Vol.765 15年7月25日 週刊あんばい一本勝負 No.757


暗くよどんだ川の中

7月18日 取次の栗田倒産の影響だろうか、注文だけでなく出版関連の世界がこの数週間微妙な静けさ。やはり大きな影を落としているのだろうか。ずっと取次や書店に依存しない出版経営は可能だろうか、と考え続けてきた。いずれ本のプラットフォームはアマゾンやアップルがとって代る、と言われて久しい。そことも違う「もう一つの道」もあるのではないか。そこへいたる細くてヤブだらけの道を歩むためには、歩く側の装備や体力、予備知識の有無が重要になる。極力少人数で産直インフラを整備し、経済を担保する副業を持つ……。副業というのは本の売り上げだけに頼らない力というか発想のこと。「稼げる編集力」といってもいい。難しい「道」を登り続けることになりそうだ。

7月19日 山形県遊佐町にある笙ヶ岳に登ろうと友人と2人で出かけた。前日からの雨。午後から晴れ、の予想を信じ、登山口まできたが雨はひどくなるばかり。おまけに20度を切る寒さ。山頂での風や寒さを考え、無理をしないことにした。山形まで来たので、そのまま逆側に下り、酒田市へ。出羽柵と言われた「城輪柵跡」を見て、モンベルの店に寄り(秋田にモンベルはない)、いつも行く中華料理屋でラーメンを食べ帰ってきた。なんだかしばらく山に登っていない感じだが身体は夏バテ状態、このぐらいの頻度がちょうどいい。今月はもう山に行く予定はない。もう少し休んで秋の登山シーズンを迎えたい。

7月20日 今日は「海の日」。こんな休日があるのを忘れていた。3連休と言われても何も感じない。いつものようにパソコンの前に座わり、鼻くそをほじくっているだけ。やろうと思えば仕事らしきものは無数にある。でもなんだかんだ言い訳をつくって、どうでもいいようなことばかりで1日はあっという間に過ぎていく。休日は電話も来客もないので時間の過ぎるのが早い。ぼんやりしているうちに夕飯になり、晩酌でほろ酔い気分。最近は強力な「睡魔」が午後2時前後と夕方の食後7時前後に襲ってくる。体調というより年齢による自然現象なのだろう。最近はとにかく休日というだけで、なんだか疲れてしまう。身体や精神を休ませる特効薬は「仕事」が一番なのかも。

7月21日 月末というのは常識的には何日頃からを言うのだろうか。20日を過ぎると「やばいなぁ月末だ」という感覚になる。だから今日から月末が始まる。これは印刷所や銀行への大口の支払いが月末に集中する。長年その危機感に裏打ちされた感覚なのだ。いまはそうした返済はない。ないのにトラウマで今も月末は「大変」という危機感が消えない。手形も切らないし借金はしない。ローンは組まないし銀行とは距離を置く。こうしたスタンスでこの10年やってきた。このスタイルを変えるつもりはないのが、出版の未来は相変わらず暗くよどんでいる川の中。この商売を始めるころは想像もしなかった事態だが、これが人生。予測のつく人生なんて、どこにも転がっていない。

7月22日 お昼寝をするようになった。そのおかげで朝の目覚めが早くなった。30分ほど仮眠する予定で横になるのだが、ついつい1時間熟睡、モーレツに反省しても後の祭り。気持ちと裏腹に身体はちゃんと疲れている。やっぱり老化は目に見えないスピードで進行中。寝ようと思えば昼にもかかわらず何時間でもウトウトできるが、寝すぎると夜寝付けなくなる。悩ましい問題だ。いいこともある。寝付くまでの時間に読む読書量が明らかに増えた。新書本なら楽々1冊読んでしまう。眠くならないからだ。これなら小説もいけそうだ。寝る前に読む小説は途中で寝てしまうので、次の日続きを読むとき、前の日までのあらすじを思い出すまでが大変なのだ。

7月23日 夜半から雨。久しぶりの雨で気持ちがいい。恵みの雨だ。梅雨とは名ばかりで近所のため池もカラカラだった。もう数日、雨のない日が続けばメディアも大々的に騒ぎ始めていたにちがいない。それにしても昨日の暑さは尋常ではなかった。今日の雨は天気予報で分かっていた。だから昨日の暑さは「明日までの辛抱だ」と我慢が出来た。あの暑さの中を汗だくになって散歩したのも一日だけの暑さと知っていたためだ。今日は雨の中を山用レインウエアー着用で傘なし散歩。午後から雨は小降りになったが今日は許す。もっと堂々と降っていい。お願いだから。

7月24日 週末も山歩きはない。ほぼ1か月近く「山断ち」して疲労回復に努めている。夏の疲労は引きずる可能性があるから怖い。いい機会なのでダイエットも進行中だ。山に行くと「食いすぎ」で体重が増えてしまう、という事実はあまり知られていない。一方で仕事はあいかわらずバタバタ、外に出る機会が増えている。さらに夏休みに入ったせいか来客が多い。それも若い人や子供たちだ。宿題や生活学習、職場訪問といった目的で来舎するのだが、秋田では出版は珍しい職種なので、忙しさを理由に断るのも勇気がいる。そんななか月末には2本の新刊ができてくる。毎週来てくれるバイトの秋大生M君への依存は大きくなるばかり。
(あ)

No.757

きょうかたるきのうのこと
(晶文社)
平野甲賀

 平野さんは好きな、尊敬する装丁家だ。その人のエッセイ集だが本業の「装丁」そのものがテーマではない。デザイナーの身辺雑記エッセイである。平野さんには過去2冊の本を装丁してもらった。自分の『力いっぱい地方出版』(晶文社)と成田三樹夫著『鯨の目』だ。個人的には4,5回お会いしている。ご自宅が神楽坂の出版クラブの真ん前なので、その近辺でお姿をお見かけしたこともある。ところが最近、東京を引き払い四国の小豆島に移住した。そのことを知らせてくれた友人から、この本を紹介されたのだが、全く知らなかった。パソコン1台あればどこでも仕事はできる、と考えての決断のようだ。平野さんの独特の手書き文字は「コウガ・グロテスク」としてフォント・アプリが売られている。そのフォントを購入した印刷所ならば見出し文字などに平野さんのフォントを自由に使うことができる。が、私のつきあっている印刷所で平野フォントを持っているところはない。こうなれば自分で買うしかない。そのうえデザイナーに委託し使ってみようか、と思っている。平野さんの文字は独特でインパクトが強い。そのため汎用性が限定的だ。買ったとしてもうまく使いこなせるだろうか悩んでいる。デザイナーとして有名な平野さんだが、今も黒テントの劇場経営など、サブカルチャーの運動にも積極的に参加するアグレッシブな行動人でもある。

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