電車の中で読んだ本のことを延々としゃべってお茶を濁してしまった。こまった先生です。

6月30日 2カ月ほど前、毎日服んでいた漢方便秘薬をやめた。その結果、規則正しい便通が無くなり、その量も半分ほどに。薬に頼らない自然便通に戻そうと思ったのだが、それ以来ずっと身体が重い、という微妙な感覚に悩まされ続けている。いや実際に体重が増え続けている。減る気配どころかジリジリと増え続けているのだからいやになる。もうしばらく自然便通に身体をゆだねてみようとも思うが、朝の便通が悪いと一日気分が悪い。精神衛生上よくない。というわけで、今日からまたタケダ漢方便秘薬を服み始めた。敗北感はない。早くスッキリしたいだけ。
(あ)

No.856

夫・車谷長吉
(文藝春秋)
高橋順子

 著者の書いた『水のなまえ』など、「なまえ」シリーズは愛読書で、今も書庫に大事に並べている。車谷の小説も何作か夢中で読んだ覚えがあるが、あまりいい読者ではない。内容が過激すぎ、読後が重いからだろうか。本書はこの2人の出会いから別れまでを、妻の目で鮮やかに描いている。鮮やか、というのはちょっと違うか。ところどころに著者の詩や句が挟み込まれている。それが本書のいいアクセントになっている。それにしても車谷は常人には理解できぬ不思議な作家だ。妻の目からみても、その不思議さはあったようだが、結婚することに違和感はほとんどなかったようだ。そんな「けったいな文士」と一緒に暮らした著者も十分にヘンな人だ。夫婦で十年以上も続けた句会や、著者の本業である詩、章扉に使われている車谷の絵葉書ラブレターなど、そうした2人の作品の破片から互いの強い愛を感じることができる。直木賞受賞前から付き合いが始まり、お遍路やピースボートでの旅行、強迫神経症から奇行まで、著者がつけていた日記を回想しながら作品として結実させたのが本書だ。

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