Vol.779 15年11月7日 週刊あんばい一本勝負 No.771


体調を崩して、なんだか暗い日々だ

10月31日 夕食後、散歩を済ませると2階シャチョー室でとりためていたテレビ番組を観る。ほとんどが衛星放送のドキュメンタリー系番組が多いのだが至福のひととき。が重大な問題も出てきた。録画を観ている間、口寂しくてウイスキーのストレートをほんの少し呑む癖がついてしまった。最初は本当にシングル一杯、だんだんエスカレート、何種類か呑み比べてしまう。結果、前後不覚になるほど酔っぱらい、録画の内容を全く覚えていない。二日酔いもひどい。なめるように飲んでいるつもりなのだが少量でもウイスキーの酔いは強烈。身体に優しい水割りにはもう戻れない。何とかうまい妥協策を探して、ともかく今日の夜も一杯だけ、呑んで考えてみるつもり。

11月1日 冬用寝具に替えたのだが肩のあたりがスース―してうまく寝付けない。上半身が冷えてサワサワする。ずっとデブで暑がりだったので、人並みに寝間着を着て寝るようになったのは50代から。それまではTシャツで十分だった。さいきん上半身の冷えがきつい。ここ2,3年で一気に「寒さ」に敏感になってしまった。これが老化と言わずして何だろう。カミさんに相談すると「マットレスの上の下敷きが薄すぎるからでは」と言われた。寝具メーカーに下敷き布団を買いに行く予定。ついでに肩の冷えも打ち明けてみるか。でも変な商品を進められたら買ってしまいそうだ。

11月2日 少年時代、映画を観に行くと幕間に「県政ニュース」が流れた。このニュースが始まると退屈で、早く終わって本編になるのを子供心に願っていた。その昭和30年代の「県政ニュース」の映像アーカイブ上映会が秋田県公文書館であった。テレビが普及していなかった時代の映像は迫力満点、興味津々、興奮の連続で心は千々に乱れてしまった。特に30年代初期のハタハタ漁の映像には驚いた。「わっか網」という漁法で、直径1メートルほどの丸網で港内に入ってきたハタハタを手当たり次第にすくい取る。ほとんど子供の遊びのような原始的な漁法だ。「さよならランプ生活」は昭34年の鷹巣町の開拓村の風景。この時点で秋田県内の開拓地の3分の1にまだ電気が通っていないという事実にショック。昭和44年の「秋田農業大博覧会」は小畑知事の大潟村や秋田国体成功の論功行賞イベントだったことも映像からうかがい知ることができた。県政ニュース、もっと観たいゾ!

11月3日 この1週間ほど体調はあまりよくない。特に寝冷えがひどく朝起きても何となく頭がすっきりしない。風邪のひき始めのようなけだるさが上半身に残っている。昨日は寝具屋さんに行き、寝冷えの原因と思われる下敷きのマットを買ってきた。その際、店員さんに相談したら「羽毛布団の下に毛布を敷くのはダメ」ときつく言われた。羽毛布団は直に肌に触れないと保温効果が半減してしまうのだそうだ。今日は朝の10時過ぎまで惰眠をむさぼっていた。これも珍しい。体調が少し良くなったせいだが、起きてみるとやっぱり身体のだるさは残っている。

11月4日 エスタックイブという市販の風邪薬が効いたのか目覚めは「そこそこさっわやか」。危機を脱したかも。これが市販薬の効き目だとすれば侮れない。この2日間、散歩も外出も控え、おとなしく家と事務所の往復、もっぱらテレビで録画ビデオ三昧。録画ストックも少なくなってきた。もう2,3日、風邪が長引けば大変なことになっていた。何せこちらは古い映画やミニシアター系、ドキュメンタリーなどの偏ったやつが好み、見つけまでが一苦労する。どうしても検索機能のあるネット・レンタルに頼ることになる。そういえば珍しいことに、昨日は無聊をかこち靴磨き。ミズノのウオーキングシューズ2足をピカピカに磨きあげた。もしかすると日々の暮らしで何よりもお世話になり、なければ困るのは靴かもなあ。

11月5日 第153回直木賞を受賞した「流」を読む。賞をとった作品は基本的に読まない。ほとぼりが冷めてネット書店で1円になったころに読むケースはある。「窓際のトットちゃん」も「火花」も「海賊とよばれた男」も何一つ読んでいない。でも「流」は手に取ってしまった。選考委員たちが「20年に一人の逸材」と激賞していたからだ。どこがそんなに素晴らしいのか全く分からなかった。ありていにいえば面白くなかった。幼稚なリテラシーと笑われるかもしれないが面白さも爽快さも興奮も感じられなかった。これが正直な感想。同じバイオレンスを扱った「岸和田少年愚連隊」のほうが数倍面白く、ウエットもセンスもある。

11月6日 いまさら始まったわけではないが電話での本の注文が少ない。あのひっきりなしに電話が入っていた時代が懐かしい。電話に代わってメールやファックス注文が主流だが、やっぱり電話=注文という図式が昔の人間にはピッタリくる。メールやファックスはなんとなく内向的というか淡々と処理されてしまう脇街道のようなイメージだ。電話注文には「まいどありッ」という掛け合いが思わず出てしまう躍動感がある。でも、もうそろそろ電話が鳴らない日常に慣れなければいけない。電話で注文が入ってくる仕事の仕組みは世界的に消えつつある。でも人間の声で入ってくる注文は、なんだかうれしい。
(あ)

No.771

脱出老人
(小学館)
水谷竹秀

 サブタイトルに「フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち」とある。著者はマニラにある「日刊マニラ新聞」の記者で、マニラ在住11年。前作に『日本を捨てた男たち――フィリッピンに生きる「困窮法人」』がある。この作品も読んでいるのだが、今回はサブタイトルから受ける印象がかなり違っている。帯に「だったら、みんな連れてこいよ!」というフィリピン退職庁長官のコピーが載っている。要するに前作よりも移住邦人への厳しいまなざしが薄れ、肯定的な優しいまなざしに変わっているのだ。登場する邦人は「ナンパおじさん」に「大手企業サラリーマン」、「原発ゼロにあこがれて移住した夫婦」から「ごみ屋敷住まいの母を移住させた娘」「認知症の母を現地人に介護させる夫婦」など豊富だ。これらの取材者をゲットした時点でこの本は成功している。なかでも秋田県大館市の岩淵純一(66)夫妻のケースが面白い。秋田の冬の雪下ろしが嫌で、冬季間だけセブ島に移住を繰り返す夫婦なのだ。そのため面倒なビザも定住先も必要としない。この夫婦のケースを著者は最も評価しているようで、わざわざ大舘まで取材に訪れている。若い女性目的の移住であれ、著者は高齢化の進む日本の老人たちの不幸せよりはいい、という視点が徹底している。そこが本書の特徴というか到達点だ。柔軟な視点で、行き詰った日本で生きる高齢者たちに、エールを贈っている。

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